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「きゃーっ、このカボチャ、シチューにしたらとっても美味しそうですのぉっ」

「あ、あのな、白雪……」

 ずん、といった感じでカートがますます重さを増す。

「あ、せっかくだからブロッコリーも買っていくんですの!!」

「おーい」

 目の前で手をふっても気付いてはくれない。

「にいさま、このトマトなんて姫のくちびるみたいにつやつや……きゃっ」

「……そうだね……」

 近くのスーパーの新装開店。

 近所の奥様方に混じって奮闘なさる白雪さんに人の話など聞いておられる気配はまったくなかった。

 

 

Close&close

 

 

「にいさま……やっぱり姫がもう一つもつんですの」

「いいってば、傘も持ってもらっているし」

 帰り道は不要になった傘が一本だけ掛けられた白雪の手からスーパーの袋を遠ざける。

「でも……」

「力使ってからなら美味いものがもっと美味しいからな」

「……にいさま」

 と言うか……俺が四袋、白雪が一袋持った買い物の内訳から弾き出される今日から明後日にかけての食事の量を考えれば戦慄が走る。

 流石に全てが生鮮食品でないにしろ五袋だ。

「じゃあ、今日のディナーは張り切っちゃうんですの」

「……ほどほどにな」

「んもぅ、にいさまったら……にいさまのためなら姫はどれだけでも頑張れるんですの」

 小さなガッツポーズ、その気持ちは勿論嬉しい。

 が、白雪の場合張り切るとそれに正比例して量も増えてしまう傾向――いや、間違いなく増える――があるのが玉に瑕。

「だ・か・ら、楽しみにしててね、にいさま」

「……ん、わかった」

 とは言え、笑顔に指を添えてウインクしながら嬉しい事を言ってくれる白雪が可愛くて逆らえる筈もなく……

「…………」

 ……餌付けされたか、俺?

 頭を掻くこともできなくて代わりに首を回す……鼻の頭に冷たい雫。

「ん……?」

「きゃっ!?」

「やっぱりか……」

「また降ってきたんですの……」

 恨めしそうに空を見上げる白雪を促す。

「白雪、傘くれ」

「……にいさま、それで持てるんですの?」

「…………無理」

 これ以上何を持てる訳がない。

「さ、にいさま」

「悪いな」

「このくらい当然ですの」

 多少格好悪いとは思いつつも白雪の開いた傘に入る……

傘の骨に引っかかった髪が嫌な音を立てて抜けた。

「痛っ」

「にいさま、大丈夫ですの……」

「……まあ、予想付いていたけど、な」

 一瞬だけ見つめ合ってから……精一杯手を伸ばす白雪とさらに前屈みになる俺。

 30cm物差しよりも大きな背丈の違い。

「……きょうのおやつはミルクプリンで決定ですの」

「ははは……」

「それとも、にいさまは背が高い女の子はキライ?」

 いつもよりも近い距離で、それでもやっぱり見上げてくる瞳。

「まあ……ほどほどに、かな?」

「なんだか気のない返事ですの」

「まあ、身長くらい大した問題じゃないからな」

 月並みすぎるけど、それ以外の答えはない。

「ホント、にいさま……?」

「取り敢えず、ウソじゃない」

 その言葉に白雪が立ち止まって袖を引く。

「ね、にいさま……」

「ん……?」

「やっぱり、姫はもう少しにいさまに追いつきたいなって、思うですの」

 ……その笑い方、どんな童話のヒロインも勝てはしない。

「どうして?」

「姫の背がもっと高かったら、こんな気持ちになったときすぐに……できちゃうんですの」

「……こんな気持ちって?」

 白雪の囁きに耳を傾けながら、更に膝を折る。

 傘に入るときよりも、他のどんなことをするときよりも近付かないとできないから。

 

 

 

END