キン、と冷えた空気が郁を眠りの淵から引き揚げた。
空気の入れ替えの為に薄く開けていた窓を締め忘れていたのだろう、凍えるほど冷たい風が吹き込んでくる。
フルリ と小さく肩を震わせ、郁は温もりを求めて布団の中で身を寄せた。



初冬の訪れを肌で感じて、郁は小さく笑んだ。



冬は好きだ。
透明感のある空気は澄んで気持ちが洗われる感じがする。
そして凛とした夜の空気の中では星空が綺麗に見える。
真っ白な雪に包まれた白銀の世界だって綺麗。



それになにより、冬のこの寒さがいい。
単純に寒いのが好きなわけじゃなくて。
寒いけど暖かい・・・そんな冬が好き。



だって、寒いという理由で素直に身を寄せることができるから。
他の季節だとこうはいかない。
だって、恥ずかしいじゃないの。
それが「寒い」という理由があるだけで、その恥ずかしさを隠すことができる。
だから冬は好きだった。





ああ。でも、これは少し寒すぎるかも。



郁は苦笑して、窓を閉めようと冷えた床に足を下ろす。
まだ朝日が昇るまでには時間がかかりそうで、もう一眠りは出来る時間帯だ。
これだけ冷えた空気が充ちているのなら、換気はもう必要ないだろうし。
寒さで彼が目を覚ましたら大変だ。
多忙を極める彼には出来る限りゆっくりと休んでほしいから。
サイドテーブルに畳んでおいたカーディガンを肩に引っ掛けて、音をたてないようにそっと窓を閉める。
なんだか一仕事やり遂げた心地で、少しばかり満足げな気分でベットに戻ると、寝ているはずの夫の手が、妙な動きをしているのに気がついた。



「・・・篤さん?」
そっと呼びかけてみるが堂上は目を開けず、きゅっと柳眉を寄せたままパタパタと手を動かす。
そう、パタパタ、と。
その動きは何かを探しているようで。



ぱたぱた。
ぱたぱた。



動く手に比例して、眉間のしわは深くなっていく。
心配になって郁は身を乗り出して、堂上の顔を覗き込む。
手をついたところからキシリとベットが沈む。
瞬間、郁が小さく悲鳴を上げた。


「―――きゃっっ!!」



ついた手を掴まれ、抱え込まれ、更に頬に押し付けるようにされてしまって。
それは、もう「起きてるんじゃないの?!」と思わせるほど的確なもので、郁を赤面させるには十分なものだった。
けれど、郁を抱き込んだままそれ以上堂上は何か行動を起こすような気配はなく、表情は和らいでいた。
堂上の表情が和らいでいることに、郁はホっとする。

が。



(寝れるわけないじゃないの!!)




夫のことは大好きだし、そんな彼に抱きしめるのも嬉しいけれど。
ああ。けれど!
大好きで、嬉しくて。
だからこそ、恥ずかしい。
心臓がバクバクと弾けそうなほど恥ずかしい。





幸せそうに眠る堂上を起こすのは、何時も躊躇してしまうのだが。



(だめ!これ以上はあたしの心臓がもたない!)



起きた時に、堂上の腕の中にいて。
「ぅ、きゃぁぁぁあああ!!」
なんてことは、あるが。むしろほとんど毎日のことだが。
意識のある状態で、このまま寝直すなんて、そんなことできるはずがない。



郁は弱弱しく、けれど、かなり必死に堂上の名を呼ぶ。




「篤さん。篤さん。ねぇ、篤ったら・・・」




けれど、堂上から返ってくるのは静かな寝息のみ。
郁はもぞもぞと身じろぎし、腕を伸ばして一向に目覚めない堂上の頬を軽く叩いた。




「ねぇ篤さん。お願い。起きて」
「・・・・・・ん」
ぺしぺしと叩かれるのが嫌なのか、堂上はふいと顔を背けるが起きだす気配はまるでない。

―――戦闘職種としてどうよコレ!!

すーっ、とか聞こえる寝息に少々困りつつ、郁は視線を彷徨わせる。




実際、郁は困っていた。
寝ぼけた堂上の声は少し掠れていて、少し舌足らずで―――。
つまり、「色」があるのだ。
その声で、「・・・ん」とか言われたら調子が狂ってしまう。
寝ているときにまで色気があるなんて、反則だ。



(ああ、もぉお!どうすればいいのよぉ!!)



「篤さぁん・・・。お願いだから、起きてよぉ・・・」
表情を満足げに緩ませて、健やかな寝息を立てる堂上に郁は切実な思いをこめて呼びかけ続けた。


















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