女子寮の皆から「結婚祝い」として称して贈られた箱を前に、郁は緊張した面持ちで正座し、ふぅっと気合を入れるように息を吐き、ガバっと蓋を開け、そして瞬時にバタンと閉めて両手で押さえる。
―――いやムリっしょ!!
むり、むり、むり!と郁は箱を手で押さえながら、泣きそうな顔で頭を振る。そして振った瞬間にコロンと魔女のような親友の言葉が落ちてくる。
―――「いい?笠原。これは試練よ。新妻は誰しも一度通る道なの。いわば新妻の登竜門!コレを乗り切ってこその真実の愛ってもんよ」
ゴクリ、と息を飲む。
―――そう。そうよ。ここで逃げてどうする!
パン!と両頬を叩いて気合を入れ直す。
―――ここで逃げたら女が廃る!・・・廃るほどの女はないけどもっ!!
自分の言葉にまた挫けそうになるが。
―――篤さんを信じないで、誰を信じるって言うの!!
偏に愛する夫の愛を信じ、ていっ!と箱をブン投げ捨て、そして意を決してそれを身に纏う。


そして。


―――これは、敗戦濃厚!てか離婚必至じゃないの?!


フラリ、と思わず気が遠くなる。実際半歩ほどふらついた。


―――柴崎や毬江ちゃんみたいな美人や美少女なら、ええ!そりゃ目の保養でしょうよ!つかこんな試練なんて不要なシード枠でしょうよ!でも!こんな大女のこんな格好誰が喜ぶってのよ!!

いや、だからこそ、自分にはその試練が必要なのかもしれないが。
いや、しかし、これは無い!完全にアウトだ!視覚的暴力だろうこれは!!


姿見に映し出された己の姿に郁はガクリ、と膝をつき項垂れた。



―――うぅ・・・なんて儚い結婚生活だったんだろう・・・。


いや、そもそも結婚なんてできただけでも奇跡だ。
沢山の夢をありがとうございました。
そして、その夢もどうやら終わりのようだ。

グスンと鼻をすすり、郁はフラフラとした足取りで玄関に向かった。
そろそろ最愛の旦那様が帰宅する頃合いだ。
正座して、玄関ホールに額づく。土下座待機だ。





しばらくして、ガチャリと玄関の鍵が回される音が郁には最後の審判が開始される合図に聞こえた。










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