ひょこ、とキッチンの柱から頭だけ出してリビングを覗く。求めた夫の姿はソファで読書中だった。
手にしているのは、この前買ったばかりの当麻先生の新刊だろう。
文字を追う横顔は真剣そのものだが、勤務中のような眉間に皺はない。
ヨシヨシ。
小走りで側に寄って、ラグに座る。
もてあましてるみたいに組んだ足にもたれてその顔を見上げる。
篤さんの顔をこうして見上げるのが好きだ。普段から見上げれるわけじゃない。
そしてこうして見上げることが許されているのは私だけの特権のようで嬉しい。


「どうした?」
「片づけ終わったんで、休憩です」
「なんで床?」
「なんか落ち着くんで・・・ダメですか?」
「いや、別に俺はいいんだが。脚痛くならないか」
「だいじょーぶですよ」

膝に頬を乗せて、ごろごろと懐く。
「お前は猫か」
呆れたような声を洩らしながら、逞しい指が優しく髪を梳いてくれる。
片手はページを捲って、視線も文字を追ってるけど、全然構わない。
音にならない笑いが降ってくる。伝染して頬が緩む。
時折大きな手が髪にもぐって、手のひらで頭の形をはかるみたいに。すごく気持ちよくて。
身体の中からじわ、と溶けていきそうな感触。
瞼が落ちて、深く呼吸する。
すごくすごく、気持ちよくて―――


―――ずるり。



「―――びっくりしたっ」
「それはこっちのセリフだアホウ!!」
ズルリと頭が滑り落ちる感覚に一気に目が覚めた。
まさかこんなところで授業中に居眠りをして、肘が机から落ちてしまうような感覚に遭遇するとは。
ヒヤっとした感覚に、心臓が跳ねる。まだバクバク言ってる。



「俺の反射神経に感謝しろ」
「・・・・・・スミマセン」
咄嗟に伸ばしてくれたのだろう、夫の逞しい腕が背中から回って身体を支えてくれていた。
おかげで床に顔からダイブせずにすんだようだ。
ほぅっと安堵の息を吐いたところに。
一つ溜息が降ってきた。
反射で「怒られる!」とヒャっと肩を竦めたが、拳骨は降りてくることなく、グンと身体を引き上げられた。


「きゃっ!」
引き揚げられた先は夫の膝の上で。
そのまま読書を続行する彼の腕の中に閉じ込められた。
「あ、篤さんっ!」
「まったくお前は。おちおち本も読んでられん」
「あ、あのっ」
「寝るんならここにしとけ」





―――眠気も何もかも吹っ飛びました!!







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