くわえていた煙草をゆったりとした動きで取られて替わりに、というとあまりにも卑猥だが実際そのようなものだ。その時点で自分がどうして煙草を吸える状態にあったのかは今となってはわからないけれどとにかくそういう状態で、けれども東方が何喰わぬ顔で笑っていたことだけは覚えている。覚えているというかそれは自分が好んで記憶している表情であって本当にそうだったのかは曖昧だ。手がこちらにのびてきたことだけは事実で、その後は、
「ん、ふ……んん、んッ」
「あっ…もうちょっと、奥までいける?」
「…ん、」
 煙草はまだ煙を上げている、だろうけど、それを確認する手段はない。既に嗅覚すら正常に機能しない状態で、触覚だって髪を撫でる彼の手と口の中しか。喉の一番奥を擦る先端が濡れたのは辛うじて感じた、けれどもそれは舌先に乗らずにそのまま落ちていくから、何の味もしなくて、少し、気持ちがよくない。無意識に歯を立てていたのか髪を強く引っ張られる、それもきっと無意識で、悪くない。
「はあっ、あ、舌を、もっと」
 添えている自分の手が濡れていくのが見える、自分の唾液かも知れないし違うかも知れない。言われるがままにぐるりと舌をまわすと押し付けるように頭を抱え込まれた。舌と、頬の裏の柔らかい肉と、濡れて滑る指で、追い立てるという程の余裕は無い、ただそうしていることが心地よいだけなのだと思う。髪が触れている東方の太腿がたまに震えて頬にあたると、口の中で大きくなった彼自身と力が入って引き締まった内股の筋肉に内側外側両方から挟まれてたまらない。膝立ちしている脚から力が抜けて、剥き出しの膝がカーペットの上でずれていく。痛覚も麻痺しているのか痛みはないが大概これの後は皮膚が剥けている体重を支えている所為もあるが自分の熱を持て余して腰が揺れる所為だそれは知っている。
「ん、んん、ふっ…あ、」
「ああ、はっ…あ、亜久津ッ…」
 東方の身体がびくんっと上に逃げて、思わず添えていた手を彼の腰にまわした。更に奥へ、舌を細く尖らせて、喉を意識的に絞って、自分の熱すら忘れる程その行為に没頭する。髪を撫でていた手が掻き回すように動いた。
「あ、あ、待って、はっ…あッ…!」
 口の中でどくんと脈打ったのがわかって、身体が本能的にすぐにくるはずの快感に酔う。腰にまわしていた腕に彼の左手が触れた途端、その腕を解かれるのと同時に髪をまさぐっていた右手の平に予想しなかった力が込められた。ぐちゅっ、と音がして口の中から引き出されていくその先と自分の舌先とを繋ぐ白い糸、そこで初めて苦いと感じて、目を閉じたその瞬間、
「…ッ……?」
 頬や瞼、額、口元、ぱたたっと液体があたる感触、目を開ければ左目の視界を奪うどろりとした白いもの。舐めるようなその感覚に熱が集まる。
「はっ、はっ、はあッ…ごめん、」
 腕をのばして頭を離したその手が、弱く優しい声と共にこめかみを通って頬へと流れた。顔を伝うものが彼の放った精子であることを改めて認識して、あからさまに表情を歪める。飲み込んでしまいたかったそれを、外に投げ捨ててしまったことがひどく、勿体ないことだと。睨み付けるように東方を上目で見て、申し訳無さそうな顔をしながらも興奮している様子の彼に顔を近付けて、力の入らない膝を持ち上げた。口の端に流れてきたそれを舐めとって荒くなった息を取り戻すように吸い込めば、煙のにおいが混ざっていることを知る。




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