いい夫婦の日。というわけで、仲のいいバカ夫婦。
※夫婦の間に子供がいる設定です。名前等は出てきません。
※タイトルで分かるようにシモい話です。
※本番部分は載せてません。
















「はい、行ってらっしゃい」
夫婦揃っての平日の公休日。子供を学校に送り出し、それぞれに分担された家事を終えたら夫婦の時間だ。
先に台所の片付けを終えた郁がソファーに座り、なんとはなしにつけたテレビからはワイドショーが流れている。
そこに洗濯を終えた篤が郁の隣に座り、置かれた手に自分の手を重ね、そっと甲を撫でる。
なぁに、と顔を向けた郁にキスを贈れば、郁も身体を寄せてくる。キスをしながら、互いに相手の服に手をかける。
子供が出来てからは、子供が登校し家に不在となる昼間が夫婦の営みの時間だ。
お互い下着姿になったところで、テレビから流れる情報に動きが止まる。二人して画面に釘付けになる。

―――増える熟年離婚
―――マンネリ化防止が円満の秘訣


離婚なんて、考えられないが。
「―――努力は必要だよな」
子供が出来てからは、どこかセオリー化している気もする。
そういう惰性がいけないのだろう。
ここは一度、新鮮さを求める時期にきているのかもしれない。




どこか真面目な二人は下着姿のままソファーの上で正座で向かい合い、議論を開始した。





「確かに最近ソファーで、っつーのが多いよな」
家事がひと段落した昼間。なんとなく揃ったリビングでそのまま、というのが最近の流れだ。
これは確かにマンネリ化の始まりかもしれない。
「えっと、じゃあベッド行く?」
こてん、と首を傾げて提案する郁に「後でな」と篤は返す。
郁からのお誘いは全て乗るのが礼儀だが、今はちょっと置いておく。それじゃあ根本的な解決にならないからだ。
「そもそも官舎って時点で新鮮味ないだろうが」
「そっか、そうだよね。うーん・・・でもだからって昼間から外はなぁ」
「当たり前だろう!つか、だいたいアレは暗がりだから燃えるんだろうが」
「え?そういうもん?」
「そういうもんだ」
男の人の燃えどころっていまいち分かんない、と思いながらも、夫の言うことに間違いはないと思いこんでいる郁は、篤の言葉に「そっか」と頷き流される。




「でも、屋内はもうだいたいしてるよね。ホテルも、場所が変わるだけだしねぇ」
目新しいトコロ、どこだろう。と郁は首を捻る。
官舎のみならず、庁舎内においても同様だ。長い間、郁専用となっていた特殊部隊庁舎内の女子更衣室は、着替えも置ける上、浴室もあることからラブホ代わりのヤリ場として恒常化したし、それより回数は減るが、庁用トイレや会議室に書庫など、出来そうな場所は網羅した気がする。
もうその時点で一般的ではないのだが、既にデフォルト化している二人にしてみれば新鮮味に欠けるといった具合だ。





「―――郁」
「ん?何?」
「実はな、一箇所だけ。ヤりたいと思ったことがあるが、ヤってない場所がある」
「どこ?あ、電車とかバスとかはヤだからね!」
「誰がんなとこでするか!」
ゴツンと郁の脳天に鉄拳が落ちる。
「いった!!もー、なによッ、痴漢プレイみたいなことはしたことあるじゃん!」
デートの移動中、サワサワと何度、スカートの中に不埒な手が忍びこんできたことか。もちろん、その場でそのまま、と言うことはなかったが、駅近くのホテルや、我慢できない時はトイレで、ということはある。
ジト目で睨む郁に、篤がバツの悪い顔をして誤魔化すようにゴホンと空咳をする。
「―――そうじゃなくて、だな」
あー、と僅かに言い辛そうに篤が口を開く。
「―――俺の部屋」
「篤さんの?」
ハテナ、と郁は首を傾げる。
「してるじゃん」
初めて、堂上家の篤の自室で押し倒された際には『初めて』ゆえに郁が困惑や怯えを見せたため、致すことはなかったが、一線を越えた後のデートでは休憩所代わりに堂上家に立ち寄り、当たり前の様にしていた。両親が共働きで、妹も実家を出ている堂上家は日中家族が不在なことがほとんどのため、ほぼヤりたい放題なのだ。
今更?な顔をする郁に「そっちじゃない」と篤は苦笑する。
「ウチじゃなくて、男子寮の方だ」
その言葉に郁はなるほど、と頷く。
「ああ。確かに。そこはないね。あたしの方と違って、篤さんとこ行くのは難しかったし」
入隊時から飲み会後の郁の専属タクシーとなっていた篤は郁を背負って女子寮に入ることは難しくなく、それが3年も続けばほぼフリーパス状態だ。柴崎不在の夜などは、ほろ酔いで擦り寄って甘える郁をベッドに寝かせるついでに食ったりしていた。アルコールが入った郁は感度もよく、大変可愛らしく自制なんかきくはずもなく、郁もまた気が大きくなり大胆になるからたまらない。
「―――寮は、やっぱりドキドキしたよね」
「その割には結構大胆だったけどな」
「ぅっ、だって、それは・・・お酒、入ってたし・・・興奮、もするし・・・」
日常生活の舞台が、一気に非日常の空間へと変わる瞬間がたまらなかった。もしバレたら・・・そんなスリルと共に高まる官能。ベッドの上で普段は我慢するなと言われる声を敢えて押し殺させられることもまた普段とは違う行為でいっそうの興奮を産んだ。
「なんつー顔してんだ」
苦笑混じりの声にハっと郁は意識を浮上させる。
「すげーヤりたそうな顔してんぞ」
「なっ、そんなっ・・・ことっ!」
ない、と言い切りたかったが、あの頃を思い出し、身体の奥から昂ぶってしまうのは紛れもない真実だ。




「だからさ、俺も一回お前を自室に連れ込んでヤりてぇってのはあったんだよな」
「そうなの?」
「そりゃ普通に妄想するだろ。つか、実際それで抜いてたしな。
 ま、実際はリスク、つかわざわざ連れ込む必要性なかったから実行はしなかった、ってとこだな」
男子寮に相手を連れ込み、というのは実はさほど難しくはなく、珍しくなかったりする。基地近くにそうした施設がないというのも理由の一つだろう。連れ込みルートは脈々と受け継がれていて、寮生内では黙認事項だ。
ただ、篤の場合、寮内の自室に郁を連れ込む必要にない環境にあったため、結局寮室の利用優先順位が落ち、結果として経験することなく終わったというだけの話だ。機会があればヤってた。
「なぁ、郁。いい機会だから、俺の夢叶えてくれないか」
「え、でも・・・」
郁の言いたいことが分かったのだろう。堂上は大丈夫だと頷く。一体何が大丈夫だと言うのか。既に色々大丈夫ではなくなっている。
「俺の後に入った奴が、もうすぐ結婚で退寮することになるんだ」
「ナイスタイミング・・・」
「まぁだから、思い出したんだがな」
篤もまた苦笑で返す。
退寮して既に結構な年数が経つ。寮生活のことを思い出すことも少なくなっていたが、その後継の後輩から結婚する旨を聞き、そう言えば、と思い出した次第だ。
「寮に入ること自体はさほど難しくないしな」
「そうなの?」
「ああ。
 だから―――いいか?」
甘えるように聞いてくる顔に弱いんだよなぁと郁は微笑む。
「いいよ。あたしも、篤さんの部屋入ってみたかったし。
 ―――篤さんの匂いが残ってないのが残念だけど」
「後で好きなだけ堪能させてやる。
 郁は?なんかないのか?」
「あたし?あたしは特にないかなぁ」
そもそもそうした知識は夫によって植えつけられている郁だ。独自の発想はそうすぐには生まれない。
「コスプレ、とか??」
ありきたりと言えばありきたりだが、そんな言葉に思いのほか夫が乗ってきた。
「コスプレか・・・。
 郁、お前中学ん時の制服ってブレザーだったか?」
「ううん。セーラーだったよ。なんで?」
「……見たい」
「へ?」
「実家に残ってないのか?」
「あ〜、どうだろ。あ、写真だったらあると思うよ」
「いや、写真じゃなくて」
「え?」
「じゃあ、郁はセーラー服だな」
「は?」
「だから、コスプレ」
「ちょ!無理無理!!もうそんな格好できない!
 ってか、中学ん時の制服とか入らないから!せめてブレザー!」
「ブレザー姿は既にヤったし、妄想でも大概した!」
「ちょっ!何妄想してんの!サイテー!!」
「仕方ないだろ!そんだけインパクト強かったんだから。責任取れ!―――って、取ってるな」
あの時の女子高生は、既に生涯の伴侶だ。



「だいたいなぁ。そう言うお前だって、俺の事『王子様』っつって」
「わー!わー!!今言う?!それを!!
 じゃあ、篤さんは王子様らしく式典服着てよね!」
「分った」
「は?」
ポカーンと見る郁に、篤は口の端を上げて言う。
「式典服な。その代わりお前はセーラー服だからな」
自分の欲望に忠実な篤は、あっさりとその条件を飲んだ。
「―――え?本気?」
目を丸くする郁に「じゃあすぐ用意しないとな」と篤は、ソファーから下りてネットを立ちあげる。
それよりまず服を着ろ!と的確な指摘が出来る人間は残念ながらその場にいなかった。







「郁、これとかどうだ?」
「ちょっ!ピンクとかっ!」
笑いながら見せられた画面に、郁は噴き出す。画面に移るのは真っピンクのセーラー服だ。明らかに一般向けではない。
「しかも、お腹出てるし!もーやぁだぁー!」
「いろいろあるな」
「もー!真面目に探してよー!」
ポコポコと肩を叩いて抗議する。
いつの間にか乗り気になってるあたり郁もまた単純だ。
結局選んだのは無難に郁が中学時代に着ていたものに近い紺のセーラー服だ。曰く、リアリティは大切だよな、ということだ。
カチっと注文ボタンをクリックし発注を終える。


「じゃあ、次の公休は男子寮な」
「はーい」
「寝室行くか」
「だね」


そして、寝室に移動した二人は昼間から濃密な時間を過ごしたのだった。





――― 合体! ―――










そして迎えた翌公休日。


「―――って、こんな簡単に侵入できていいの?!」
「まぁ言うな」

あっさりと、男子寮に侵入を果たした郁は呆れ気味に呟いた。
侵入経路は至って単純。外階段、非常口から目的の階まで登り、後は中から手引き者が扉の鍵を開けて男子寮内部への侵入は達成される。
フード付きのパーカーを羽織り、先を歩く篤の後ろを付いて目的の部屋に入る。途中、数人の隊員とすれ違ったが、特に何か声を掛けられることはなかった。既に退寮している篤が歩いているのに、だ。
―――男って。
思わぬところで見た、男性隊員の結束力に思わず呆れる郁だ。


けれど。
キョロキョロと郁は興味深そうに部屋を見渡す。


「ここに篤さん住んでたんだよねー。
 こんな簡単なら、一回くらい呼んでくれたらよかったのに。
 飲み会とかさー」
堂上班―ただし笠原は除く―な部屋飲みの話を聞く度に羨ましがっていた郁だ。
ぷくっと頬を膨らませて抗議する郁に、すまんすまんと軽く笑った篤がポンと頭を撫でる。
「今日はその分しっかり男子寮室堪能するんだから!」
そんなトンチンカンな方向にやる気を見せる郁にまた笑う。
「ほれ。とりあえずあっちで着替えてこい」
持って来た小型のボストンバックの中から取り出した制服を渡すと、動きを止めた郁が僅かに頬を染めてコクンと頷く。いつまで経っても初々しい反応を忘れない可愛い嫁だ。
簡易シャワー室に消えた郁を見送り、篤もまた取り出した真っ白な式典服に袖を通す。


「―――郁?まだか?」
キュっとネクタイを締めながら扉に向かって声を掛ければ、カチャリとドアノブが回る音がして、オズオズと郁が顔を出す。
「あの、やっぱ・・・無理がある、気がする」
「―――なことないぞ!」
清楚さを見せるシンプルなセーラー服に、スカートから伸びる引き締まった脚を映えさせる紺のハイソックス。
それが大人の色香を漂わせ始めた郁が身に纏うギャップの視覚的効果は抜群だ。
「すげー可愛いし、色っぽい…」
「ほんと・・・?
 あ、篤さんも、カッコイイです、よ。
 ほんとに王子様みたい」
夢見がちなところのある郁はこの倒錯的な雰囲気にすっかりと飲まれた様で、ポゥっと頬を染めて目の前の夫を見る。
まるで本物の女学生の様な雰囲気を纏った郁に、篤がふっと笑った。


「いいぞ。今日だけは『王子様』って呼ぶの許してやる」
「ぇ?きゃっ、あ、篤さんっ!」
いきなり腕を引かれ、そのまま床に引き倒された郁は、目を丸くして犯人を見上げる。
「―――王子様、だろ」
「おうじ、さま」
一気に倒錯的な世界に引き込まれていく。



「ぁっ…!だめっ、そんなっ…あぁんっ!おーじさまぁッ・・・!」





――― 合体! ―――







普段とは違う非日常的な行為は、マンネリ化していると思いこんでいる夫婦二人を激しくモエ上がらせたのだった。
























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