「おかえりなさい!篤さん」
一日イベント業務だった郁は、通常の事務処理をしていた堂上よりも先に帰宅をしていた。
「―――おい」
出迎えた郁の頭にはふよんと真っ白なうさ耳が乗っていた。
視線に気づいた郁が伸びた耳に触れながらヘヘと照れくさそうに笑いながら「イベント頑張ったご褒美だって貰いました」と理由を述べた。
「今日のイベントの内容話すなら、この格好した方がより伝わるんじゃないかって」
エヘヘと相変わらず堂上の好みドンピシャの顔で笑う郁の頭の上で誘うようにうさ耳が揺れる。
スーツにうさ耳もアレだったが、普段見慣れている素の郁の方がより一層その可愛さは増すように思われる。しかも部屋着の下はショートパンツなので、その脚線美を惜しみなく露出するサービス付きだ。
思わず「おい」と突っ込みたくなるのも仕方のない格好だ。
それきり反応の返らない夫に郁が思考を斜めに飛ばして慌てる。
「あ、や、やっぱり官品を勝手に払い下げるの、問題でしたか?!あ、でも、これ消耗品だからって柴崎は言ってて」
あわわわわどうしようと慌てる郁に、また柴崎か、と堂上の顔が渋る。
家に帰ってまであの魔女めの掌で転がされるのは面白くない。面白くない、が。だからといってそれを理由にこの状況を無かったことにするのはそれはそれで勿体ない気がするのは哀しい男の性だ。
―――毒を食らわば皿まで、だ。
今更灯ってしまったものを無かったことにできるほど堂上は聖人君子ではないのだ。美味しそうな妻の前では特に。

不安そうに視線を緩ませる郁を安心させるようにポンとその頭に手を乗せ小さく笑ってやる。それはどちらかと言うと舌舐めずりする狼を思わせる笑みであったのだが、気付かない郁はホッとしたようにフニャリと笑う。


「ところで郁。お前イースターバニーがなんなのか知ってるか?」
「生命や復活の象徴でしょ?」
イベントをするにあたりその辺りの基礎知識はちゃんと抑えているのでエッヘン!と胸を張って答える郁に堂上は「そうか」と笑って一瞬にして抱き上げる。ビックリして目を丸くする郁に混乱で暴れる前に更に質問を重ねる。
「じゃあ、ウサギは性欲が強いことで有名だってことも知ってるよな?」
「え?」
「そこからからセックスシンボルとしてバニーガールがデザインされたってのも、勿論知ってるよな」
「―――え?」
恐る恐る見上げた夫の顔は爛々と輝いていた。
「ということは―――分かるよな、奥さん?」
「え?ちょっ!
 ぎゃ、きゃぁあああああ!!」
遅れて理解した内容に脳が正常に働いた時には既に寝室のドアは開けられた後で、逃げ出そうともがくよりも先にポーンとベッドに放り投げられた郁は―――あとは、お察し下さい。というある意味御約束の展開を迎えたのだった。












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