日々の生活をおろそかにしてまで感情に溺れるほど、互いに子どもではないから。
そうなると、いくら同じ屋根の下で生活していようとも、常に隣に居ることは難しい。
でも、そうはいっても、いつだって触れ合いたい。そう思うのは当たり前の感情だろう。





特に予定のない公休日。
郁はリビングのテレビの前に座り込み、「少林サッカー」とやらのDVDを見ている。前回の飲み会でおっさんたちが真似をしようとしていた元ネタとなった一昔前に上映されたものだ。郁の知らない映画だったため気になっていたようで、さっそくと言わんばかりに借りてきたのだった。
―――頼むから、次の飲み会で混ざってくれるなよと貸出手続きをとる郁の後ろで堂上はこっそりと思った。それでも止めないあたり堂上の嫁への甘さが出ている。

少林寺拳法とサッカーの融合というぶっ飛んだスポーツ映画に盛り上がる郁。その後ろのダイニングテーブルで堂上はノートパソコンを開いていた。班長である堂上には業務用端末の持ち出し権があり、業務の持ち帰りが係員よりも手続きが楽になっている。つまりそれだけ業務量が多いということでもあるのだが。
寮員の時代は、寮室には他の寮員の出入りもあったこともありセキュリティーの問題から持ち帰ることなく庁舎での残業をしていたが、官舎に移ってからは業務内容によっては、庁舎での残業よりも自宅への持ち帰りを選ぶことが多くなった。その理由は言わずもがな、というやつである。


来サイクルのシフトのひな型に目途も付き、堂上は少し休憩しようと思い立ち上がり、キッチンへと赴いた。
冷蔵庫の中から作り置きしている水出し紅茶をグラスに注ぐ。
堂上は、冷たい紅茶が入ったグラスを手に郁の隣に座ると、ちらと視線を左に流した。
郁はソファの上で体育座りをし、自分の肩を抱くように腕を組んで、画面に見入っている。
ストーリーを追わずとも郁の表情を見ていれば大体の流れが掴めるくらいに、郁の表情は変わってゆく。
堂上にとっては、そんな郁を見ている方が楽しい。
少しすると、今まで体勢が窮屈になったのだろう。郁が足を床に下ろし、両手をソファに付いた。
その右手にふと触りたくなって、堂上は自分の左手を伸ばした。
指が触れた瞬間、郁はかすかに身じろいだけれども、視線は相変わらず画面を向いたままだ。
ほんの少し、DVDに嫉妬する自分がいることに気付いて、堂上は思わず舌打ちしそうになるのを誤魔化すように紅茶を一口煽る。
自分の方を向いて欲しくて、郁の手の甲を撫ぜ、指を撫ぜ、上から重ねるように指先を絡める。
「郁」と一言声を掛ければ済むことではあるのだが、それでは意味がない。
郁、郁。
指先だけじゃ足りないんだ。






堂上が仕事を持ち帰っていたから。
邪魔しちゃいけないと思って、郁はリビングでDVDを見ることにした。
音量は小さめに。ついでに身体も小さく体育座り。
話が半分ぐらい進んだところで、堂上が立ち上がりキッチンへと向かった。
ちょっと面白い場面だし、すぐまた仕事に戻るだろうと思った郁は、そのままDVDを見続けることにする。
けれど、こういうときに限って郁の予想は当たらない。
堂上が郁の隣に座る。
ごめん、篤さん。今ちょうど白熱した試合のシーンなんだ。
心の中で謝って、郁は画面に集中する。
ふと今までしてきた体育座りが窮屈になってきて、郁は足を床に下ろし、手をソファに投げ出した。
不意に堂上が郁の手に触れてきた。
触れられた途端、映画の内容なんて頭に入ってこなくなる。
いくら平静を装ったとしても、それは装っているだけ。
堂上は、郁の手の甲から指を滑るように撫でて、そのまま被せるように指を絡めてきた。
一言名前を呼んでくれれば、篤さんのことを振り向けるのに。今更向くのは気恥ずかしい気がして。
篤さん、篤さん。
指先だけじゃ足りないよ。







少し困ったように笑いながら郁が堂上を見た。
そして、繋いだ手をそのままに身体を堂上に寄せると、堂上の膝の上に跨った。
空いている左手で堂上の頬に触れると、郁はゆっくりと唇を堂上の唇に重ねる。
離れては近づいて。
堂上の左手が、郁の背中を撫でる。
繋いでいた手が離れ、郁の右手は堂上の首へと回り、堂上の右手は郁の腰を抱く。
映画の主人公の発する言葉が頭上を越えていく。もう、何も耳には入らない。
そっと唇を離して視線を交わすと、郁は「…バカ」と囁いた。




このままじゃ足りない。

キスだけじゃ足りない。



























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