曼珠沙華 風に揺れる赤い花 血の色に貴方を思い出す ねぇ、サンジ。オールブルーは見つかった…… 大勢の人が賑わう市場で買出しをしているサンジの目に、とまった一人の女。 「もうこの花の時期なのね」 女の視線の先に、建物の隙間から、燃え立つような赤い花が見えた。 ぽつりと呟いた女の言葉に籠められた悲しみに、サンジは気がついた。 「お美しいレディ、あ〜僕の瞳は貴女に釘付け、貴女の瞳で僕を縛ってください」 「………」 ぎょっとして、サンジを振り返った顔が、いきなり笑い出した。 「ぷっはははっははっはっ」 豪快に笑い出す女に、あっけに取られ、しょんぼりとするサンジ。 「あっはっははっ、ご、ごめん!だって、貴方の顔ったら…クククッ。 そっそれに、ぶっはっはっ、はぁ、 そっ、そのセリフじゃ、誰もついてこないわよ。ナンパ師さん」 なおも笑い続ける女に、サンジは幾分ふてくされた表情で、拗ねてみせる。 「あ〜〜〜ごめん!!ごめんってば!!」 ばんばんと、サンジの背中を叩きながらもなお、女は笑い続ける。 「そんなに可笑しかったですか、レディ。笑って頂けて、光栄です。 俺は、サンジ。レディのお名前を、教えていただけませんか」 咥えタバコを下唇の先で、くいっとあげ、にやりとするサンジ。 「笑っちゃったお詫びに、教えてあげるわ。よ」 まなじりに笑いすぎて出た涙をためながら、答える。 「あぁ、さんv貴女の唇の輝き、赤さに、フォーリンラブvこの俺とデートして頂けませんか?」 大げさな身振りを添えながら、サンジは、照れもなく誘う。 「バッカっじゃないの?」 サンジのセリフの仰々しさに、苦笑を交えつつ、はサンジと共に、歩き出した。 海岸沿いを、とりとめの無い話をしながら、歩く。 ふっと、が周囲の様子に気をとられた。 一面の赤い花。 そこは、この島に来てから、そこにこの花が咲くことを知ってから、 が意識して近寄らないようにしていた赤い花の群生する丘だった。 「さんは、あの花は嫌いなのかい?」 くいっと、あごで赤い花を指し示す。 「えっ!?……きらい、嫌いよ。あの花だけは」 きゅっと、下唇をかみ締めるの瞳から、すっと笑いが消え、赤い花を憎むかのような光を宿す。 「あっはっはっ、そっか。嫌いか……。なぁ、あの花、結構いいヤツなんだぜ」 「毒があるから」 「死人花だから」 「縁起が悪いから」 「いきなり、地面から、何の脈略もなく、生えてくるのが、イヤ!」 は一番嫌いな理由を話さず、他の嫌いな理由を次々と、出してくる。 サンジは次々と理由を並べるに苦笑を交えながら、自分がこの花が好きな理由を話していく。 サンジの軽い口調を、やさしげな物腰に、の話す勢いがおちかけた。 「でな、この花の根っ子はな、食えるって知ってるかい?あぁ〜毒も確かにあるさ。でも食えるんだ。 どれだけの人の命を救ったか、わかんねェんだぜ。すごくねェ?俺は好きだな」 にやっと、笑うサンジの蒼い眼。吸い込まれそうな海の蒼さ、空の蒼さ。 楽しげにぐるりと巻いた眉が、ぴくりと動く。 の瞳から溢れるものを、からめとる指先の温かさ。 「食べられるなんて、知らなかった……」 声を押し殺して泣くを、サンジは黙って抱き寄せた。 辛ェんなら、泣けよ。我慢しなくてもいいさ 何故泣くなんて、陳腐なこと聞けねェし、聞きたくもねェ レディが泣くのを宥めて、そばに居てやるのが、男ってもんさ 海からの風を受けて、赤い花が揺れる。 この風は、グランドラインを越えてくるのかと、思うサンジの目にとまった一本の花。 「おっ!あれ!!??あれ見てごらんよ!!」 赤の中に、ぽつりと映える白。周りの赤い花に負けぬように、生える白い曼珠沙華。 「なぁ、知ってるかい?白い曼珠沙華の意味を……。 昔な、天の神さんが、人を生み出した時によ、人に与えた食いもんは、白い曼珠沙華だったんだ。 でもな、人間つ〜のはよ、罪深いもんじゃねェ?生きるために、色んなもんの命を摘み取ってよ。 その罪がな、白い曼珠沙華を、赤く染めちまったんだってよ。 でな、赤の中に生まれた、白い曼珠沙華は贖罪の印なんだよ。 もう、赦されたって事なんだ……。 いいもん、見れたなァ。俺ァ、これからグランドラインに行くんだが、 ……あれ、見れて、俺の罪が赦されたみてェで、嬉しいぜ」 興奮したサンジは、の顔を、ぐいっと白い曼珠沙華に向けながら、我を忘れて話す。 白い曼珠沙華を、じっと見つめるに、サンジの言った「贖罪の印。赦された」が、ゆっくりと 沁みこんでいき、少しづつ少しづつ心の中に満ちてくる。 もう忘れてもいいの…… の顔に書いてある言葉のわけをを、サンジは尋ねるつもりもなかった。 何を忘れていいのか、なんてっよ。聞かずに忘れさせてやるのが、男さ 「ん?どうかしましたか?」 「あ、うん。なんでもないわ。サンジは、どうしてグランドラインに行くの」 「あぁ、俺ァ、オールブルーを見つけに行くんだ」 屈託のない幼子のみせる笑顔で、サンジはオールブルーを語る。 白い曼珠沙華の遥か先にあるはずのオールブルーに、ありったけの思いをこめて、夢を語る。 は、俺の夢だというオールブルーにかける男の情熱、強い意志、瞳の輝きに、心を奪われていく。 「見つかるといいわね。オールブルー」 「あぁ、絶対見つけるさ。あるんだ、オールブルーは、あのグランドラインの何処かで、俺を待ってるんだ」 強く心に思っていれば、必ず、夢は叶う。 の内に、亡き人の幻影が蘇り、笑いかけてくる。 あぁ、初めてあった頃の笑顔で…… あなたの言った言葉、この人にあげてもいいですか…… 「強く心に思っていれば、必ず、夢は叶う」 の唇が、自然に開き、言葉が生きている意志を持つかのように、こぼれおちた。 「だよな!!!いやっほ〜〜〜〜〜い!!!!!」 宝物を見つけた幼子のように、叫び。 サンジは、を抱き上げてぐるぐると、回り始めた。 隠しきれない嬉しさを、発散させるサンジ。 やがて、眼の回ったサンジは、腕の中のごと丘に転った。 斜面をくるくると、絡みあいながら落ちる二人。 転がり落ちた斜面の終わり、サンジの上で息をつく。 はぁはぁと、はしゃぎすぎ笑いすぎた二人に訪れた沈黙の一瞬。 サンジのやさしい手がを引き寄せ、甘いキスを仕掛ける。 は、一瞬、ぴくりと躊躇いながら、キスを受け入れていく。 丘の上から、サンジを呼ぶ声がする。 「あっ!やっべっ!!俺、行かなきゃなんねェ……」 「えっ、もう、行ってしまうの?」 「あぁ、さんも来るかい?俺たちと」 「私は……」 「行かねェ?俺と、行こう、オールブルーへ」 さしだされた手。そこに、手を重ねる事は、簡単なこと。 熱に浮かされたかのように、手を浮かせていくの目に、白い曼珠沙華が揺れた。 浮かせた手を、ぱっと引っこめて 「ごめんね。私は行けない。サンジは夢を叶えて」 「私の夢は、砕けてしまったの。でもね、サンジに出逢って、新しい夢ができたわ。 私の夢は、大切な人の夢が叶うこと……」 「あぁ……。俺が夢を叶えたら、迎えにきてもいいですか。プリンセス」 吐息がを捕まえ、許しを乞うように、キスがおとされた。 嵐に曼珠沙華が揺れる中、グランドラインに向けて、GM号は突き進む。 それぞれの夢を叶えるために。 進水式の後、サンジは摘み取ってきた曼珠沙華を、海に捧げる。 誓いを忘れないように、祈りをこめて。 貴方は、今頃、どの海にいるの 甘いキスを残して、出かけていった、ぐる眉の金髪さん 歯の浮くセリフを残して、夢に向かった貴方 心だけ連れてって 貴方の夢が叶うように、ここで祈りましょう 待ってるから……サンジ |
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彼岸花、曼珠沙華なんですが、 友人が彼岸花の毒性について質問してきたことが、ありまして ちょっと、凝って調べ物した時に、色々知りまして、 目からウロコがぽろぽろと、落ちました。 で、何の気なしに、出来上がったのが、これです。 甘いんだか?甘くないんだか?よく分からないです(泣き) サンジのセリフの贖罪云々は、うそ八百なんで、信じないでくださいませ。 |