アイスバーグ、私の好きな人。小さな子どもだった私をずっと見守ってくれていたアイスバーグ。
六つ、アイスバーグが私をとうさまみたいに捨てちゃうんじゃないかって、泣き叫んだ夜。アイスバーグはずっとそばに居てくれた。とんとんと背中を優しく叩かれ眠りに誘ってくれたのを覚えてる。
八つ、リトルレディと呼ばれることが、アイスバーグに近づいたような気がして、唇をかすめたアイスバーグのキスに、心がパンクしちゃうんじゃないか、と思った。
ずっと、好きだった。だから気がついた。アイスバーグの眼は、おかあさんを見ている。おかあさんを見て、怪しく光る眼は、イヤ。もっと、私だけを見ていて欲しい。私は、早く大人になってアイスバーグを振り向かせよう、と必死だった。
アイスバーグ二十三さいの誕生日、一大決心して、ドキドキしながらキスしたのに。ちゃんと告白したのに、かわされちゃった。
私の十二の誕生日のキス。おねだりする私にときめいてくれたような気がしたのに、気のせいだった。
どうしたら、アイスバーグがおかあさんじゃなくて私をみてくれるか。そればかり考えていた。
お兄ちゃんみたいなフランキーに無理に頼み込んで、つきあってるふりをしてみても、アイスは振り向いてくれない。ナタを振り回して暴れたことは聞いたけれど、それって、ただ私が幼い子どもだからってことだもの。子ども扱いはうんざり。もっと、大人扱いして欲しいって思っていた。
パンチラ、こぼれるおっぱい。お色気大作戦も、成功しなかった。まったく効果なし。
『ンマー、ガキめ! 』
ぎゃんぎゃん怒るアイスバーグが嬉しかったもの事実。それだけ私が可愛いってことだもの。大切にされているっていつも感じていた。
それでも、私はアイスバーグに妹として子どもとして愛されるんじゃなく、一人の女として愛されたい。
フランキーにかこつけて、アイスバーグの膝にのっかり甘えるのは、妹の特権。ずるいよね。でも、アイスバーグは、どんなに、私がアイスバーグを愛していて欲しているのか気がつかない。
アイスバーグの眼には、おかあさんしかいないんだ。どうして、どうして私じゃないの? おかあさんはアイスより年上だよ? 八つ……しか離れていないけど……十一よりまし? アイスがとうさまになるなんて、絶対イヤ!!!
十五さいの私、海列車が海を渡った日のキス。忘れられない日。あんなにも恋焦がれるキスを送ってくれたあなたは私に冷たかった。
『ンマー、すまねェ。つい、度が過ぎちまたなァ。後は、フランキーに教えてもらえ』
むかついた。つい、グーで殴っちゃった。私が本当に一番好きなのは、アイスバーグなのに……気がついてくれない鈍感! 眼の奥がじんじんする。
『ンマー、痛ェな。普通グーで殴るか? 』
どうして、アイスバーグは私を子ども扱いするの! もういっぱつグーで殴っちゃったじゃない。
『もう、アイスバーグなんか、きらい! 』
悔しくて、私は心と裏腹なことしか言えないじゃない。堪えても、涙が出ちゃいそう。アイスバーグは私の涙が苦手だもの。また子ども扱いされちゃう。泣くことで、アイスバーグの優しさを引き出しちゃダメ。そんなのなんの意味もない。
『ンマー、そう怒るな。もう二度としねェからな』
いやっ! もうしないなんてイヤ! むかつきすぎて思いっきり、ボディにいっぱつ入れちゃった。アイスバーグが背を折り曲げて咳き込んでいる。
涙が……とまらない。イヤ……イヤ……アイスバーグのバカ! どうして、私を認めてくれないの? っダメ、泣いちゃダメ。我慢しなさい……。ぎゅっと口をつむんで泣き声を我慢するのだけれど、私の瞳から涙があふれでてしまう。とめられない。
アイスバーグがおかあさんを好きだって……知ってる。私はおまけなんだ。アイスバーグが私に甘く優しいのも、全部おかあさんのため……。私だけを見て、私を愛して! 子ども扱いはもうたくさん! もう……えっちだって……たぶんできるもの。
声を我慢して泣く私に、アイスバーグは何も言ってくれない。唖然とする瞳に浮かぶものは後悔? いや、後悔なんかしないで! もしかしたら、アイスバーグは私が一番好きなんじゃないかって……淡い期待をした私を惨めにさせないで。私に触れないで…………。
それから、私は、アイスバーグのところへいけなくなった。