八犬伝特集
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■感想
「ゴジラ-1.0」以来の映画館。久しぶりの大音響に酔いしれた。
面白かった。絶賛。というほどではないけれど、楽しめた。
あえて苦言を呈するなら、最終決戦で、もう少し派手なアクションシーンが見たかった。
昨今の役者に往年の時代劇のようなチャンバラを求めるのは酷かもしれないが、「るろうに剣心」ぐらいのアクションシーンはあってもよかっただろう。
というのも、薬師丸ひろ子、真田広之主演の「里見八犬伝」を観ているからだ。
この「里見八犬伝」に関しては色々書くことがあるのだが、それは別の頁にゆずる。
乗馬シーンはあるし、千葉真一、真田広之、志穂美悦子といった日本のアクション界を牽引したスター総出演だし、監督が深作欣二とくれば、当然だ。当時の映画界で、これ以上何を望む?
余談だが、私は時代物で乗馬シーンがあると、評価が何割か増してしまう。それも演者がちゃんと馬に乗り、疾走するシーンがあるとなおさらだ。逆にカメラワークで乗っているように誤魔化したものは、興ざめしてしまう。ちなみに乗馬シーンの最高傑作はTVドラマ「影の軍団」に出てくる、馬体に隠れて移動し、いきなり現れ攻撃するシーンだ。
そんなこともあって、アクションシーンに関してはマイナス。
全体としては、比較的原作に忠実に映像化されていたものの、渡辺崋山が幕府に逮捕される場面がない。
原作では、反体制派の渡辺崋山が、幕府に逮捕されてしまう。一方馬琴は幕府からの発禁処分をおそれ、政治的な内容を八犬伝に書かなかった。
このあたりも入れて欲しかったのだが、それは時間的に無理だろう。
それから、原作を読まないとわからないが、馬琴の孫は幼くして亡くなってしまう。しかしこれは馬琴の死後のことなので、映像化する必要はないが、原作を読んでいると、なんともやりきれなくなるエピソードなのだ。
逆に原作では簡単に描写されてしまう最終決戦が、しっかり描写されていて好感をもてた。アクションシーンに不満があったのはすでに書いたとおりだが。
村雨をめぐる話、信乃と浜路の恋の行方、特徴ある八犬士たち。馬琴の息子の死、お路の口述筆記などは、原作をすでに読んでいたので、おさらい程度で、それほど驚くことも感動することもなかったが、中盤は少し、ウルっときた。どのシーンというわけではないのだが、個人的な八犬伝に対する懐かしさからかもしれない。
否定的な感想ばかり書いてしまったので、ここからは褒めておく。
八犬伝最大の見せ場である芳流閣での決闘は、小説では得られない映像の面白さが満載。
信乃をとらえるための綱が、見事にワイヤーアクションとして機能していて、物理法則に則った見事なアクション。
瓦が落ちるシーンも詳細に描かれ、見ごたえ充分となっている。
「里見八犬伝」で夏木マリが演じた玉梓を、本作では栗山千明が見事な悪女ぶりを好演。船虫にいたっては、「里見八犬伝」と遜色なく、同一人物が演じているのではないかと思う程の出来である。
ここからは、私の個人的な本作に関する思いを書いておく。
本作は2024年の10月に観たため、公開から1週間も経っていない。
こんなにすぐに映画館に足を運んだのは、公開終了を危惧したからだ。
通常、映画は1か月公開される。しかし不人気で客が来ないとなると、別の作品に差し替えられてしまう。
和製ファンタジーの傑作「八犬伝」の実写化とは言え、時代劇が衰退して久しい昨今、時代劇を映画化して、どれほどの集客が期待できるか疑わしい。まして、馬琴の話がメインになっていれば大ヒットは望めない。
というわけで、急ぎ映画館に足を運んだわけだが、本作に関しては、もうひとつ理由がある。
何年も前に閉鎖したブログで本作の原作、山田風太郎の「八犬伝」のことを書いたからに他ならない。
そのブログの中で「この原作の実のパートを映像化すれば、そこそこ面白いものができるのではないか」
と書いたのだ。
本作の製作者が、そのブログを読んでいてかどうかは不明(実際は、鬼滅の刃人気に便乗した。というのが正解だろう)だが、そんなことを書いた手前、どんな作品に仕上がっているのか気になり、映画館に足を運んだ。というわけだ。まさか、虚のパートまで実写化されるとは思っていなかったけれど。
思えば高校生のときに出会った原作が、数十年経って実写映画化されるという、その感慨に浸っていた。というのが率直な感想だ。