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部屋の中には二人分の影……一人は椅子に、もう一人はベッドに腰掛けて。
「……ごめんな」
「そんな……あやまらないでください、兄上様」
「けど……」
「兄上様がこんな事であやまられたなら、わたくし……兄上様に何度」
Reversed Situation
「いいんだよ、約束したから」
「ダメですっ、兄上様!!」
鞠絵の細くて真っ白な手が肩を抑える……鞠絵の何処にこんな力があるのか、それほどの強さで……
「約束なんて……そんなの、いいですから」
抗う事が出来ない……その理由は多分、力が入らない身体ではなくて泣き出してしまいそうにも見える綺麗な瞳。
「……わかったよ」
「兄上様」
「それと、ごめん」
もう一度謝る。
「わたくしは……そんな事……」
「鞠絵を、困らせるような事をしようとして」
約束のことも、と付け足そうとしたが咳き込んでしまった。
自分のものではなくなってしまったような声が……恨めしい。
「……でしたら、すぐに横になって下さい」
言われるままに(いつもの数倍苦労して)身体を横にする……そんな額に整った指先がそっと添えられる……
体温が乏しい、いつも哀しいその指先が今は少し優しい。
「こんなに熱があるのに……どうして隠すような事……」
「約束だから、だよ」
最近の鞠絵は今まで無かったほどに調子が良くて……
しばらくは療養所を離れる事も出来そうで……
「折角……鞠絵はがんばったのに」
だから、ふたりで行こうと約束した一泊旅行。
……なのに、俺は。
「いいんです、わたくしは……その気持ちだけで」
「……いや、やっぱりいいわけないさ……」
眼鏡の奥の瞳がまた曇る…それに苦笑しながら微笑みかける。
「もう、鞠絵を困らせるような事はしないって……」
「…………」
「そんなに、信用できない?」
困ったような……泣き出しそうな……
「兄上様ですから」
それでいて、とても暖かい気持ちになれる瞳が見つめてくれる。
「本人より……よく知っているように言うな」
「いつも、兄上様のことを考えていますから……」
どうして、こんなに抱き締めたくなってしまうような事を言うんだろう、この娘は……?
「一番大切な、兄上様こと……」
絶対に、勝てないんじゃないか……そう、思った。
「なら、そんな鞠絵との約束を破った上に、困らせたお詫びをしないと…」
そっと小指を差し出す……
「次のチャンスは、絶対に行こうな……」
「……ぁ」
蕾が開くような、笑顔。
「はい……兄上様」
指を絡ませて……離そうとした刹那。
そっと両手で包まれる……
「鞠絵……?」
「こうすると……安心……できませんか?」
その言葉で理解できた……さっきから感じている気持ち。
「わたくしは、兄上様がこうしてくださると……どんなに苦しいときでも平気、だったから……だから」
「そうか……」
「……はい」
手の温もり、笑顔、囁き……
それらは全て、優しさというコトバで表すことができた。
「嬉しいな……」
「……?」
「俺が……鞠絵をこんな気持ちに、してあげる事が出来ていたのか……」
幸せが……目の前にある。
「いいえ、わたくしの方が……ずっと兄上様に」
あ、小さな驚きの声。
「……どうした?」
「でも、それだったら……わたくしが兄上様に、もっと……」
笑えたと思う、今までで一番優しく……そして、鞠絵に負けないくらい。
「同じでいいだろ……?」
「ぁ……」
「俺達は……お互いが、同じくらい必要で、大切で……愛している、な?」
「……はい」
END