「大したことじゃないとか言うな!」




スカートの中に手を入れられ、直接肌を触れられることが、大したことないと言うのなら。
どこまでされたら、大したことだと言うんだお前は。





どんなに身体を鍛えていても、性別の違いがそう簡単に埋まるわけもない。
怪我を心配して掴んだ足首は男のものとは違い、細く華奢で、自分の手に余った。
グルリと回った指が、自分の指に重なる。
「―――きょかん?」
躊躇いがちに向けられる声と視線。
足首を掴み、動きを封じている『部下』は女だ。
彼女は圧倒的に『女』だった。
それを一瞬にして知覚した。



俺の中で、彼女は『宝石』で。
誰にも触れられないよう。
そう、しまい込んだ俺さえも触れられないよう、厳重にしまい込んだ『宝石』だった。
触れられなくても、箱の中に入っているだけで、満足すべき存在だったはずなのに。
現実に現れた彼女は、簡単に触れられる場所にいる。
そして、そんな彼女に触れられる『男』は俺だけじゃない。
俺じゃ、ない。



輝石のようにまばゆい光を放つ彼女は多くの『男』を魅了する。
今はまだ何も知らない彼女も、いつかは『男』を知る時がくる。
俺だけの『宝石』だった彼女は、いつか誰かの『女』になる。



彼女を一番最初に見つけたのは俺なのに。



―――俺が!





他の誰かに奪われるくらいなら、いっそ―――。







指が回る華奢な手首。
惜しみなく晒されたしなやかな脚。
細くしなやかで、けれどどこかまろみのある身体は『男』とは違う骨格を持つ『女』の身体。
掴んだ手首をそのまま壁に縫い留める。
「きょ、かん―――?」
戸惑いに濡れる声を無視して、自分と壁の間にその細い身体を閉じ込める。
細く長い睫がフルリと揺れるのが確認できる。
「きょうかん」
漏れる吐息を熱く感じるほど近く。
目の前に晒されるほっそりとした白い首筋。
煽情的に覗くデコルテ。
小さく咽が鳴る。
「―――笠原」
酷く掠れた声が漏れる。



―――これに女を感じるほど飢えていない?



―――なわけあるか!



俺にとってこいつは初めから―――









「―――って、何をしとるか貴様は――――っ!」



自分で自分を怒鳴る声で目が覚めて、思わず頭を抱え込む。
このところずっとこんな調子だ。
それもこれも、アイツがあんな野郎に―――俺だって、まだ―――ってまだって何だまだって!
邪心を払うよう、図書分類法を暗誦する。
落ち着け!落ち着け!揺らぐな!揺らすな!!
何がそうさせるのか、考える必要はない。知る必要はない。
ガチャン!と殊更意識して、内に秘めた箱に鍵を掛け直す。






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