『追風』




自分の恋人がヤクザだと知ったのが、この間。
そしてヤクザにぼこぼこにされているのが、今。
このギャップの差はなんだろう。
ついこの間までは幸せだったのに。
二股をかけてしまっただけなのに。
口の中で鮮明な鉄の味がする。気持ち悪い。
私は青くたんこぶの出来た顔を上げた。
もう霞んで2,3人いた連中の姿もまともに見えない。
「なんだぁ・・・、俺に謝る言葉はねーのかよ。」
「すい・・ません・・・。」
「その態度がむかつくんだよぉっ!!!」
また殴られた。
私が謝る度にこの連中は私の体を蹴る。
もうそろそろ骨が折れてくるだろうか。
立つ気力も無くなって。
動き気力も無くなって。
起きている気力も無くなって。
私は地面に倒れた。
でも耳だけは嫌に新鮮に聞こえる。
「はっ・・・。おい、てめぇら、こいつ倉庫にしまっとけ。
 売りに出すぞ。二股かけてたとはいえ、かなり上物だからな。」
「わかりやした。」
「担げ。」
売られるのか、私は・・・。

気づけば倉庫に手足を縛られていた。
上にぶら下がっているランプが薄暗く照らす。
オレンジ色の光が私の血を消す。
このまま私はお偉いさんにでも売られて、奴隷にでもされるのだろうか。
それとも臓器として売られるのだろうか。
頭の中が真っ暗になりそうだ。
先程から聞こえていたのだが、足音がどんどん近づいてくる。
しばらくして足音は倉庫の前で止まった。
ギィッという音が倉庫内に響く。
私よりも少し小さい影がきょろきょろと倉庫内を見回している。
影がどんどん近づいてくる。
どんどん・・・。
どんどん・・・。
やっと来たかと思うと、そこには真っ赤な髪の毛をした女が立っていた。
年齢的には二十歳だろうか。
燃えるような髪が眩しい。
「うわっ! あんた・・・大丈夫?
 随分殴られてるわね、血が出てるよ。綺麗な金髪が台無しだよ。」
女は私の体をいともたやすく担ぎ上げると、そのまま倉庫を出ようとした。
私は慌てて女に何しに来たのか問うた。
「え、ウチ? ウチは泥棒だよ。
 ヤクザの所にこそたくさん宝があるからね。
 危険だけど、やめられないし。
 また良い宝が手に入ったしねー。」
「良い宝って?」
女は驚いたように私を見た。
思わず私も驚いた表情になってしまう。
「わかんないの? あんただよ。
 ウチはあんたのその金髪に惚れた!
 あんた、どうせ行く宛ないんでしょ?
 さすがにヤクザは外国にまでは来ないでしょ。
 ウチの家、フランスにあるからさ。
 そこでウチの助手でも良いからやってよ。
 パスはウチがなんとかするし。」
勝手な・・・。
私はそう思いつつ、素直に頷いた。
本当にそれしか行く宛がなかったし、なんとなくこの女に引かれたからでもある。
私たちはすぐに女の乗ってきていたバイクに乗り、さっさと日本を後にした。
私は傷が回復した後、すぐに女の下で泥棒の勉強なるものをしていた。
いくつか仕事をこなす内に、私たちは堅い信頼関係が芽生えた。
そして結婚した。
子供も出来た。
たぶん将来は泥棒だろう。




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