年末年始の準備に追われ、大人たちが忙しなく動く12月。
けれど、年頃の少年少女たちにとって、大人たちのそんな忙しさなどどこ吹く風。
それよりも大切なことがあるのだ。

そう、クリスマス。である。

恋人たちにとって最大級の祭典であるクリスマスをいかにして過ごすか。
それが彼ら彼女らにとって12月、いや、1年で一番の最重要案件である。
多宗教が入り混じるゆえに無宗教国家である日本の多くの若者はクリスマスが、本来は「イエス・キリストの降誕を祝う日」 なんて知ったこっちゃない。
幼い頃は欲しいおもちゃが貰える日であり、思春期を迎えた今は好きな人と過ごすためのイベントである。
聖夜どころか性夜バッチコイ!なアホウな者どもは残念ながら少なくない。
そして、そんな彼らはステキなクリスマスを迎えるために必死である。


「堂上ー!24日さ、学年の有志が集まってクリスマスパーティするんだけどさ、お前も来ないか?」
「パス」
「はぇえよ!」
「つーか来い!」
「パスだって言ってんだろ」
人の話聞けよ、と呆れ顔で返す有馬に、クラスの男連中はなおも必死に食らいつく。というか、拝み倒す勢いだ。
「神様仏様キリスト様、いや堂上様!」
「頼む堂上!俺たちを助けると思って、此処は一つ頷いてくれ」
「フルで参加しなくていいからさ。途中参加でも途中退席でも、いっそ一瞬顔出すだけでもいいからさ」
「―――だが断る!」
「おまっ、どんだけ友達甲斐のない」
「だから、その日一日フルで予定入ってっから無理だっての」
「まさか彼女か!」
「これだからイケメンは!」
「くたばれイケメン!」
「ぃようし、お前らまとめて表出ろや!」
『さーせんっした!!』
指をバキバキ鳴らす有馬を前に言い寄っていたクラスメイトは一斉に一歩引いて謝罪した。
校内随一のイケメンとして知られる有馬の両親は揃ってバリバリの戦闘職種であり、息子本人も運動神経は人並み以上に良い上、幼い頃から両親の同僚である屈強な戦闘野郎共から遊び感覚で武道と言うか無差別格闘を指導してもらっているため、そこらの素人さんじゃ到底敵わない腕っ節の持ち主でもある。
表情豊かで人好きする顔や性格ではあるが、売られたケンカは躱さず、真っ向から迎撃し撃破するタイプだ。
戦闘職種家系ナメんな!とはケンカを売られた際の有馬の談である。実際負けたことなどない。



「だいたいなんでそんな必死なんだよ。野郎増えてもムサイだけだろうが」
「バカ!お前一人入ったら、女子が寄ってくるからに決まってんだろう」
「いうなればお前は撒き餌だ!」
「そしてお前によってきた女の子たちを俺たちがパックンチョだ!」
「―――つか、お前ら俺目当てで嵩増しされた女子とか虚しいだけじゃねぇの?」
自意識過剰と言われるかもしれないが、自分の見た目がヒエラルキーのどこに位置するのか有馬は既に自覚している。
官舎であったり、もはや自宅の一部レベルで馴染んでいる図書館において幼少期から今に至るまでアイドル扱いであるし、同じような官舎住まいのお姉さまや若い女性図書館員からお誘いを受けることは幾度もあるし、学校関係の付き合いの中で人並み以上に被告白経験、しかもその相手がこちらが認識していない程度の薄い付き合い、あるいは一方的に顔を知られているだけの全くの初対面であれば、自ずと自分の容姿の価値は分かろうというものだ。
しかも己を魅せることに長けた某美魔女は母親の親友である。
そしてそんな魔女から顔面偏差値の高さはそれだけで武器になると、その顔は利用されるのではなく利用しなさいと言われて育った有馬だ。
その魔女の助言に従う訳ではないが、利用できるもんは利用するというのが有馬の心情であるからして、イケメンと称される自分の容姿を認識し、利用している。
もっとも今のところは、良く知りもしないで人を見た目で判断する、中身が空っぽの女を片っ端から切る便利ツール扱いであるが。
有馬にとって容姿と言うものは二の次だ。
―――やっぱ大事なのは中身だ中身!
今なお有馬にとって理想の女性像は実の母親である。
―――まあ、ウチの母さんは中身だけじゃなくて、見た目も平均以上に可愛い、マジ天使だけどな!
ついでに言うと、父親も平均以上に格好いいと思っている息子馬鹿である。
それでもそんな可愛くて格好いい両親にとって、それぞれの一番は容姿ではない。
「(中身が)カッコ良くて、真っ直ぐなところ!」であり、「(中身が)可愛くて、真っ直ぐなところ」である。
それから「勿論見た目もカッコイイけどね!」であり「まぁ、性格に負けず劣らず見た目も可愛いけどな」と惚気バリバリだ。
それでも一番好きなところを容姿に限定したところで、顔の造形は一番に上がらないところが堂上夫妻だ。
「やっぱり掌かなー。あの掌で頭ポンされると、それだけで元気になる魔法の掌なの!あ、でもおっきな背中も頼りがいがあって好きー!だから時々飛びつきたくなっちゃうんだよね」
「そうだな、言うならば、あの真っ直ぐに伸びた背中だろうか。凛とした立ち姿は何よりも綺麗だと思う。それでいて時々凛とした中にもどこか儚げな雰囲気を持つ背中を見るとアイツは俺が守ってやらなきゃいけない女だと思う」
言ってしまえば何であれ「篤さんだからカッコイイ」のであり「郁だから可愛い」のだ。まぁ何を聞いても結論は「篤さんが好き!」で「郁が好き」に繋がるバカ夫婦なのだ。
そんな二人を一番間近で見てきた有馬にとって、大事なのは中身!なのはある意味当然の流れと言えた。
だから自分に見た目から興味を持った女に、有馬は一切の興味を抱かない。
ただ、それはあくまで自身の偏った嗜好であると理解する有馬は、いわゆる今時の若者のテンションが理解できないわけでもない。

恨みがましい目で見られ、有馬はひっそりと溜息をついた。

「あーもー。判った。だったら今度女バスの奴らに話付けて合コンでもなんでもセッティングしてやるよ」
「マジか!」
「流石堂上様!」
「抱いて!」
「死ね!」
『で、それはそれとして』
「あ?」
「頼む!今回のクリパは参加してくれ!」
「だから、なんでそんな必死なんだよ。合コンはセッティングしてやるっつったろ」
「じゃあ、その合コンに麻陽さんを呼んでくれ!」
「ああ?」
思わずガラ悪く語尾が上がる有馬である。
「なんでそこで麻陽が出てくんだ」
「今度のクリパ、麻陽さんも誘ったんだけどな」
「『ごめんなさい。ウチ、そういうの親が厳しくって。あ、でも有馬が行くなら大丈夫かも』って」
「なんだそれ!お前は麻陽さんの何なんだ」
「ただの幼馴染ですが、それが何か」
「麻陽さんと幼馴染とか・・・くっ」
「しかも親の信頼得ているとか」
「このイケメン!」
「くたばれイケメン!」
「ぃようし、お前らまとめて表出ろや!」
『さーせんっした!!』
平身低頭で謝る友人らの姿に有馬は内心で某美魔女の娘に「あのクソ女狐!」と中指をおっ立てる。
同学年でさん付けで呼ばれている段階で幼馴染の校内の位置づけは分かろうというものだ。
けれど、どれだけ神格化されていようが有馬にとって麻陽はただの幼馴染であり、それ以外でもそれ以上の存在でもない。


「もうこの際口約束だけで、当日予定が入ったとかでドタキャンでいいからさ!」
「ぜっっっってぇい・や・だ!!」
口先だけの約束とか誰がするかバカ野郎!
そんな守る予定の無い約束を口にしたら最後、あの魔女の娘によって母親に密告されるにきまってるのだ。
そして、純真で嘘や謀りが苦手な有馬の母は、それを知ったら傷つき悲しむに違いないし、そんな母を心底愛している父親からしこたま怒られるのだ。
何より、両親を心から敬愛し、二人の自慢の息子であることが何よりの誇りである有馬にとって、そんな両親から「友人に簡単に嘘をつく息子」なんてレッテルを貼られるとか―――あり得ないっつーの!!

「どんだけ言われても行かねえっつたら行かねぇ!!」
「なんでだよ!」
「だいたいなぁ。俺が行くっつったところで、あの女は行かねえよ!!」
『―――は?』
「だーから!アイツは俺が行かないこと知ってて、態の良い断りを入れてんだよ!!」
そもそもにして手塚家が娘の外出に五月蠅いなんてこと、生まれた時から一緒に居る有馬は聞いたことがない。
確かに誤解されそうな容姿はしているが、そこは魔女の娘である。勘違い野郎を躱す術はいくらでも持っている女だ。
そう、シラっと幼馴染を盾にするのを躊躇しないくらいには。
あのアマァ!!
再度有馬は、高笑いをする魔女の娘に向かって中指を立てる。
他の野郎共からどれだけ女神扱いされていようが、有馬にとって麻陽はただの幼馴染、いや魔女の娘であるから、そのお綺麗な上っ面を守ってやろうなんていうシンパ性は持ち合わせていないので、あっさりとバラしてやる。
「だいたい、アイツすでに先約あるしな」
「―――は?」
『ちょ、堂上それどういうことだ!!』
「知るか!知りたきゃてめぇらで確認しろ!!」
























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