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「兄や〜……」
「亞里亞!?」
驚愕、そしてデジャヴ……
そう、あれは真夏の切ない思い出。
青いボタンを押したはずなのに程よく暖められた缶コーヒーに遭遇したときの気分に似ている。
「なんで?」
今俺が座っているのはイグサの匂いが何処か懐かしい青畳の上で、手の中で湯気を立てているのは魚偏が踊る湯呑み……
いや、違う。
それよりも……亞里亞の格好。
Dress up
「春歌ちゃん、兄やとってもびっくりなの……」
「うふふっ、作戦成功ですわ」
ふすまの陰から現れたのはこちらは家の雰囲気に溶け込んだ春歌……いや、元から春歌の家だから当然だが。
呆気にとられる俺の眼前、笑顔でわかり合う仲睦まじき姉妹。
「ほら、亞里亞ちゃん?」
「はい……」
亞里亞の素質もあろうが間違いなく春歌が仕込んだであろう優雅なターン。
踊るのは豪奢なレースではなくて雅な紋様……
「兄や……?」
そして、軽く傾げられた小首……
「あ、えっと……」
「兄君さま……」
たしなめるような春歌の口調。やっと我に返る。
「うん、亞里亞は着物姿もよく似合うね」
「……ほんとう?」
「兄やが今まで亞里亞にウソを言ったことがあったかな?」
「ぁ……」
とてとて、ぽすっ……
亞里亞の回答はこんな祗園――もとい、擬音が似合うこんな行動。
「春歌に頼んだのか?」
「はい、亞里亞ね……春歌ちゃんにお願いします、ってお電話したの」
膝の上で笑って袖を摘んで持ち上げる仕草は正しく和風の人形……ただし、メイド・イン・フランス。
で、こちらもドイツ帰りの大和撫子がにこにこと隣に腰をおろす。
「それで、せっかくですから兄君さまを驚かせましょうって」
「あー、成る程……いや、驚いたわ」
本当に新鮮な気持ち……
「兄や……うれしそうです」
「んー……そう見えるか、春歌?」
「ウフフッ……はい、とっても」
「あのね……今度は亞里亞が春歌ちゃんにね、亞里亞のみたいなお洋服あげるの」
「亞里亞ちゃん?」
「ああ、それ良いな……亞里亞、ちゃんと俺も呼んでな」
「あ、兄君さままで……」
「春歌ちゃん、イヤなの……?」
「そ、そんなことは……ありませんけれど」
「今日の悪戯の罰だな。亞里亞、春歌をキレイにしてあげるんだよ」
「……はい、兄や」
END