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「おにいたまぁ」
「お兄様ぁ」
そろそろ眠ろうか、それとももう少し先まで読もうか……文庫本からそらした視線で目覚まし時計の文字盤を盗み見る。
そんな時、打点の違う二つのノック。
「ん、開いてるぞ」
「うふふっ、お邪魔します」
「おじゃましまーす」
お気に入りの人形を抱っこした雛子と、その雛子に後ろから手を回した咲耶。
どちらも髪を解いて寝巻きに着替えて……少しいつもと違う雰囲気なのにいつもどおりの笑顔だった。
together−tonight
「どうしたんだ、二人とも?」
まあ、大体はわかるが。
「ねぇ、おにいたま、ヒナね、今日はおにいたまと一緒にねていい?」
「ああ、いいよ……」
「うわーい、おにいたま、ダイダイだーいすき」
膝に飛び乗った雛子が今度はぴったりとくっついてくる……落とさないように本を持っていない方の手を軽く回して受け止める。
そんな俺を覗き込むようにして咲耶が囁く。
「ね、お兄様……」
「うん?」
「さくやね、きょうはおにいさまといっしょにねていい?」
絶句、ついでに手から本を落とす。
「ありり? どうしたの、おにいたま」
停止した思考回路、あどけない声が辛うじて再起動させてくれる。
「あ、いや、なんでも……ないよ?」
半開きの口から出る言葉は、なぜか疑問形。
「お兄様……そんなに驚かなくてもいいじゃない」
「……いや、だってなあ」
お前、雛子の倍の歳だろ?
そう言いかけた口を閉ざし言葉を捜す俺に小悪魔の微笑と天使の笑みで……
「いいでしょ、お兄様……雛子ちゃんも一緒なんだから」
「いいでしょ、おにいたま、ヒナね、咲耶ちゃんもいっしょがいいな」
軽く見比べた二人が凄く似ている気が何故かして……
ひょっとするともう何年かしたら二人に増えるのか、と何故かため息をついて……
「ね、お兄様」
「おにいたま、ダメ?」
ため息をついたら、何故か余計な力が抜けたような気がして……
「ああ、いいよ……おいで、二人とも」
何時の間にか、そう言っていた。
…………
………
……
…
「う〜、おにいたまぁ……」
「ん……?」
どう聞いても寝言にしか聞こえない声、案の定すぐに可愛らしい寝息にかわっていく。
起こさないように、それだけを注意してそっといつもはリボンで括られている髪を撫でる。
「うふふっ……可愛い」
「なんだ、起きてたのか」
「だって、久しぶりにお兄様と同じベッドで過ごせるんだから」
そして、無垢な寝顔の向こうから聞こえてくる悪戯っぽい囁き。
「ね、お兄様……」
「なんだ?」
「あ、やっぱりいいわ……言ったら怒っちゃうから」
その言葉に顔で疑問符を見せると小さく笑って不満そうに言う。
「だって、さっきだって雛子ちゃんと一緒じゃなかったら……入れてくれなかったでしょ?」
一緒……その言葉は『共に』で置き換えるべきだろうか。
それとも、『同じ』なのだろうか。
「全く、勝手に決めるなよ」
「じゃあ、明日一人で来ても一緒に眠らせてくれる?」
断られるのを前提にして聞いてくるから、本当に断るのは見透かされたようで……
もっとも……悔しいから、と言うのはただの言い訳になるのだけれど。
「……大人しくしているんなら、考える」
だから、そう答えた。
そうでなくても断ることなどきっとしないから。
「だから……ついでに怒らないから、言ってくれ」
「……ほんとう?」
「怒るような内容だったら聞き流す」
それにくすっ、と笑ってから……
「お兄様とこんな家族になれたらステキ、って思ったの……」
「……俺達、元から家族だって」
「……ううん、そういう意味じゃないの」
勿論、わかっている。
「…………」
「ほら、怒っちゃったでしょ?」
最後にそう付け足して背中を見せようとする。
「……それも、勝手に決めるな」
さっきまで無邪気な寝顔に添えていた手でそんな表情だけでいられなくなった横顔に伸ばす。
「でも……」
「上手く言えないけど……思ってみるだけなら構わないぞ、取り敢えず」
そう告げると、伸ばした手を即席の枕にしていつもの輝きを少し取り戻した瞳が迫る。
「その先は、ダメ?」
「時と場合によるな……」
そう言って笑い合ったとき、間に挟まれた天使の寝顔が少し動いた。
「…………すぅ」
「……よかった」
「……ふう」
反射的に息を潜めた息をゆっくりと吐き出して……
「もう、寝た方が良いな」
「うん……おやすみなさい、お兄様」
「おやすみ」
そうやってすぐに眠ったから……気付かれずに済んだだろうか?
あの瞬間、咲耶の言葉通りの光景を……ほんの少しだけ想像したことに。
END