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〜寒い日が好きになる〜

2003/02/14 鞠絵バレンタインSS【鞠絵視点】


このSSは、鞠絵の視点で書かれています。

同じシチュエーションで、兄上様の視点から見たSSが「こちら」にあります。


 

 

わたくし、寒いのは好きじゃないです。

 

体が弱いからでしょうか。

冬は、何かあるとすぐに風邪を引いてしまいます。

そして、兄上様にご迷惑をかけてしまうのです・・・

 

わたくし、寒いのは好きじゃないです。

 

大好きな港を見下ろす公園のベンチ・・・

ここにいても、すぐに体が冷えてしまいます・・・

 

退院してから、初めてのバレンタイン。

今までを取り戻すように、想いを紡いだ日々。

毎年恒例の手編み。今年はマフラーに挑戦。

生まれて初めての手作りチョコレート。

期待・不安。今年こそ・・・

 

兄上様のよろこぶ顔。

 

「あたたかいよ」

「おいしいよ」

 

兄上様に、そう言っていただいて・・・

舌の上のチョコレートのように、不安は溶け去り、あとは期待だけが・・・

 

「よかった。うれしいです・・・」

 

鞠絵、それしか言えないの?

(兄上様を愛しています)

どうして言えないの?

 

兄上様と待ち合わせて30分。

そろそろ体が冷えてくる頃。

もうタイムリミット?

 

わたくし、寒いのは好きじゃないです。

 

「行こうか。けっこういいお店があったんだ。食事にしよう」

 

ああ・・・兄上様が、立ち上がってしまいました。

今年も言えずじまい・・・

 

「ここは寒いし」 

 

気遣っていただいている兄上様には、何もいえません。

だから・・・

 

わたくしは、寒いのは好きじゃないです。

 

人を急かせてしまうから・・・

 

「はい」

 

仕方がない。

言えなかったのは、わたくしの勇気が足りないから。

寒さのせいにしてはいけません。

 

「ほら・・・」

 

兄上様が手を差し出して、わたくしを立たせてくださろうとして・・・

 

「きゃっ!」

 

不意に、強く手を引かれて、わたくしは兄上様の胸に・・・

 

「こうして・・・」

 

兄上様は、わたくしを抱き寄せたまま、マフラーをわたくしにも掛けてくださいます。

紺のマフラーでつながった兄上様とわたくし。

どうして赤いマフラーじゃなかったのかしら。

 

「こうすると、暖かいよ」

 

兄上様が、わたくしの肩に手を・・・

そっと兄上様にもたれかかってもいいですか・・・

ドキドキしているのは、兄上様の音?それともわたくし?

 

「・・・あたたかいです」

「寒い日も、まんざらじゃないだろ?」

「うふ・・・」

 

寒いが嫌いなこと・・・どうして分かるんですか?

・・・そうですね・・・前言撤回。

 

わたくし、寒いのが少し好きになりそうです。

 

兄上様のぬくもりのおかげで・・・

 

 

「じゃ、行こ・・・わっ!」

 

突風。暴れる髪。舞い上がる砂埃。思わず目を閉じる兄上様・・・

 

わたくし、どうしてしまったのでしょうか・・・思わず、そのとき・・・

 

「大丈夫だった?まり・・・」「!」

 

兄上様がしゃべれないのは、風のせいじゃなくて、わたくしが唇をふさいでしまったから。

 

ほんの2、3秒のこと。

そっと、顔が離れて・・・

 

「はしたないことをしてごめんなさい・・・でも・・・でも!」

 

兄上様の胸に突いた自分の手を見つめながら・・・

鞠絵は、もうこの想いを独りでは抱えきれません。

 

核心の一言は、想い焦がれた人をまっすぐ見つめて。

想い焦がれた心をうちあけて。

 

「わたくし、兄上様を愛しています」

 

照れたような、困ったような兄上様・・・身勝手な告白。

感情が赴くままの勝手なキス・・・

やっぱり、わたくしは勝手な思い込みでご迷惑を・・・

 

「兄上さ・・・」「!」

 

わたくしがしゃべれないのは、兄上様が唇を・・・

これは夢?それとも?

 

「・・・返事。1ヶ月も待てないから・・・」

「兄上様・・・」

 

うれしくて、言葉なんかではもう・・・

何かが、わたくしの中ではじけたような・・・そんな気持ちです。

ふわふわしていて・・・それでいて、とっても安らげる。

そんな優しい気持ちです。

 

−−−たぶん、幸せ。なのでしょう。

 

「あーもう恥ずかしい。行くぞ行くぞ行くぞ」

 

汗マークが出るくらいに早口で喚くと、

兄上様はわたくしの頭を抱え込んで、そのまま歩き出そうとしました。

 

「きゃ・・・兄上様・・・あぶない」

「我慢しろ。僕はきっとニヤけてる。そんな顔見せてたまるか。このまま行くぞ!」

 

大丈夫ですよ、兄上様。

きっとわたくしも、見れた顔じゃないはずです・・・

 

ちょっと乱暴ですけど、兄上様のぬくもりが、ここにあります。

ちょっと唐突でしたけど、ふたりの想いがひとつりなりました。

 

一生忘れられない記念日。

もう一度、前言撤回。

 

わたくし、寒い日が大好きになりました。