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「ごめんな、こんな服しかなくて」

「いいえ」

 

 

in the ……

 

 

「…………」

 透明感のある雨音だけが支配する部屋で、雨粒が流れる窓から視線を移す。

 ……いや、盗み見る。そう言った方が良いのかも知れない。

「……兄上様……?」

 盗み見る……なぜ、そんな必要があるだろう?

 儚げで優しいぬくもりは……鞠絵はいつものように触れずに、けれどその暖かさを感じられる距離で傍にあるのに。

「兄上様……?」

「あ、ど、どうした?」

 部屋の中、わずかにでも身動ぎすれば触れてしまう距離なのに……それでも雨音に消えてしまいそうな鞠絵の声。

「兄上様こそ、どうかなされたのですか?」

「え、あ……その、な」

「はい……」

 視線と、話を逸らす……そんな俺にまっすぐな鞠絵の瞳。

 嘘なんて通用しないな、そう思った。

「鞠絵のそんな格好、珍しいから」

 いつも着慣れた白いシャツとジーンズ、突然の雨にたたられた鞠絵のために。

 普段の見慣れた清楚な姿とは違う鞠絵。

「ぁ……」

「それだけ、だよ……」

 嘘、ではない……けれど、珍しいくらいでこんな気持ちにはなれる筈がなかった。

「わたくしも、なんだか、不思議な感じがします」

「…………」

「これが、兄上様がいつも着ている服なんですね」

頬を染め、何処か愛しそうに胸元で手を握る仕草……

抱き締めるどころかそのままソファーに押し倒してしまいたい衝動。

「大丈夫だぞ、ちゃんと洗濯しているから」

「…………でも、兄上様のにおいがします」

 鞠絵がやわらかく微笑む。

 それに『幸せそうに』とつけるのは俺の思い上がりだろうか?

「あんまり気持ちのいい匂いじゃないだろ」

「……やさしくて、安心するにおいです」

 余ったシャツの裾……そこからわずかに覗く、整った指先がそっと重ねてくる。

「だって……兄上様のにおいですから」

「…………」

「だから、ずっと包まれていたいです」

 

 

END