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「綺麗だからだよ……」
我ながら歯の浮く台詞。
「本当だぞ」
けれど、こうも言えないだろうか?
それを言わせたお前もお前だ、と。
絡み合う熱を……
いつもの日常の歯車が少し回転を誤った……それはそんなハプニング。
「春歌……?」
「兄君さま」
今まで起こらなかったのが却って不思議……多分、憎らしいほどに勝手で気まぐれな神様という奴がタイミングを計っていたのだろう。
『兄君さまのために』……そう言ってしてくれることの全てが何時の間にか俺を春歌の虜にしていく為の時間をたっぷりと準備しておいてから。
「寒くないか?」
「ワタクシ、お風呂上りですからまだ少し熱いくらいですわ」
月明かりに浮かぶ肌と、夜風に遊ぶ髪はまだ湯煙の熱と水気を纏ったままで。
「それに、兄君さまのお傍ですから……」
「ああ、そうか……」
良かった。それを付け加える頃には俺の声は自分でも聞こえないくらい小さくなっていた。
春歌と寄り添うことは初めてではないし、春歌が本当に綺麗な少女だと言うことも勿論知っていた……なのに、この有様。
「兄君さまこそ寒くはございませんか?」
「平気だ……春歌と一緒だから」
芸のない返答、けれど紛れもない事実……薄い衣越しに伝わってくるぬくもりと、その事実自体が頬どころか全身に熱を感じさせてくる。
「兄君さま」
「うん?」
「それではこのまま居てもよろしいのですか?」
どこか恐る恐る……そんな問いかけ。
「当たり前だろ……なんでそんな事聞くんだ?」
「先ほどから兄君さまは難しいお顔をなさっていますから」
ふと思った。多分、少し緊張しているのはこっちだけではないんだろうな、と。
それはきっと、お互いのことが本当に好きだから……
「そうか、ゴメンな」
そして、そう思うことで優しく笑える……
「それはな、春歌が綺麗だからだよ……」
「……!!」
「本当だぞ……だから、少し驚いてただけだ」
言葉を止めて、澄んだ泉を――揺れる瞳を覗き込む。
心から聞きたい言葉を待つために。
「兄君さま……」
回された細腕、額が胸に押し当てられる……
甘い吐息に鼓動をくすぐられる。
「ワタクシ、本当に幸せです」
「……こっちもだ」
いつからだろうか、それとも最初からだっただろうか?
色々な何気ない幸せを共有できるようになっていたのは。
「兄君さま……」
「うん……?」
「…………」
優しい瞳と幸せの笑みに促されて……
抱き返す手に力を込める。
「俺も、同じだよ」
「……はい」
END