The Wind of Andalucia 〜 inherit love 〜 15. 勝利へ 「!!!!!」 思わず駆け寄り、蹴りを繰り出そうとするサンジを、ルフィとゾロが左右から止める。 「離せ!!」 「いや!ダメだ!!我慢しろっ!!」 ルフィの真剣な声と、澄んだ瞳。 「これは、あいつの戦いだ。てめェだって、承知の上だろうが!」 ゾロの怒りながらも諭すような口調。 「くそっ!!!」 んなこたァー百も承知だ!!!だがなっ!!! あいつは……あいつは……… !!!勝てよっ!!!!!!!! 「くそっ」の一言に籠められた思い、を愛しく思う熱情が、サンジを焦がしていく。 熱を帯びた指先から溢れ出る思いが、ルフィ、ゾロにも伝わっていく。 どれ程、を真剣に思っているのか、いつもの軽いラブコックとは思えぬ程の激情。 サンジの目に映るの動き。 を庇いながら、グラムオブハートを振るうライルの動き。 一対の人形のような一体感。 右から左から上から下から、お互いの攻撃のリズムを読み、繰り出されるとライルの剣。 一太刀ごとに揺れる金の髪と赤い髪。優雅な舞を見るような表裏一体の動き。 劣勢に思われたが、徐々に、偽者を追い詰めていく。 もう一歩、もう一刺し出来れば、の勝利が決まる。 だが、の体力の限界が来た。 途端に崩れるリズム。 膝を崩し倒れ掛かるの上に、振り下ろされる剣。 「ほひゃほひゃ、お命頂戴!!」 ”ガチィーーーーーーン” ライルのグラムオブハートが、はじきかえす。 すかさず、の剣が偽者の右わき腹を狙うが、やすやすとはじきかえされ、の剣は空を舞う。 はじかれた剣、無防備に開かれた胸元。 その隙を付け込むかの如く、偽者の剣がの胸を下段から斬り裂く。 その刹那、曇天の空から、ひとすじの光がを照らした。斬られた胸元からこぼれる白い乳。 「!!!!」 誰もが絶叫する中、を庇うかのように、さし出されたグラムオブハートが光を受け輝き 眩い反射光が、偽者の眼を奪った。 「ほひゃひゃ??うぅー眩しい!!!!」 雲間から差し込む光は、大きくなり、とライルを包み込んでいく。 温かい天上の光。得も知れぬ思いがを包み込み、知らず知らずのうちに言葉がこぼれた。 「……お母様…」 「殿下!!!今だ!!!」 「はっ!!」 ライルの持つ光を受けたグラムオブハートに、が手を添えた瞬間、 グラムオブハートは、眩いばかりの光源を放ち、偽者の懐に飛び込んだ。 グラムオブハートは、深々と、偽者の腹にくい込む。 輝きを放ちながら、偽者の血を吸うグラムオブハート。 「我、手にし光り輝く者、真の王者なり」 ライルとの耳に語りかけるグラムオブハート。 天上の光の渦は、益々強くなり、そこにいる者全てをやさしく照らしていった。偽者さえも……。 「ほひゃひぃ…」 奇妙な笑い声をあげて、偽者は息絶えた。 王宮内に、声にならない咆哮が渦巻く。 海軍残党の叫び。アンダルシア兵、近衛兵の叫び。麦藁クルーの安堵の叫び。 「殿下!」 「ライル殿下!」 手を取り、見つめ合う二人。グラムオブハートが告げた言葉の意味を、どう受け止めるのか。 二人の近寄りがたい雰囲気に、サンジは心が締め付けられる。 勝ったな…… 俺の手をすり抜けていくのか… ライルは、俺のライバルなのか…… にとって……の、居場所は……何処だ 俺の腕の中か…………アンダルシアか サンジの胸中に蠢く熱情の渦。 「終わったな」 ルフィとゾロの腕を振り解き、ぼそりと呟き、タバコに火を付け、紫煙にすがった。 海軍によって閉ざされていた表門が開放され、前庭になだれ込む民衆。 中庭の大扉からは、城の憲兵達と、ライル派の幽閉されていた重臣達がなだれ込んできた。 ライルは、晴れやかな笑みを浮かべ、グラムオブハートを頭上に掲げる。 「皆の者!!よく聞け!!!本物の殿下が戻られた!!!!!! 私は、殿下を国王とし、今後の国を支えて行きたいと、思う。 憎しみは、争いしか生まぬ! 私達が、先人達の憎しみを受け継ぐ道理は無いのだ。 この国を立て直すためにも、協力してくれ。 ライル派、派などと、争った日々は、もう終わるのだ」 金の若き獅子ライルの言葉が、民衆の中に沁みこんでいく。 「ライル殿下」 が、ライルの前にひざまづく。 「私、バーリー・キア・は、女でございます。女が国王になれぬのは、国の定め。 この国の正統なる王位継承者は、貴方様でございます。 この王家の剣グラムオブハートも、貴方様の手にあればこそ、光輝き、敵を討ち滅ぼしました」 斬られた胸元から覗く白い乳を隠す右腕が、微かに震える。 すっと、立ち、民衆に向けて言い放つ。 「皆の者!私、バーリー・キア・は、女である!!真の王位継承権はライル殿下にある!!」 ”ワァーーーーーーーーーーーー” 民衆の声が、うねる。 ”ライル国王!!!万歳!!!!!殿下!!!お帰りなさーい!!!” 何時までも鳴り止まぬ、民衆の声。 とライルを取り巻く重臣達と民衆。 「殿下!いや、王女様、お帰りなさいませ」 「これで、この国も安泰ですな!」 声を掛ける重臣達に、押されながら、の手はサンジを求める。 「衛兵、海軍のギアスを、牢獄にぶち込め!」 重臣達の命令。 「ライル殿下、他の海軍兵士は、いかがいたしましょう」 伺いを掛ける重臣の声 「おどきなさい!私は……」 揉みくちゃにされ、辿り着けない距離。 今、この瞬間、そばにいて欲しいのは、サンジ… サンジ……貴方だけ サンジに伸ばした指先が届かない。 見る見るうちに、去っていくサンジの背中。 の胸に蘇る言葉が、薄紫の瞳から涙を落とさせた。 一国の王女と裏家業の海賊。ビビの時に言った言葉がサンジの胸に蘇る。 「俺達ぁフダツキだよ……国なんてもんに関わる気はねェ………」 に近づこうとしない麦藁クルー。それぞれの胸によぎる安堵と別れの予感。 海軍を潰したのは、麦藁一味。 海軍絶対正義の上には、ギアスのした事も埋もれていく予感はあった。 この国の王となるライルが、どう海軍に報告しようが、海軍がどう受け止めようが 麦藁海賊団には、関係のない事。政治とは、国とは、そういうものだった。 麦藁海賊団は、駆けつけたマリアと盆ちゃんの手引きで、静かに王宮を後にした。 派の重臣達がライルの前にひざまづく。 「この度の不始末、どんな裁きでもお受け致します」 もひざまづいた。 「お待ち下さい。この者達に罪はございません。全ては、私が、国を逃げ出した事が発端。 私が、皇太后の言葉に縛られず、自分の境遇を拗ねず、女である事を示し、 王位継承権の無い事を、表明すれば良かったのです」 の眼に浮かぶ悲しみを、後悔の涙として受け止めるライル。 「もう、良いではないですか?誰かに罪があるとすれば……何処まで遡ればよいのでしょう? ラーズ王の世代ですか?それとも、王制を執った時代までですか? 起きてしまった事を、いつまでも引きずらず、これからの事を、二人で、考えていきましょう」 ライルはの手を取り、立ち上がらせた。 「しかし、あの麦藁一味……海賊も役に立つものですなぁ」 重臣の一人が、何気なく言った言葉が、の癇に障った。 「貴方は、何を勘違いしているのですか?」 ”きっ”と、睨みつけ、 「人の善し悪しは、生まれ育ちではありません。ましてや、職業で分けられるものでもありません。 その人の生き方、行動によるものです。私は、彼らと旅をするうちに学びました。 少なくとも、彼らは、自分に恥じる生き方はしていないのですよ」 薄紫の瞳を、真っ直ぐに重臣達に向け、諭すように語り掛ける。 ライルと重臣達の目に、驚きと後悔が浮かぶ。 何という目をなさる様になられたのか。 フレイヤ皇太后の影におられた殿下ではない。 良いお顔をなさる様になられた。 ご自分の考えを、こうもはっきりと、おっしゃられる様になられたとは。 なんと気高くお美しくなられたのか。 まるで、匂い立つ藤の花の様になられた。 重臣達の目に映るは、王女としての気品と誇りに満ちていた。 胸元から覗く白い乳を見ずとも「女である」という、言葉に疑いを持つ者も、いなくなった。 気まずい雰囲気を、執り成すかのように、ライルがに話したかけた。 「殿下、いや、王女、私は、彼らに御礼の晩餐会が開きたいのですが… 海軍の目があります。 国のために……、海賊と仲良くしている所は避けなくてはなりません。 バルドーの館で、ささやかな晩餐会を開きたいのですが、いかがですか?」 ライルの案に、心底恥じ入っていた重臣達は、賛成の声をあげ、 それぞれの部下に指示を出すべく動き出した。 の薄紫の瞳に宿る悲しみが、ライルに語りかけるかのように、うなずいた。 |