日々の業務をこなし、それなりに慌ただしい日常を送っている内に11月ももう終わろうとしていた。
そんな時、堂上自身意識の外に置いておいた、「次」のチャンスがやってきた。






「教官」
あの、と定例の夜の呼び出しの最中、郁が恥ずかしげに俯きながら、もじもじ両手の指を絡めながら切りだす仕種を可愛いなと眺めていた堂上は、続く言葉に「ああそうか、ソレがあったか」と思わず笑った。ちょっと目から鱗だ。



「もうすぐ、教官の誕生日じゃないですか。あの、何か欲しいものってありますか?
 ほ、ホントはこっそり用意するべきなんでしょうけど、ど、どうせだったら、教官が一番欲しいものあげたくて」
もにょもにょと恥ずかしさで真っ赤に染めた顔を俯かせて、なんとか言葉にする郁の顎を持ち上げ、軽く唇を重ねる。
ひゃっと可愛らしく反応する郁の髪を耳に掛けながら、今度はしっかり顔を固定して唇を合わせる。
薄く開いた唇に舌を差し込めば「んっ」と郁の口から甘い声が漏れる。
差し込まれた堂上の舌の動きに応えるように、郁もその舌に自分のものを絡ませる。今なお恥じらいはなくなっていないが、おどおどとたどたどしい動きだったものは今では随分としっかりしたものになっている。



「ん―――ふぁっ」
激しい口接に唇が離れた瞬間郁はカクンと膝から崩れ落ちそうになり、しっかりと腰に回された腕に体重を預ける。
「も、いきなり、どうしたんですか」
はぁっと甘い吐息を吐き、潤んだ瞳と上気した顔で見上げてくる郁の額に軽く音を立てて唇を落とした堂上は笑う。
「―――きょうかん?」
「まぁ、ちょっとした礼だ」
「礼?」
きょとんとした表情の郁にもう一度笑みを零し、ポンと頭を叩く。
そろそろ門限の時間だと堂上が郁の腕を引けば、郁が慌てて声を掛ける。
「ちょっ!だから、教官、何か欲しいもの!」
「あー。後でな」
「後って!」
もーっ!と頬を膨らませて追いかけてくる郁に堂上は笑う。






「それに関しては当日な」
「当日って、そんな困る―――あっ!・・・あのっ」
ツンとジャケットの裾を引っ張る郁を振り返れば、郁は俯いたまま固まっていた。
「郁?」
「あ、あの、それって、もしかして」
「うん?」
「お、お泊り的な?!」
両手で堂上のジャケットを掴み、特攻をしかけているかのような顔で言う郁の姿に堪らず堂上は吹き出す。
「ちょっ!なんでそこで失笑ーっ?!」
「いやいや。そーいうとこに答えが行きつくなんてお前も成長したよなーと」
「何ですかそのバカにした言い草は!」
「バカにしてるんじゃなく、相変わらず可愛いな―と」
「かわっ・・・!もうっ!騙されませんよ!」
「騙すとか。本音しか言ってないぞ、俺は」
「それはそれで性質が悪いって言うんですーっ!」
もうやだぁー!真っ赤にした顔を両手で覆い、逃げ出すように寮に戻る郁を笑いながら堂上は追いかける。





悩みは過ぎて、堂上の気持ちはすでに固まっていた。
今の関係に不満があるわけではない。けれど、それだけじゃ満足ももうできないのも事実だ。
自分から動かなければ何も変わらないのなら、動くしかないじゃないか。
それで引かれるようなら、その前に腕を掴めばいいだけだ。
堂上にはもう郁のその手を離してやる気はさらさらないのだ。
















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