「有馬!お店で走らないの!ほら、お母さんとこおいで」
しゃがんだ郁がおいでおいでと手を招くと、ちょろちょろとあたりを動き回っていた有馬はそこをゴール地点に定め、まっすぐに駆けてくる。広げた腕の中に飛びこむ息子の背中を郁はよしよしと撫でる。
「いっちゃーく」
「すごいすごい。さ、ご飯食べるよ」
よいしょっと、抱きあげれば「やーだー、あるくー」とジタバタする息子に郁は苦笑する。
「じゃあ、お母さんとお手々繋いでね」
床に下ろし、手を差し出せば「うん!」と腕をいっぱいに伸ばして小さな手でしっかりと手を握ってくる。
「ごめんね。落ち着きなくって」
「なんたって、笠原の子だもんねー」
「ちょ、どういう意味よ!」
「そのまんまの意味だけど?」
大人しい娘を抱いている柴崎の姿に郁は思わず「ぐっ」と詰まる。自分がそんな風に大人しい娘ではなかったことは重々承知しているので反論のしようがない。

「まったく何むくれてるんだ」
会計から戻ってきた堂上が苦笑しながらポンと郁の頭を叩く。そんな夫に「だって」って郁はますます口を尖らせるが、それにまた堂上が笑い、「ほら」と有馬の前に手を差し出す。
「有馬。お父さんとも手を繋ごう」
「うん!」
ニパっと笑って目の前の大きな手に小さな手が伸びる姿に夫婦揃って笑みを零す。

「いや〜、いいお父さんねぇ」
ニヤニヤと笑う柴崎に、それを言うならあんたんとこもでしょ、と郁が笑う。
「いや〜手塚があんな様になるとはねぇ〜」
郁の視線の先にあるのは同じように会計から戻ってきた手塚が、柴崎から娘を受け取り抱き直している所だった。
「はじめなんて、すっごい不格好な抱っこだったのに!」
子供の扱いに関しては、手塚の上に立つ郁はここぞとばかりにイジる。それを「ほっとけ!」とぶっきらぼうに言い放つ手塚は、今はもう抱っこにも慣れ腕に乗せる子供は危なげなく安定している。ペタペタと父親の顔を触る娘に向ける表情は柔らかい。
「そうよねー。子供の読み聞かせに悪戦苦闘していた男がねぇ〜」
可笑しそうに笑う柴崎は、けれどとても幸せそうで郁も笑みをこぼす。


「ほら。いつまでも入口に固まってると他のお客さんに迷惑になるから、席に移るぞ」
堂上の言葉に「はーい」と場所を移す。
堂上家と手塚家の二家族がそろってやってきたのは、郊外にある自然食のバイキングレストランだ。
子供向けの料理も並ぶこのレストランは、外に芝生が広がる広場があり子供を遊ばせるにはちょうど良くいつも家族連れで賑わっている。
堂上家は何度か利用しているが、まだ行ったことがないという柴崎の休みがあったため、こうして来たのだった。

「けっこう落ち着いた感じなのね」
白を基調にした内装に、木製のテーブルと椅子が並ぶ店内は室内とテラス席がありキャパは十分で広々としている。
「料理もおいしーよ。オープンキッチンの部分もあってそこから揚げたての天麩羅とか出てくるの。
 コンセプトは『化学調味料や食品添加物はできるだけ使わず、天然だしや無添加ベースの料理』だからちっちゃい子にも安心だし」
有馬ここのキノコカレー好きだもんねーと聞くと「すきー!」と元気な声が返る。
「まぁー、ガッツリした肉料理があるわけじゃないから、男性陣はちょっと物足りないかもしれないけど」
「そりゃあんたもでしょ」
きっちり突っ込んでくる親友に「一言多いっつの!」と郁もきっちり返す。










◆◆◆











「席はこの辺りでいいよな」
小さな子(特に動きたがりの堂上家息子)がいるので、周りの迷惑にならないよう角の席を選ぶ。
ベビーチェアを用意してもらいとりあえず先に子供たちを落ち着ける。
「はい、麻陽。カチってしようね」
柴崎が後ろから手を取りベルトを留めると、「あいがと」とまだ喋り始めたばかりの麻陽がそれでも可愛らしくお礼の言葉を言う。「はい、良く出来ました」と娘の頭を柴崎が撫でる横で、半年ちょっとお兄ちゃんの有馬は自分でベルトの留め外しが出来、郁が留めた傍からキャラキャラと笑いながら外していく。
「も、ちょ。あんたはもうちょっと麻陽見習って大人しくしてなさい。
 篤さん、先に取ってきて。あたしこの子見てるから」
その様子に堂上は苦笑する。ベビーチェアに自力で上り下りできるようになった息子からはちょっとでも目を離すわけにはいかない。
「分かった。すぐ戻ってくる」
「いいよいいよ。ゆっくり選んで来て。あ、有馬にリンゴジュース持ってきてもらっていい?」
「りんごージュースー!」
両手を振り上げる息子に分かった分かったと苦笑する。とりあえず何か与えていればしばらく大人しくしてくれる。


「いやー。大変ね」
「もう動ける範囲広がるとね、どこでも遊び場だから。
 麻陽はちょっと羨ましいくらい大人しいよね」
「そりゃ、あたしと光の子だし?」
「だからそれはいいっつの!もう!
 それより、柴崎も選んで来な。折角開店同時に入ったんだから、綺麗な状態のうちに好きなもの取っておいでよ」
11時開店の店には開店前から何組か並んでいて、オープンしてからも途切れることなく客が入ってくる。
その都度補充はされるが、開店一番の方が当然に品ぞろえも見栄えもいい。
「そうね、それじゃお言葉に甘えて」
郁の言葉に柴崎は笑い「じゃー麻陽。ママご飯もらってくるから、ちょっとだけ待っててね」と娘の頭を撫でて席を立つ。



「郁」
「あ、ありがと。篤さん」
しばらくして戻ってきた堂上からグラスを受け取り、持参したキャラクター物のストロー付子供用コップに中身を移す。
「ほら、有馬。喉渇いたでしょ。はい、どーぞ」
「ありがと」
両手でしっかりと受け取る息子に良い子と郁は笑って頭を撫でる。
「ほら、後は見とくから郁も取ってこい」
「うん」
折っていた膝を立てると、ジュースに飛び付いていた有馬が「ゆーまも!」とコップを置いて立ち上がろうとする。
「おい、こら。お前はここに座っとけ」
「や!ゆーまもいくの!」
そんな息子に郁はしょうがないなぁと笑い、ほら、と腕を差し出す。
「おい、郁」
「いいよいいよ。有馬が食べたいの持ってくる」
ひょい、と息子を腕に抱えて行く姿に、堂上は一つ溜息を零す。
「男の子だと大変ですね」
苦笑混じりの手塚の言葉に、堂上も苦笑を返す。
「まあ、元気なのはいいことだし。一応最低限親の言うことは聞くからな」
元気いっぱいフル活動の有馬だが、両親が呼べばちゃんと戻ってくるし、ダメだと強く言えばそれを悪いことと認識してちゃんと謝る。息子に甘いと言う自覚はあるが、それでもちゃんと引くべき線は引いている。



「あら?有馬は笠原に付いて行っちゃったんですか?」
自分のものと麻陽用のお子様プレートとを両手に持って戻ってきた柴崎が笑いを含めた声で尋ねる。それに堂上は小さく肩を竦めて応えた。見ての通りだ。
「ママっ子ですねー」
「その辺のさじ加減は抜群にうまいからな」
業務中の子供の接し方からもそれは分かる。甘やかすところは甘やかし、その代わり、とちゃんと子供にルールを守らせるのが郁は上手くそれは自分の子供に対してもそうだ。言うことを聞けば口だけではなくちゃんとお願いごとを叶えてくれる郁は子供に人気だ。
父親とのコミュニケーションを嫌がってるわけではないが、それでもちょっとした時に一緒に居たがるのは母親の方だ。若干複雑そうな顔をする堂上に柴崎が笑う。
「ま、子どもはどこもそういうもんだと思いますよ」
ねー麻陽?麻陽もママの方が好きだもんねーと笑う柴崎に「ちょっと待て」と手塚が渋い声を上げる。
両家ともに立派な親バカだ。



クスクス笑っていると「みんなして何盛り上がってるの?」と郁が戻ってくる。腕の中の有馬は両手でしっかりとプレートを持ちご満悦だ。
「いいのか。それだけで」
息子を受け取り、椅子に座らせながら堂上が聞く。郁のプレートはらしくなくほとんど盛られていない。
それに苦笑しながら「とりあえず有馬落ち着かせないと」と、有馬のお母さんである郁は笑う。
「はい。じゃあいただきますしましょう」
いただきます、と郁が声を掛けると「いただきます!」とスプーンを握った有馬が返す。


「有馬は好き嫌いとかなさそうね」
「うん。今のトコ特にないね。あたしの息子だっていうのはもういいからね!」
「あら、先手打たれた」
「それぐらいわかるっつの」
「柴崎のところは好き嫌いあるのか?」
「やっぱり匂いのきつい野菜とかは顔しかめちゃいますね」
ほら、とセロリの炒め物を差し出すと、興味津津に見て口を開くが口に入れると「やっ!」と言うように麻陽は目を瞑る。再び「ほら」と柴崎が箸を運ぶと「それいらない」とプイっと顔をそむける。そんな娘の様子に「こんな感じです」と笑う。
「でも、うちもそんな感じだよ。さっきまで食べてたのに、次の瞬間には全否定する時あるからね。気紛れだからねー」
さんまのやわらか煮を小さく解し、有馬の皿に戻しながら郁が笑う。
「さかなー」
「はい。お魚さんも食べようね」
ニコニコしながらパクつく息子を見て郁もようやく料理に手を付ける。
子供の世話をしながらだとどうしてもゆっくりと食べることは出来ない。それでも、子どもが美味しそうに食べていたらそれでいいかと思ってしまうから不思議だ。



「郁。何か取ってこようか」
「え、でも」
「いい、ついでだ」
どうしたってこういう時は母親が子供に付きっきりになる。それを分かってる堂上は代わりに妻の世話を焼く。
「お熱いことで―」
「もうあんたは少し黙ってて!」
茶々を入れる柴崎に顔をしかめて、「じゃ栗カボチャのポタージュお願いしていい?」と堂上に向き直る。
子供を抱いた状態ではさすがに汁物は怖くて持って来れなかったのだ。
「他には?」
「ジュース!」
そしてすかさず飛ぶ注文に笑う。
「俺はお母さんに聞いてるんだが」
「ジュース!ジュース!」
「じゃ、りんごジュースのお替りも」
息子の再三の要求に郁が笑い、「あとは篤さんに任せるよ」と答える。それに堂上が柔らかな笑みで「分かった」と返す。
そんな堂上夫妻のやり取りを見ていた手塚が見習うように口を開く。
「あー、麻子は?」
「お気遣いどーも」
夫としても父親としても先輩の堂上を一生懸命真似ようとする夫の姿に堪らず柴崎は吹き出す。
「あたしはちゃんと取ってきてるから平気よ。後はデザートに行くから」
元々食べる方でもなく、また娘が大人しいこともあり柴崎は比較的普段と変わらない食事が出来ている。
「気になるのがあったらあんたの皿から摘まむから、好きに取ってくればいいわ」
それでも、柴崎の好みを中心に選んでくるあたり、手塚も堂上とよく似ている。










◆◆◆











子供の興味の移り変わりは早い。
スプーンでプレートをキャンパスにお絵かきを始めた息子に「もう無理かぁ」と郁は苦笑した。
「有馬、ご飯で遊ばないの。もう食べないの?」
プレートの中にあったスプーン二口分ほどのカレーはぐちゃぐちゃに広げられている。
スプーンに掬って口元に運んでも、「いらない」と断られる。ある程度は食べたし仕方ないかと差し出したスプーンを自分の口に運ぶ。子供の残飯処理は必然的に親の仕事だ。


「ゆーまごはんたべたから、チョコたべる!」
甘い物は別腹理論は子供にも有効なようで、空っぽになったプレートに今度はデザートを催促される。
デザートコーナーの一角にあるチョコファウンテンは子供に人気で、堂上家の息子も例外ではない。
カツカツとスプーンでプレートを鳴らして催促する息子の手から、スプーンを取り上げる。
「お皿で遊んじゃいけません。言うこと聞けない子にはデザートあげません」
「いやです!」
「じゃあもうしませんね。はい、約束できる人」
「はーい」
「全くもう。調子いいんだから」
「郁」
ほら、と前からウェットティッシュを差し出される。
「有馬の手、カレーでベトベトだ」
元気よく挙げられた手にはべったりとカレーがついている。
「もー、あんたどういう食べ方したの。
 ほら、これでお手々キレイキレイして。チョコレートはその後ね」
はい、と渡されたウェットティッシュで両手を拭き拭きした有馬は、「これもキレイキレイする」とそのままカレーで汚れたプレートを拭う。
「はい。きれいになりました」
「よくできました」
まるで皿洗いのようなやり取りに柴崎が笑う。
「いやぁ、子供ってよく見てるわね」
「ほんと。家じゃあれもこれもするってちょう真似っ子さんよ」
「それじゃあ迂闊に家でイチャイチャできないわね」
「しないし!」
とか言いつつリビングのソファーで、うっかりスイッチが入り、抱き合いキスをしているところに、
「おとーさん、ゆーまもだっこー。ちゅーするのー」
なんて息子が走り寄って来て冷や汗ダラダラになったのは記憶に新しい。
うっと夫婦揃って気まずげに押し黙った郁と堂上の姿に「相変わらずね〜」と柴崎は忍び笑う。そんな妻に「何か面白いことあったか?」と首を傾げる手塚に「あんたも相変わらずね」と更に笑う。


「俺が連れて行こうか」
郁がゆっくりしていないことを気にかけた堂上が声をかけるが、郁は笑って「んーん大丈夫」と返す。
「あたしもデザート選びたいし。その代わり飲み物頼んでもいい?」
「何がいいんだ」
「カフェラテにしようかな」
「有馬はどうする」
「まだ残ってるから大丈夫だと思う」
「分かった」
「よし、じゃあ行こうか有馬」
「うん!」
ヨジヨジとベビーチェアから降りる息子に手を伸ばす。
「柴崎はどうする?」
「あたしも行くわ。光、あたしにもカフェラテお願いね」






チョコレートの滝を目を輝かせて見上げる息子に郁はすかさず釘を刺す。
「触っちゃだめだからね!」
「さわらない」
「よし」
カットされたバナナやりんごを串にさし、有馬に渡す。
「よいしょ。はい、いいよ」
脇の下に腕を差し込んで、チョコファウンテンの真ん中あたりまで息子を持ち上げる。目の前の流れ落ちる滝に有馬が楽しそうに竹串を入れる。それを見ていた麻陽も「まーま」と柴崎にせがむ。
「はい。じゃあ麻陽もやろうね。さー上手にできるかな」
加減を知らない子供たちのフルーツやマシュマロには滴るほどのチョコがかけられる。
「ちょっと待ってね。そのままよ」
床にチョコが落ちないように皿をセットし、素早く載せる。
「もういっかい!」
「遊びじゃないのよ。食べる分だけ!」
「バナナ!たべるの!」
「はいはい。分かった。バナナね」
そうして出来る作品を受ける皿は余分なチョコが溜まり、そこでもフォンデュ鍋の代わりになりそうなほどだ。
「まあ、いい遊び道具よね」
苦笑まじりの柴崎が持つ皿の中身も同じような状況だ。滝の中から出たばかりの串が、今度はチョコの海に浸っている。
「はい!もう終わり。次は全部食べてから!」
なんとか引き離し、自分たち用に一口サイズのプリンやロールケーキ、わらび餅を見繕って席に戻る。
「―――また、たっぷり取ってきたな」
「もう遊びよ遊び」
テーブルに載せられた皿の惨状を見て笑う夫に郁も苦笑を返す。皿をひっくり返さなかっただけでも上等だろう。







「麻陽。もうごちそうさま?」
「うん」
「じゃあ、これでお口拭こうね」
「流石の手塚家長女もチョコレート相手にはそうなるか」
口紅変わりにべったりとチョコを口周りにつけた麻陽の姿に笑みを浮かべた郁だったが、自分の息子の姿に「ぎゃっ」と小さな悲鳴を上げた。
「ちょっと有馬こっち向いて。もーなんであんたはこんなとこにチョコつけるかな。一瞬血が出てるかと思ったじゃない」
耳たぶにまでチョコをつけた息子の顔を郁は飽きれ混じりで拭う。
「あーあー、袖口もべったりだぞ」
「うっそっ!もーチョコは取れにくいのにー」
「チョコおいしー」
「おいしいのは分かったから、耳や洋服で食べないで!」
「あはは。上には上が居たわね」
大人だけだと落ち着いたデザートタイムも子供がいるだけで大騒動だ。ゆっくり食べる間もない。
「おそといくー」
「まだです!」
自分は食べ終わり、うずうずして身を乗り出す息子の前に腕を出してガードする。
「お外は片付けが終わってから!」
「ほら、有馬。自分が使ったお皿とスプーンは自分で片付ける約束だろ。
 約束破る子はもう遊びに連れて行かないぞ」
「ごめんなさい」
「じゃあ、ちゃんとお片付けできるな」
「はい」
「よし。良い子だ」
その間に郁は残りのデザートを詰め込む。
「ごめん。うちの子、もう限界みたいだから先に外行ってるね。柴崎たちはゆっくりしてていいから」
「了解」
「ほら、有馬。自分でお皿とスプーン持って運んでね」
慌ただしい家族を柴崎達は笑って見送る。









◆◆◆









はい行ってらっしゃい!と息子を広場に放ち、ふぅっと息を吐いて郁はベンチに腰を下ろす。
時々、ベチャッと豪快にコケてはいるが芝生敷きのため大した痛みもないのか直ぐに起き上がってまた走り出す。そんな息子の姿に郁は笑み、デジカメを取り出してシャッターを切る。


「お疲れさん」
「わっ、どうしたの」
「お前、有馬の世話でほとんど食べれなかったろ」
「別に気にしなくてもよかったのに。でもありがとう」
差し出されたジェラードのカップを笑顔で受け取る。
「梨?」
「期間限定らしいからな。
 にしても、飯食った後でよくあんだけ動けるな」
郁の隣に腰を下ろした堂上も我が子のはしゃぐ姿に笑う。
「ねー、お腹痛くならなきゃいいけど」
はい、と郁から差し出されるスプーンを堂上はパクリとくわえる。
「あっさりしてるな」
「うん。さっぱりするよね。おいしい。―――って、ちょっと撮らないでよ!」
「なんでだ」
「もー恥ずかしいじゃん。なんか篤さんが撮る写真っていっつも食べてるとこなんだもん」
「いいだろ。食べてる姿も可愛いんだから」
「またすぐそーいうこと言うー」
「それより郁、もう一口」
「もぉー。はい。
 梨の季節ももう終わりだね。次は柿かな。
 秋は美味しいものいっぱいだよね。ふふー幸せ!
 そうそう、保育園でもイモ掘りがあるって行事予定表にあったなぁ」
「ああ。近くの農園を借りてるんだっけか」
「そうそう。いいなー楽しそう〜」
「じゃあ次の休みは、折角だから秋の味覚狩りにでも行くか。
 柿狩りとかキノコ狩りとか色々あるだろ」
「そうだねー。山なら他にも紅葉狩りと渓流釣りなんかもいいかもー。あ、でも有馬にはまだちょっと無理かな」
「そうだな。まあ渓流なんていう本格的なのは無理でも、ヤマメやイワナの釣り堀なんかはあるだろ。そこだったら大丈夫なんじゃないか」
「そっか。じゃあ何がやりたいか、家に帰ったら有馬と相談だね」
「あんまり旅行も連れてってやれてないし、連休が取れるといいんだがな」
「そこは班長さんの腕の見せ所ってことで!頑張ってね、篤さん!」
「頑張った旦那に何か見返りはあるんだろうな、奥さん」
「んー。じゃあ旅先で一緒にお風呂?」
「―――ここで、嘘、冗談、とか言ったら凹むぞ」
「言わないよー。ただし、有馬も一緒ね」
「――――――」
「有馬と一緒だったら篤さん変なことしないから安心だもーん」
「―――お前も言うようになったよな」
「篤さんの奥さんですから」
えーだめー?と腕を絡めて笑いかける郁にしょうがないな、と堂上が優しく微笑み返し頬にキスを一つ贈る。





レストランを出たすぐのところにあるベンチに仲良く座るのは柴崎達には見慣れた夫婦の後ろ姿だ。
いちゃつく夫婦の姿に固まった夫に「あれは真似しなくていいわよ。ていうかあたしも真似できないから」と柴崎は呆れたように笑う。
堂上夫婦のラブラブっぷりは早々真似できるものではない。


「あ、柴崎達来た。
 ねーせっかくだから写真撮ろー」
ゆーまー、郁がおいでおいでと手招きすると向こうから有馬がパッと駆けてくる。
芝生に座り、ベンチの上にデジカメをセットして調整する。
「この辺?」
「もうちょい前」
「有馬、もうちょっと前だって。
 ほら柴崎たちも早く早く」
笑顔で手招く郁に柴崎も笑う。
「だって。行きましょ」
子供達を前に二家族が並ぶ。
「タイマーかけるぞ」
「はぁい。有馬、笑っててねー」
チカチカとタイマーを知らせるデジカメのランプの点滅が早くなる。
もう後一瞬、というところで有馬が飛び出す。
「ちょっ!」
郁の腕が有馬を掴まえる直前に―――カシャとシャッター音が下りる。そしてデジカメは有馬の手の中だ。
「とれたー」
「撮れてない!今のは絶対撮れてない!」
有馬からデジカメを取り上げ、画面を確認した堂上も苦笑する。
「有馬のドアップが撮れてるな」
「もー、なんで後少しがじっとできないかな。リベンジ!リベンジ!柴崎たちもいいよね」
向き直る郁に柴崎も笑って答える。
「ほら、有馬。お母さんのお膝に座って」
膝を叩けば、笑ってピョンと飛び乗り大人しく正面を向く。そんな有馬のお腹に腕を回して飛び出し防止にガッチリとホールドする。
「―――なんかあれだな。ジェットコースターの安全バーみたいだな」
「うるさい手塚!どっからどう見ても可愛い息子を抱きしめる母の図!」
そんなやり取りに苦笑しながら堂上がタイマーを再度セットする。
「二回目行くぞ。動くなよ」
「今度こそじっとしててよね、有馬!」
そして―――
案の定、後一息と言うところで有馬が再び飛び出そうとするのを郁がなんとか抑え込み、結果、大人しく収まる手塚家とアグレッシブな堂上家(というより堂上母子)というある意味家族の性質を端的に表す写真が撮れた。
「―――まあ、全員写ってるだけ良しとするしかないだろ」
ああ、もうなんで。とデジカメの画像にガクリとうなだれる郁を堂上が苦笑しながら慰めた。




まあ、どんなんだってうちの子が一番可愛いのは変わらないですけどね!





















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