議題:【笠原郁の早期退職について】





賛否両論あろうとは思いますが、私の中で(現実的に考えて)笠原郁が定年まで特殊部隊の隊員として働くこては難しいと思っています。だって女だもの。
女性が体力面で男性に劣るのは差別でもなんでもなく事実で、歳をとればとるほどそれを努力でカバーするのは難しくなるものと思います。
体力面で劣り、なおかつ加齢とともに持ち味の駿足も若い隊員達に劣るものとなるでしょう。
そんな彼女が果して特殊部隊の一員としてどれだけ役割を果たせるのか甚だ疑問です。そして彼女は後方支援向きとも言い難い。
原作での教官の言葉を踏まえれば、最終的に三正から二正あるいは一正に昇進するでしょう。
ぶっちゃけると、それだけの階級もってて現場で使えないとか、定員的にどうよ、としか言いようがない。だって、郁ちゃんどう考えても指揮官向きではない・・・。
破天荒だけども、玄田隊長にはクレバー性があったので隊長としての責を負えたのだと思う。
其れに比べて郁ちゃんはね・・・うん・・・。後先考えずに飛び出すのは長としてはいただけない性格だと思うし、とっさの場合にそれを抑えられるとは思えない。・・・郁ちゃんだもの。
というわけで完全に現場戦闘員向きなわけですが・・・。
正直、若いころと同様に動けるかと言えば・・・無理でしょう。
そして現場の上司に対する見方は、かなりシヴィアです。人員に余裕がなければないほど、余計に。
そういう人が上にいると現場の下っ端は「あいつ使えねぇ」ってなって、そういう人から上から指示されるとイラァとなって雰囲気がねぇ・・・。
―――っていう実録。
そういう目で郁ちゃんは見られて欲しくないなぁ、という過保護。


そして図書隊と良化隊は衝突を重ね、消耗を重ね、いずれ消滅に向けて縮減体制に入るでしょうし、あたしはそれを願っています。
だって、図書隊と良化隊の争いって冷静になってみれば表現の自由を掲げてはいるものの中身をみれば国民同士の殺し合いでしかない。しかも公務員同士ってすごくない?まあ、フィクションですが。
それにしたっていまだかつて内乱罪が成立したことがないような平穏な国がモデルの世界で、国の機関と地方の機関が適法上殺し合いをしているという恐ろしさ。まさに戦争。平和主義どこいった。
勿論、この図書館戦争の世界でも現実世界でも綺麗事を言ったところで、国や地方にはそれぞれのメンツがあり、セクショナリズムが無くなるとは思いませんし、思えません。
なので図書隊VS良化隊の構図が完全になくなることはないでしょう。
ただ、争い方が肉弾戦から頭脳戦に変わるものと思います。
そうなると、台頭してくるのは柴崎が属する情報部であり、戦闘メインの防衛部は衰退するでしょう。
当然、防衛部には人員削減の嵐が吹き荒れるはずです。
なにせ、一番金がかかるのは人件費です。コスト削減にもっとも有効なのは人件費の削減です。
カツカツの予算で運営している図書隊が、使い道の減った防衛業務に今まで通りの予算を下ろすとは思えません。
そんなギリギリの人員の中で、現場で取り立てて成果の上がらない階級が上の人間、つまり平隊員より給料が上の人間は図書隊にとって有益だろうかと考えた時、あたしの答えはNOです。
笠原郁には他の男性隊員にはない「女」という武器もありますが、これも若い時にしか使えない武器です。
だって、40、50過ぎてごらんなさい。教官にとってはいつまで経っても可愛い奥さんかもしれないけど、そんな歳の女性なんて、世間的にはオバサンであり、あるいはババアであり、最悪クソババアに格下げされます。そんなババアが生き餌になるとは思えません。当然その役は次第に若い子たちに取って変わられるでしょう。原作で防衛部志願の安達の存在が出てきたことで、女性防衛部員としての笠原郁の唯一性は無くなりました。
なので、そうした後輩を使えるように指導し、現場に出せるほど育てた段階で特殊部隊員として笠原郁だからできる仕事はなくなったと私は解しています。

それを踏まえての当家では郁たんを早期退職させた次第でござい。

そういう前提での話になりますので、「郁ちゃんは最後の最後まで図書隊で働くんだい!」って方はお控頂いた方が賢明かと・・・。


大丈夫な方は   へ






































































































我が家の愛犬の名前はリキと言う。名付け親は母さんだ。
名前の由来は、思い入れ深いカミツレの花言葉―――“苦難の中の力”から「力」をとってのリキらしい。
そんなリキは仔犬の頃、愛護センターで母さんが一目惚れしたのをきっかけに我が家にやってきた。
黒い毛並みのミックス犬でなかなかに精悍な顔つきをしている、というのは飼い主の欲目かとも思うが、そもそも初対面時の母さんの第一印象が「だって篤さんに似てるなって思ったの、この仔!」なのだから、我が家基準の「かっこいい」枠に入るのは間違いないだろう。
母さんの感性を否定しないのは我が家の鉄則だ。



父さんが特殊部隊の隊長に就任し、そして母さんが退官したのを機に我が家は図書隊の官舎から近くの一軒家に引っ越した。
仕事好きな母さんのことだから、当然に定年まで働くものだと思っていたので母さんの早期退職は俺や父さんにとっては意外なものだった。
それに苦笑したのは母さんだ。
「そりゃ、本音を言えば仕事はいつまでたっても続けたいとは思うよ。
 けど流石にもうこの歳になったら前線は走れないからね。だからって後衛向きでもないし。
 そろそろここらが潮時かなって思ってはいたんだよね。
 図書隊はあたしの自己満足のために存在してる場所じゃないし。
 変にしがみ付いても周りの迷惑になるだけだしね」
辞職の話を隊に切り出した際、図書館員への転換の話も出たらしいのだが、母さんはそれも断った。
自分の能力が戦闘分野に偏っていることを分かっていたからだ。
「そういう人間がいきなりトップに来ても反感買うだけだし、あたしもちゃんとした指導ができる自信はないしね。
 それにお飾りのトップを置けるほどウチに余裕がないのは知ってるし」
決して私欲に走らないのはウチの母さんの数多くある美点の一つだ。
母さんが言うことはもっともで、入隊以降女性初の特殊部隊員として直走ってきた母さんは常に女性防衛部員のトップランカーであり続けた。結果として母さんは一正まで昇級した。
そんな母さんが入れるポストは限られている。まさかその階級の人間を平のポストに置くわけにはいかない。配属先で即責任者としてのポストを与えられるのは必至だ。
その責任に見合った仕事が出来ないと判断する限り母さんはその話を受けはしない。そういう人だ。
「下の世代も育ったし、何も特殊部隊に居座ることがだけがあたしの仕事の全てじゃないしね。
 あたしが見たい光景は篤さんの見る世界だし。篤さんとは同じ人生を歩んでるんだから、それに関しては置いて行かれる心配もないし。
 これからの仕事は隊を背負うことになってますます忙しくなる旦那さんを支えることかな、なんて思ったり?
 だって、それはあたしにしか出来ないお仕事だし」
なーんて、とエヘヘとはにかんだようにテレながら笑う母さんに父さんがブワワっと感極まっていたのはある意味御約束だ。


そんなわけで両親ともに前線を引いたということが引っ越しに至るきっかけではあったが、実際のところ一番の理由は「いつか犬とか飼いたいなー」と言っていた母さんの希望を叶えるためだということはある意味我が家では御約束な流れだ。
そして引っ越してから、愛護センター主催の譲渡会に参加し、リキを迎え入れるに至ったというわけだ。


主にリキの躾を担当したのは、犬の飼育経験がある父さんだ。
かつて愛妻をして「鬼教官」と呼ばれたその手腕は伊達ではなく、おかげでウチのリキは家族のコマンドをどこでも基本的に良く聞く良犬になった。
その躾期間中あまりの父さんの熱心さに当てられた母さんがうっかり父さんを「堂上教官」呼びしてしまうほどのものだといえば、そのスパルタぶりがおわかりいただけるだろうか。おかげでリキの隣で母さんも「俺はいつまでお前の教官なんだ!」とガミガミ怒られていた。
とは言え、父さんがリキの躾に熱心になるのは、それもそのはず。
「これから郁が一人で過ごす時間が長くなるんだ。番犬が必要だろう」
という相変わらず母さんに対してド過保護な父さんだ。退官したからと言って母さんはいわゆる素人ではないのだが、父さんにはそんなことは関係ない。
おかげでウチのリキは番犬としてかなり立派に育った。


ただ父さんにとって誤算だったのは、リキがあまりにも「堂上郁の番犬」として立派に育ち過ぎたということだろうか。



ウチの両親は何年経ってもお互いに対する想いの熱が冷めることはなく、今なお新婚同様と言うよりも付き合いたてのバカップルのような仲の良さだ。
ただ、それと同様に些細な夫婦喧嘩も相変わらずよく起こす。
そして、リキが家に来てから母さんの家出先はリキのケージの中になった。


ケージの隅で丸くなる母さんを守る様に、リキの黒い巨体がその前に横たえられている。
「―――郁、出てこい」
「―――いやっ!」
その声に抵抗するようにぎゅっとリキにしがみ付いた母さんが、リキの背中から顔を覗かせ父さんを睨み上げる。
「・・・俺が悪かった。反省してるから、出てきてくれないか」
「―――・・・いや」
溜息をついた父さんがケージを跨ごうとすると、母さんが身を縮こませてぎゅっとリキにしがみ付くように抱きつく。そして母さんに頼られたリキは威嚇するように身を低くして牙を剥き出しにして唸る。
「―――それは俺のだと何度言えば分かる、リキ」
地を這う様な怒気ばかりの父さんの声にもリキは怯まず低い唸り声を上げる。


リキは賢い犬だと思う。家族の中の順列をきちんと理解し、自分の役割も分かっている。
家族に良く慣れ、コマンドも理解し聞き入れる。ボールなんかを追いかけて飛び出しかけても「Come!」の一言で素早く戻ってくる。それぐらい家族の命令には忠実だ。
特にコマンドを仕込んだ父さんをリーダーと認め“基本的”には父さんの指示に歯向かったりしない。―――基本的には。
ただ、世の中の事象のほとんどに例外がある様に、我が家のリキにもまた父さんの指示を受け入れない場合がある。
それがこれだ。
一番最初にリキを抱き上げたのが母さんだからか、一番長い時間を過ごすのが母さんだからか、それとも我が家の中で最優先されるべきことは母さんであることを理解しているからか。
リキもまた我が家の一員らしく、母さんの事が大好きだ。それはもう、大好きだ。
そもそも躾をした、群れのリーダーたる父さんが母さんのことが好き過ぎて、リキの躾も「郁の為」という思いが強すぎたためか、リキは立派な堂上郁第一主義の番犬となった。
母さんを害するものはなんであれ許さない。―――たとえそれが、リキにとってリーダーたる父さんであっても、だ。


「Be quiet!!」
短く鋭い父さんの声にも、リキはグルルっと低い唸り声を上げ続ける。
一触即発。
まさにそんな雰囲気だ。父さんがあと一歩でも動けば、リキは迷わず飛びかかるだろう。


それを止めるのは、我が家で真実ヒエラルキーのトップにいる母さんだ。


「リキ、だーめ。Noよ。落ち着いて、ね?」
宥める様に母さんが背中を撫でれば、リキは渋々といった風に唸りを止め、威嚇を解く。
「よしよし、良い子。GoodBoy」
顔の周りをぐしゃぐしゃと撫でてやれば、リキがクゥンと甘える様に鳴き、母さんの顔につやつやとした鼻面をぐいぐいと押しつける。母さんはそれにまた笑って、よしよしとリキを撫でる。
それが気に入らないのが父さんだ。
「リキ!」
その声に、母さんがリキを庇うように首元に腕を回し、ぎゅっと抱きしめながら父さんを睨み上げる。
「リキに八つ当たりする様な篤さんなんて嫌い」
ぐっと父さんが息を飲む気配がする。


しばしの沈黙。


先に折れたのは父さんだ。―――知ってた。


威圧的にケージの中を見下ろしていた父さんが、ケージに手を付き、力なく膝を折る。


「・・・なぁ、郁。俺が悪かった。
 リヨンのシュークリームを買ってきたから、一緒に食べよう。
 それで、仲直りとしてくれないか」
なぁ、とケージの向こうに居る母さんに懇願する。


「―――・・・リキを叱らない?」
「・・・叱らない」
「―――次したら、篤さんと離婚してリキと結婚してやる」
「しない。だから、離婚するとか言わないでくれ」
「―――・・・篤さんが約束してくれたら、言わない」
「もうしない。
 だから、―――出てきてくれないか」
父さんの押しの懇願に、母さんがコクンと頷き立ち上がる。併せてリキも立ち上がる。
母さんの顔を見上げ、ピッタリとHeelの態勢を取り、ケージに近づく母さんにリキも付いてくる。
腕を伸ばした父さんが母さんの腕を取りそのまま抱き上げ、リキのテリトリーから母さんを奪い返す。そうしながらケージの外に出ようとするリキを止める。
「リキ、お前はStayだ」
抗議するように、リキが「ワン!」と軽く吼える。
それでも、両親の和解を知ってか、大人しくペタンとその場に伏せる。ウチのリキは賢くて空気も読める良犬だ、マジで。



母さんを腕の中に取り戻した父さんが、僅かに顔を顰める。
「―――リキくさい・・・」
「リキくさいって」
苦虫をかみつぶしたような父さんの表情に母さんがプっと吹き出す。
「愛犬とは言え、お前が他の匂い付けてるのは、むかつくんだ」
仕方ないだろ、と父さんがバツの悪い顔を隠すように顔をそむける。
そしてそれを阻止するように母さんが笑って父さんの首に腕を回す。
「だったら、あたしがリキに浮気しないように、もっと優しくしてください」
「―――・・・分かった」


犬も食わない様な夫婦ゲンカのいつもの終着点に苦笑して、俺は壁に掛けてあるリードを手に取り、リキを呼ぶ。
「リキ、Come.散歩連れてってやる」
その声に、パタパタと尻尾を振りながらリキがケージを飛び越えやってきて、俺の足元に大人しく座り、リードが付けられるのを待つ。



―――あとはごゆっくり。












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