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知り合いからの頼みで数日間飼い猫を預かることになった。 ので、動物好きの親友を家に呼んだ。 ら、カメラ携えた馬鹿父子も付いてきた。 ―――まぁ、ある意味想定の範囲内です。 「きゃー!かわいいーモコモコさんだぁー!! こーんにちはっ!」 怖がらせないようにか、小さくしゃがんだ郁が視線を合わせて声をかければ人懐っこいその猫はミーと鳴いて顔を擦り寄せてきた。 「きゃーかわいいー!!」 抱き上げるとゴロゴロと鳴いて顔を撫でつける。 「見てみて、ホラ!かわいいーよ」 猫と顔をくっつけた郁がニコリと笑って見せると、カシャカシャカシャと響くシャッター音。 「ああ。確かにそうだな」 「うん!可愛い」 満足げに笑う堂上父子。 「篤さん達も抱っこする?」 「いや、俺は見てるだけで充分だ」 「有馬は」 「呼ばれたのは母さんなんだからさ、まずは母さんが遊ぶべきだよ」 「そお?」 きょとんとして笑った郁はじゃあ遠慮なくと柴崎から借りた遊び道具を手に猫とじゃれる。 床に寝そべりながら、目の前で猫じゃらしを振る。お腹を見せながら顔の前を横切る猫じゃらしにパシ、パシと猫パンチを繰り出す姿にキュンキュンとなる。 「あーもーかっっわいいぃ」 『そうだな!』 そんなやり取りを繰り返す三人を麗しく聡明な手塚母娘は生温い笑みでもってして見つめる。 ―――いや、あんたら。 「郁。郁。顔こっち向けろ」 「はーい」 猫と視線を合わせて寝そべっていた郁が、頬杖をついて顔を上げる。ふわりとした笑みにまたシャッターが下りる。 ―――被写体ぜったい猫じゃないでしょう。むしろ猫見切れる勢いでしょうが! 手塚母娘の脳裏に廻った想いは正しくその通りだが被写体を愛でる堂上父子の知ったこっちゃない。 曰く。 「可愛いと思ったものを撮っていたら、それがたまたま郁だっただけだ!」 「母さんはいつだって可愛いけど、猫と戯れる母さんは家じゃ見れないしな!」 である。 ひとこと言わせてもらうなら―――お前ら大概バカだろう。だ。 ホクホク顔でデータを確認する有馬のデジカメを麻陽が覗き込む。 「――――――」 「ほら、これとかマジベストショット!」 黙りこむ麻陽を気にすることなく、有馬は自慢げにデジカメを掲げにんまりと笑う。その中身は案の定、だ。 「―――うわぁ、見事に郁ちゃんだらけ」 「猫もいるだろ猫も!」 「添え物程度にね」 おそらく父親のデータも似たり寄ったりなのだろう。良くも悪くも似た者同士の父子である。 残念な色の溜息をついた麻陽の視線の先には、猫を膝に抱いてくつろぐ郁とそれを優しく見つめる堂上の姿がある。 部下の家だろうがなんだろうが、お構いなしのラブモード垂れ流し状態だ。 二人の世界に入りすぎて、その姿を柴崎に撮られていることに気づきもしない。大丈夫かプロ戦闘員夫婦。 「こーいうの見ちゃうとペットいいなーって思っちゃうよね。 篤さんも昔、犬飼ってたんだよね。犬もいいよねー犬も。 官舎だと小動物で要相談なんだよね」 「―――飼わんぞ」 「えーなんでー。チワワとかトイプーあたりなら大丈夫かもしれないじゃん。 それにちゃんと世話するよ」 「だれがそんな話をしとるか」 なんというか、拾ってきた捨て犬を飼いたがる小さな子供とそれを反対する親のような会話だが、子ども役が郁だからかその光景に違和感がないのはどうなんだ、と麻陽はこっそりと思う。 「あのな、別にお前が世話しきれんとか言う理由で反対してるんじゃないし、官舎だからってわけでもない。 よく考えろ。奥多摩の訓練が入れば夫婦揃って家を離れるんだぞ。その間家事を任せてる有馬に全部負担がいくんだぞ。 それにウチは訓練だけじゃなくて、出張も多くて夫婦そろって家を空けることは多いし、有馬だって部活の遠征で居ないこともある。 そしたら「家族」以外に預けざるをえんだろうが。そんな中で飼ったら、飼われるペットも可哀そうだと思わないか」 「そっか。・・・そうだよね」 ごめんなさい、とシュンとなる郁に堂上は小さく笑って「謝ることじゃないから落ち込むな」とコツンと軽く額を叩く。 「ペットは退官してゆっくりできるようになって考えような」 「うん」 「―――で、ホントのところは?」 「え?そんなん、ペットとか飼ったら母さんが全力で可愛がって世話するだろ? そしたら母さんが俺らを構う時間が圧倒的に減るし! だから、こうやって人んちのペットを愛でる母さんを愛でるのが一番いいに決まってんじゃん!」 「―――ですよねー」 ―――この父子マジガチすぎるわ。 |