キング・オブ・クリ
グランドラインを渡る風の中に、涼しさを感じた。今日の天気は晴れ。
GM号を運ぶ海は穏やかな顔を見せ、絶好の釣り日和と思われた。
「おっ!かかった!!」
仲良く釣りをいそしむウソップとチョッパーの竿に、何かが釣れたようだ。
ぐんぐんリールを引くウソップ。
――軽い、無茶苦茶軽い。
すっげーぞ!コノヤローを連発するチョッパーに、空手チョップを食らわしたい衝動に、ウソップは、かられた。
「アレ?ウソップこれ?」
最近コックアシスト兼悩み相談係りとしてGM号のクルーになった、が、今にも噴出しそうな顔で話す。
「ウオォーー!こりゃ栗のイガだ」
「食えねェー」
しょんぼりとしたチョッパーを宥めつつ、突っ込みを入れたくてタイミングを計る。
「おお!そうだ。お前らにオレさまのとっておきの話をしてやろう!」
何やら、また妙な話をべらべらとウソップは語りだした。は、よくもまぁ舌が回るものだと、半分呆れながら
ずるずるとチョッパーと共に、ウソップの話に引きづり込まれていった。
「でな、その栗が、バカでかいのなんのって、クリケットのおっさんも真っ青になるくらいだ!
超ビック栗、ゲットのため〜に、オレさまは考えた!取り出したのは自慢のパチンコだ!
火薬星で狙いを、イガの付け根に定めて、ウソーーーーップ火薬星!ドッカーーーン!
見事命中!オレさまの腕を見くびんなよ、てめェーら!」
「おおおお!!すっげーーーっぞ!」
うんうんコクコクと感嘆の声をあげ頷くチョッパーと。
「その時だぁーーーーーーー!!栗のイガの中から、『おいでませキングオブクリ帝国へ〜』なんて、ふざけたヤロウが
『こんにちは〜。さぁ貴方を、めくるめく栗の世界へご招待v』なんて、オレを誘うんだ!全身に纏う小さな栗。
オレはびっくりしたぞ!マリモンなんて目じゃねェぞ。いや、ゾロの腹巻のほうが、まだましってなもんよ」
「ひぃーーーーーーー!!!」
抱き合い、全身の毛が逆立つチョッパーと。もちろん、涙目だった。
“どっこーーーーーーーーーーーーーーん!”
“ぼっちゃーーーーーーーーーーーーーん!”
その時、険悪な雰囲気を纏ったサンジが、ウソップの後頭部に蹴りを入れ、ウソップは海へ沈んだ。
「うっわーーーっ!サンジ!ひっでーーーっよ!ウソップ無事か?」
慌てての投げたロープに掴まり、チョッパーに引き上げられるウソップ。
「ぶっへぶっへっ!てめェーナニしてくれますの?」
恨めしそうなウソップの顔は、二人の笑いをかった。笑い転げるとチョッパー。
ウソップの長い鼻にまとわりつくわかめ。髪に絡まる、通常よりでかい栗のイガ。笑うなというほうが、無理だった。
「あぁん?長っぱな!てめェー、純真なちゃんに、ウソばっかついてんじゃねェーよ!
ナニがキングオブクリだ!このアホたれ。見ろよ、ちゃんの目、涙浮かぶくらい、びびってんじゃねェーかよ!」
「「ウソなのか!!」」
ガボーーンと、ショックを受ける二人。
は、笑ったせいで、涙目だとは言いがたいらしく、心の中で、突っ込みを入れた。
――イヤ、泣いてねェーし。
とりわけチョッパーは、サンジがだけを気にかけたのに、気が付き、首をひねった。
――オレはいいのか?騙されても?
「なにいってやがる!オレさまの髪に絡まるイガを見ろ!」
これ幸いと、イガを振りかざし、ウソップは、力説する。
「くそっ。あぁもう、てめェのウソのセンスは、なんなんだよ。キングオブクリ。ほう?で、どんなヤツなんだ?んぁ、コラッ長っぱな」
「おう!キングオブクリっつーーのはよ」
あんなんで、こんなんでと、手振り身振りで、大げさに面白おかしく話すウソップに、見る間に引き釣り込まれる二人。
のきらきら嬉しそうに聞き入る瞳の輝きに、こんな顔が見れるならウソップのうそも悪かねェーなと、サンジは思った。
「風に秋の匂いがするよ」
「すっげー!チョッパー、鼻いいなァ〜」
「てめェの鼻は飾りだもんな。長いだけ」
「ヲイ!オレは人間だ。嗅覚は人並みで当たり前だろ!」
風が運ぶ秋の気配、気候の安定した海域。次の島は秋島だなぁーと、誰もが思った。
煌く波間についに島影が見えてきた。
「なぁ、秋つったら、ナニを思う?」
「メシ!!」
――てめェは、いつもだろ。
「まったけ」
――おっ!てめェ、きのこダメだろうが。高いもんは別かよ?
「月見酒」
――酒ねェー、てめェーいつも月見酒してるんじゃねェ?
「んとね、オレは高い空」
――そっか、秋の空は特別高いもんな。
「私も高い空ね」
「あ〜〜ナミさんv恋の秋じゃないんですか?なんなら恋の下僕サンジv今からでも、お相手しますよ」
「私は、やっぱり読書かしら」
「なんて素敵なんだ〜〜vv知性が光るロビンちゃーんv」
「ん?ちゃんは?なんだよ、照れてねェーで言ってみなよ」
――秋の風に、心が揺さぶられていく。ナニを言えばいい?ぐる眉のコックを好きだって言ってみる?
ふふっと笑って誤魔化す。の心はサンジに惹かれていた。
――秋に思うこと。サンジの横で甘えてみたいなかな。
「ん〜と、やきいも」
――なんだよ!やきいもかよ!くっそっオレのことって言えねェーのかよ。
「なんだよーー!ちゃんは、色気よか食い気なのかよ〜。コックアシストとしては、秋の味覚は外せねェのかな」
内面の葛藤を押し殺し、サンジは、にっこりと笑いかけた。
「サンジくんは?秋にナニを思うのかしら?」
あんたたちの考えてることなんて、お見通しよと、サンジとを順に、にやにや笑いながら見て、ナミが問う。
「ナミさーんvオレは秋つったら、恋の季節でっす!ナミさんと共にめくるめく愛の世界vいかがですか〜」
ハートを飛ばしまくり、ラブコックと化したサンジに、やれやれと皆呆れ、散り散り各自上陸準備に取り掛かった。
揺れる木々。望む島は、深い森で覆われていた。豊かな自然の色濃い島。船上から容易に森の恵みの豊かさが把握できた。
「おっしっ!!!ヤロウども、たっぷり取ってこい!」
お約束の食糧不足解消のために、サンジが采配をふるう。
「オーイ!ミドリハゲはトナカイ連れてけ」
「ルフィーー!てめェー、取ってそばから食ってんじゃねェー!!収穫してこい!」
「うぉおおお、島に上陸してはいけない匂いが、オレさまの鼻を刺激してきたぁあああ」
「本当か!ウソップ!どんな匂いなんだ!」
「オイ、またオレはチョッパー付きかよ!」
「おう。オレ様の指図に文句たれんじゃねェーよ」
「ナミすわぁ〜〜〜んvロビンちゃんは待ってってネ。オレが美味いもん、取ってくっからね〜〜」
「で、ナニを取ってくりゃいいんだ?野生動物か?」
「あぁん、秋島にきて、秋の味覚を収穫しねェー手はねェ!てめェはチョッパーと松茸狩りだ!
てめェのチンコみてェに、傘の開ききったヤツは却下!クソ不味ぃーからよ!開く前の方が美味ェからな!」
「カッチーーーン!!!誰のチンコが美味くねェーんだよ!」
「あぁーん、てめェーの腐れチンコに決まってんだろ!」
お下劣極まりないチンコネタの応酬を続けるバカ2匹。処置なしだった。
下ネタある程度へっちゃらのナミ、ロビンにしてみれば、何でもないことだったが、には堪らない。
島に上陸してはいけない匂いについて、チョッパーにホラ話を吹聴しているウソップの影に隠れて、
聞こえないふりをしているが、赤く染まった耳に、聞こえている印があった。
「じゃーなんだよ!オレ様のビッグマグナムは長っぱなの鼻にも劣るってのか!?上等だーーー!てめェー!!!」
「ヲイ!オレに振るな!」
びしっとウソップの空手チョップが空を切った。
「だいたいなんなんだよ。チンコチンコって大声で叫んでよ。サンジ、いいのか?がびびってんぞ?」
呆れた顔にちょっぴり真剣な顔のウソップが、くいっと親指で示した先に、涙目で真っ赤になったがいた。
「うっは!!ちゃーーんvvごめんヨvマリモンの腐れチンコにオレ様が劣るわけねェーよな」
同意を求められても、見たことないしと、心の中で突っ込みを入れ、は返答に困ってしまった。
目前に迫るサンジの顔。蒼眼に映る自分の顔。かっと頬にますます血がのぼる。
「やめんか!!!」
二人のやり取りを笑ってみていたナミの鉄拳が、やっと落とされた。
ぷしゅーっと、甲板に沈むサンジに、慌ててが大丈夫?と、手を掛けるのを、眼の端に留め、ナミの采配がふられた。
「ゾロとチョッパーは、チョッパーの鼻で松茸狩り。ルフィとウソップは果物系。サンジくんとは、ん〜木の実系。
各自、他に食べられそうな動物も狩ってくること!以上、解散!!」
「ナミーー!!てめェーはナニすんだよ!」
「あぁーん、文句あんの!ロビンと船番するから、あんた達は、働け!!!ねっvサンジくん」
ぱんぱんと、手を叩き、軽く鬼顔になり、サンジに魔女の微笑みを向けた。
「はぁ〜〜〜い!ナミさぁーーーーーーーーんvvオイ!秋の味覚狩りやんぞーーーーーーーー!!!」
ナミさんのためなら〜〜と、またもや、ラブコックモードのサンジ。大張り切りだ。
「バカコック」
「エロコック」
「くそまゆげ」
「肉食いてェ」
「すてき尻」
「「「「えっ!!!!????」」」」
それそれが小さくぼやきを言う中、聞こえたの言葉に、動揺する4人。
けろりとしたの顔を見て、空耳かと首をひねりながら、島の2方向に探索を開始した。
「さてと、ちゃん。行こうか」
「うん」
クルーの向かった先とは別方向に、付かず離れずの距離を保ち、歩いて行く。
――二人きり。
サンジの心に交わる感情。
――どきどきするけど。
――ナミさん。感謝v
振り仰いだ空は、雲ひとつない蒼い空。
――オレの心とはえれェ違いだな。
サンジは、しみのない空にそっと紫煙を吐き、薄汚れた感情を流し、一定の距離を保ち付いて来るをちらりと眺めた。
蒼い空。
――吸い込まれそうな蒼。求めている人の瞳を写しとったみたい。まるで、サンジに抱かれてるみたいなんて、照れちゃうね。
距離を保っていても、感じる波動が、をやさしく包み込む。
サンジのちらりと盗み見るような視線が、眼の端に入り、慌てて顔を伏せた。
好きな人の前だと緊張してしまうようで、ウソップチョッパーといる時とは違う雰囲気。
分け入る森の中は、赤く黄色く紅葉した葉と茶色い樹木。あちらこちらに、散らばる木の実が、森の豊かさを物語る。
聞こえる音は、風に揺られる木々のさえずり。人の踏み込んだ気配を感じ、飛び立つ鳥たちの羽音。
海とは違う音ばかりで、は、時を忘れて、森の音を楽しんだ。
森の中を、サンジと共に、食べれそうな木の実を拾っていく。強烈な匂いを放つ銀杏は、あとで取ることにして、
木の実と言われたが見つけたものは、取り合えず、収穫していった。
秋グミ、アケビ、木苺、山葡萄、サルナシ、そのままで食えるものの収穫をルフィに任せたのは、間違いだったなと、
呟いたサンジのがっかりした顔が、とてもおかしくて、は、いつしか自然な笑い声を上げていた。
ひとつひとつ、見つけた者の特権で味見をしてみた。空と陽と土の恵み。口に広がるやさしい飾り気のない味。
すっぱい秋グミに、おっこれが初恋の味かなっと、サンジが笑いかけるのに、はどきどきしてしまい、そ知らぬ顔を見せた。
笑い顔がすっと引っ込んだことに気がついたサンジは、ぽんぽんと、の頭を叩いて、
「流石に、シイの実どんぐりは生じゃムリだな」
と、話題を変え、また、食べるよりも、探すほうに集中し始めた。
「ちっ!どんぐりばっかじゃねェ?栗がねェのって、おかしくねェ?」
ぶつぶつと呟くサンジの背中。背中越しなら、熱い視線送っても、ばれないね?なんて思いながら、
は、どんぐり拾いに夢中になっていった。
ぽこんと、の頭に落ちてきた木の実。森に住む動物が食べかすを捨てたようだった。
拾いあげてみたら器用に中身が食べつくされた栗の実だった。それもかなり大きい。赤ちゃんの握り拳くらいあった。
見上げた木の梢にいた影が、の視線を感じ、さっと逃げ出していった。
我を忘れては駆け出した。影の先に、栗の木があるような気がして。サンジが止める声が聞こえたような気がしたけれど、
振り返った時には、もう深い森の中で、一人ぼっちになっていた。
――不味い。ゾロの迷子を笑えなくなっちゃうな。
戻るべきか、それとも、サンジが追いかけてくるまで此処で待つべきか、は、迷っていた。
ぽこん。またの頭に栗の実が落ちてきた。
見上げた梢に、一匹のリスがいた。ニッシャっと笑い、ついておいでと誘うように、振り返りながら、リスはの先を進む。
――あのリスは、なんなんだろう?私を呼んでる気がする。ほら、また振り返った。
誘われるまま、リスの後を追って、は歩き出した。
――この先に何があるの?栗の木の元まで、案内してくれてるみたいだよね?栗が見つかったら、サンジ喜ぶよね?
おいでおいでと、先をしめすリスとは他に、の心に働きかける声が聞こえてきた。
『見つけて。出して』
耳に聞こえるわけでなく、心に語りかけてくる不思議な声。
導かれるまま、辿り着いた先には、大きな栗の木があった。樹齢何百年、何千年なのかもしれない巨木。
圧倒されるに、また声が語りかけてきた。
『こっちこっちだよ』
目を凝らして見た先に、大きな栗のイガが見えた。その時、木の梢から先ほどのリスが、するすると、蔓を落としてきた。
登れと言わんばかりの蔓を、くいっと引っ張ってみた。強度は十分なようで、は、意を決して登りはじめた。
――木登りなんて、どれぐらいぶり?サンジが見たら怒られちゃうね。でも、あの栗。もしかして?ウソップの言ってた栗かな?
世間づれしているようで、していないの純真な部分は、ウソップのほら話を、半分信じていたようで、
どきどきしながら、昇っていく。やっと、目標のイガがぶらさがっている梢に辿り着いた。
――『キングオブクリ帝国、ご招待v』ちょっと、怖いよ!それっ!
ウソップのほら話を思い出したは、はっと我に返った。
――うっそーーー!!!私、なんで木登りなんてしてるのよ。いやーー!高いよ。怖いよ。
何者かに操られていた意思が覚醒し、一気に現実に戻された。
恐る恐る下を覗き込んでしまった。見なければ、さほど怖くもないのに、見てしまったから、もう遅い。
高い。思っていたより高い。もの凄く高い。眩暈がしそうなくらい高い。腰ががくがくしてきた。慌てて木の幹に縋りつくが、
縋りついたら、一歩も動けなくなってしまった。
なんて私はドジなの?と、自分を罵ってみるが、無駄である。その時、の足に、何かが触った。
ヒィーと声が思わず漏れた。さっと振り返った視界に、先ほどのリスが、ニシャニシャ笑いを浮かべて、『早く取ってよね〜』と
言わんばかりに、大きな栗のイガを指差した。
リスは『それくらい出来ないの?』といった生意気な顔で笑う。むきになったは、高くて怖いのも忘れて、そろそろと、
靴を脱ぎ、下に落とした。下に落ちた音すら聞こえてこない。
『なんだよ。出来ないの?』リスは益々挑発してくる。このバカリス!!と、すっと枝に立ち、リスを追いかけた。
完全に高さは忘れたようだ。リスを追いかけたら、いつのまにか、あの大きな栗のイガの根元にいた。
地上で見上げた時に、目に入ったくらいだから、そうとうでかいだろうと、予想はしていたが、まさかこれほどとは。
でかい、バカでかい。子牛が一頭入ってるんじゃないのってくらい、でかい。
腰に差してきたサバイバルナイフで、根元をごしごしと切り離すために、ナイフで削るが、中々作業は進まない。
ウソップのホラ話も忘れて、ただ、こんなでかい栗を収穫したら、サンジがどんな顔するのかが、楽しみで、ムキになって削った。
その頃、サンジは、を探していた。
何者かに誘われるままに、駆け出していった。後姿に思わず声を掛けたが、止まらない。
なんなんだ、いったい?と、秋の実りの詰まったカゴを背中に背負い、後を追ったが、見失ってしまった。
――くっそーオレはアホかよ。カゴなんてほっときゃ良かったんだ。すぐに後を追えば、オレとちゃんのリーチの差。
スピードの差で、すぐ捕まえれたじゃんよ?
ちっくしょーー!!どっち行ったんだ。ん?なんだ?
森の中を駆けるサンジの耳に聞こえてきた声。
『もうすぐ、もうすぐだよ。出れるよ。頑張ってちゃん』
森の木々のあちらこちらから、ささやく声が聞こえてくる。
「誰だ!?出て来い!!!」
思わず、叫ぶサンジ。ぴたっとささやく声は、消え去り、あたりには、風に擦られる木々のざわめきだけが残された。
――なんなんだ?いったい?不思議声か?いかん。オレはサンジだ。ルフィみたいなこと言ってどうする?
きょろきょろと、周囲を見渡すサンジの目にが先ほど、捨てた靴が入った。
慌てて拾い、上を見上げたら、今にも落ちそうなバランスで、枝に掴まり、一心に何かしているがいた。
「ギャーーーーー!??ちゃーーーーーーーーん!!!危ねェーーーーーー!!!」
びっくりして、思わず叫び声をあげ、サンジは、木を駆け上がり始めた。
こそ、びっくりだ。森のささやきしか無かった空間に飛び込んだサンジの叫び。
サンジの叫ぶ声に、危かった指先が、枝を捉え損ね、あっさりと、重力に逆らわず、まっ逆さまに、落ちていった。
途中の身体がぶつかった例のバカでかい栗のイガと共に。
――死ぬ!絶対死ぬ!!!ってか、イガにぶつかった腰が痛い!とげ刺さってるよ!絶対!!ああん、サンジ!!!
の脳裏を楽しかったGM号の生活。主にサンジの笑顔が走馬灯のように駆け巡った。
――くそったれがーー!ぜってェ助ける!
幹から反動をつけて飛び降り、邪魔な栗のイガを蹴りとばし、空中でなんとか、サンジはの身体を捕まえた。
絡まりながら、落下していく二人。
見る見るうちに、地面が迫る。を守るように自分が下になるように、サンジはの身体を抱きしめた。
どーーーーーん。
舞い上がる落ち葉。森の地面は、降り積もった落ち葉が、やわらかな天然のマットになっていて、二人を受けとめた。
――もう死んだんだ。死んじゃったらなんにもならない。
気絶しているようなの頬を、やさしい指先が撫でた。
「大丈夫か?ケガねェーか?ちゃん?!!」
恐る恐る目をあけてみたら、大好きなサンジの顔があった。
抱きとめられた身体。かなりの距離を落ちたのに、サンジの腕に守られた。
なんだか分からないけど、涙が出そうになって、慌てては、
「サンジ、見た!!スッゴイ大きいの!美味しいかな?栗??」
サンジが喜ぶと思ってと、嬉しそうに話し出す。
「バカヤロー!!!オレが喜ぶだって?ふざけんな!」
「だって、だって」
「あのな、ちゃん。危ねェーことするなよ。オレは……オレのほうが、死んじまうよ!
大事なちゃんが、オレのためとかで、んな怪我なんてしちまったら、オレは、」
怒鳴られたショックと、大事なちゃんと言われたショック。どちらが大きいのか分からないが、の目から
ぽとりと、涙が零れた。
「悪ぃ。怒鳴っちまって。あのな、オレ、ちゃんが好きだ。笑ってるちゃんの顔が好きだ」
――ナニ言ってるの?エロコック?それいつも聞いてるし!
心の中で、突っ込みを入れまくる。
――いまいち、本気に聞こえないつーの!
「黙ってちゃ、わかんねェよ?ちゃんはオレが嫌いか?」
常にからかうような瞳が、真剣な色を見せる。ナミやロビンに奉仕するときの色でなく、澄み切った秋の空の色。
「好き」
顔を伏せて、かろうじて聞き取れるくらいの声で、ささやいた。
「ん?もっ一回言って」
聞こえたくせに、もう一回聞きたくて、信じられなくて催促した。
「好き」
――クソまゆげ、しっかり聞けつーの!
真っ赤に染まった頬は、もみじの葉っぱより、赤かった。
「もっ一回言って」
の顔をからかうように、覗き込みながら、促した。
「エロコック!!!好きっつってんだろが!!!」
は、なんか、凄く悔しくなって、耳元で、思い切り大きな声で叫んだ。
森にこだまする『好きっつってんだろうが!!!』
――しまった!でかすぎた!!!いやーーーー!!!恥ずかしいぃーーー!!!
あまりのでかい声に、びっくりした森の生き物が、ざわざわと興奮しているのが、木々を通して伝わってきた。
げらげらと笑い出したサンジを、軽く睨みつけ、照れかくしから、先ほど落とした栗のイガの様子を見に、サンジから遠ざかった。
ぱっくりと口を開けたイガ。
――どうしよう?『キングオブクリ帝国』だったら、私、泣いちゃうよ。
恐る恐る覗き込んでみたら、大きな栗が3つ入っていた。ほっとしたの目にとまった小さな羽根。
笑いの発作のおさまったサンジの手が、の肩に掛けられた。
「どうした?キングオブクリがいたか?んなわけねェよな?」
がサンジを振り返ったその時、
「キングオブクリ!!!さんくっすだっぎゃ〜!!」
「ぎゃーーーーー!!!」
「ひぃーーーーー!!!」
びっくりして、慌てた二人。思わず抱き合い、サンジはお姫様ダッコで、猛ダッシュで、逃げ出した。
――きゃーーー!!恥ずかしいから、降ろしてよ!!
ナニどさくさに紛れて、ダッコされてるの私?しかもお姫様ダッコかよ!
「ちょっと、ちょっと、おみゃーさんたち。ありがとだぎゃー。ナニ逃げとんの?わし怖くねぇぎゃ〜?」
聞こえて来た声の間抜けな事。サンジはへなへなと力が抜けていった。
ゆらりと身を起こし、立ち昇る凶悪なオーラを纏い、振り返ったサンジの目に飛び込んだ声の主は、なんとも可愛らしいちび妖精だった。
「あのよ〜う、わしよう。困っとったんだわ〜。昼寝してたらよう、栗のイガに迷いこんでまってよう。
自力じゃ出れせんでよう。おみゃーさんたちが来てくれて、助かったぎゃー。ほんと、ありがとだぎゃー」
間抜けな言葉と清らかな顔立ちのギャップに、サンジの怒りはどこへやら、ついでにの驚きも、どこかに消し去った。
「お礼によう。なんでもかなえたるで、言ってみゃー。わしに出来ることなら、かなえたるでよう?」
「質問。麗しいレディ。貴女は何者ですか?」
「ああ、わし?わしは、ホレ、アレだぎゃー。森の番人だぎゃー。で、願い事あれせんの?わしも忙しいでよう?
無いなら、おいとまさせてもらうぎゃ?さぼっとった分、仕事たまっとるでよう。あっ、その栗持っててええからな。じゃ、またね」
あっさりと、羽根を空に広げて、飛び立とうとする妖精を、
「ちょっと待て!!(ゴルァー!!!!!)」
「ちゃん???」
あっけに取られるサンジを尻目に、のマシンガントークが引き止めた。
妖精との会話は、聞くに堪えないので、はしょる。
「ああ、ほんま苦労しました!」
「だから、ありがと言っとるぎゃ?で、ナニ願い事は?わし、ナニしたら、許してまえるの?」
あっけに取られ口を挟む隙のなかったサンジを、ちらりとは眺めた。
の視線に、我にかえったサンジは、
「ん〜〜カゴ一杯の栗と、森の恵みをオレたちの船に、ちょっとだけ、届けてくれねェ?」
なっそれでいいだろ?と、に笑いかけた。
「へ?ほんだけばっかで、ええの?じゃーおまけに、船までの案内役付けたるわ」
妖精がぱちんと、指をならすと、木々の隙間から先ほどのリスが顔を覗かせた。
「リスのあと、ついてきゃー船に着くでよ。ほんならね。ありがと」
ぱちんと、もう一つ指をならし、妖精は、森の奥深くに羽ばたいていった。
ウソップの嘘を笑った罰なのか、あまりの展開に、頭がついていきたくない拒絶反応を起こしそうだが、いつのまにか
栗で一杯になったカゴを背負い、リスの先導で、森を後にした。
入ったときと違うのは、サンジの手との手が繋がれていたことだった。
深い森を抜け出したとサンジの目に飛び込んだ光景。
ありとあらゆる森の動物たちが、手に口に森の恵みを持ち、GM号の目前に集まっていた。
「おおおーーーー!!サンジ!!すっげーっぞ!不思議森だ!!!」
ルフィが、大熊と相撲を取っている。その横で、ウソップは死んだふりをしていた。
「いったい、なんなんだ!こりゃ!クソコックなにしてきやがった!!!」
美人のたぬきの差し出す、天然の酒に舌鼓を打つゾロ。その横で、たぬきの通訳をするチョッパー。
「ああん!オレに惚れただと!てっめーーーー!顔洗って出直してこい!たぬきなら化けろ!
つーか、てめェのお似合いは、オレよか、チョッパーだ!」
むちゃくちゃな論理だ。惚れられて困るのは、もっともだが。
「オレはたぬきじゃねぇーーー!トナカイだぁああああああああ!!
サンジ、すっげーぞ。みんなサンジとに感謝してるぞ!食べ物好きなだけ持ってっていいって」
よよよっと泣くたぬきを慰め、ゾロをシャーーーと威嚇しながら、チョッパーがキラキラした目で、話す。
「あらあら、ゾロにはお似合いなのにね?サンジくん、、お帰り」
「だーーー!オレが悪いのかよ!」
「てめェー、レディの扱いなっちゃいねェな」
「アホか!てめェー!」
「おーーーーっし!!キャンプファイヤーだ!」
「ハァ?」
「……船長さん。動物は火を怖がるわよ?」
「だいじょーーーーぶ!船長命令だ!」
やれやれと、どこもかしこも、突っ込み入れたい衝動を覚えながら、クルーの呆れた顔を見渡して、は空を見上げた。
夕暮れに染まる空。アキアカネが飛んでいる。一匹のアキアカネがの手に、すーーっと羽根を休め、飛び立っていった。
手のひらに残されたものは、秋グミだった。キラキラと陽を受け反射する天然のルビー。
そっと、口に含んでみた。口内に広がる甘酸っぱい初恋の味。
――いつか、サンジに言おう。『私の初恋はサンジだよ』って。
秋グミのすっぱさに、顔をしかめるに、サンジはそっと近寄り、
「ちゃんの初恋は、オレだよな」
いきなりの顔を持ち上げて、くちづけをした。
叫び声をあげると、に抱きついて離れないサンジに、あっけにとられるクルー。
森の中に、ナミの鉄拳に沈むサンジと叫び声が、こだましたのは、当然だった。
サンジが、あの手この手で、のご機嫌を直し、宴会が始まるのは、もうちょっと後のこと。
おしまい
友人しうんちゃんが踏み抜いた400。
キリリクやってないのですが、日頃の感謝の気持ちで、キリリク受けさせて頂きました。
いったい、いつだよ?400って(苦笑)
分かりますよね?ヘタレなんで、構想ねるのに時間かかるんです(笑)
リク内容
「サンジに怒鳴られるヒロイン。一生懸命のあまり」でした。
あまりのお下品なサンジのちんこ連発。あ〜許してしうんちゃん。
名古屋弁が、むっちゃ楽しかったっす。