堂上が風呂から上がってきて、バスルームから部屋に戻ると。



「郁、課題はできたか?」



―――郁は机の上に突っ伏して寝入っていた。



「おい。郁。郁」



連日の試験勉強で疲れたのだろう。
かなり強く揺さぶっても郁は起きなかった。



仕方ないな。
最近随分がんばっているから、今日はこのまま眠らせるか。
何せこの考査を逃すと、三正への昇格への道は遥か険しいものになると柴崎に脅される様に発破を掛けられているのだ。
業務の隙間時間や食事中でさえ手帳を片手にブツブツ法令規則を呟いている。



堂上は郁を抱きかかえベッドに運んでやった。
外泊付きとは言え試験勉強の息抜きを兼ねてのデートだったのだから、まあ仕方がないか。




一体いつからだろう?
郁が愛おしくてたまらない。
まだまだ子供だ。性急に愛情を求めても、郁は逃げるだけだろう。
そんな風に思っていた時期も過ぎ、ずっと深い関係になったというのに。
残念だと思う気持ちよりも、こうして寝顔を見ているだけでも十分愛おしくて満足している自分がいる。



ぐっすり眠る郁の髪をなでながらそんなことを考えていた。



すると突然、



「きょーかん、大好き」



え?今何を言った?



堂上は郁を覗き込んだ。
郁は布団の端を抱きしめながら、幸せそうな顔でむにゃむにゃと口を動かしながら眠っていた。



そうか、そうか。



思わずにやけてくる顔を引き締めようとしたその時、


「きゃー柴崎愛してるー!!」


抱きしめた布団に顔をすりすりした郁がそこにいた。






「―――なんでお前はそう、俺を落とすのが上手いかな」




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