微妙な19の御題




鴉のぬれ羽色っていうのか、真っ黒な貴女の艶やかな黒髪は、いつも俺を煽る。
貴女の何気ない仕草のひとつひとつが、とてもいじらしく、それでいて、癪に障る。

なぁ、何、考えてんですか?
俺のこと?
だったら嬉しいが……。

あの日から浮かぶのはいつも決まって、貴女の戸惑った瞳。そして、指先の震え……。



02.あの日から浮かぶのはいつも決まって






しゃりしゃりと包丁を研ぎながら先日のとの会話を思い起こしながら、サンジは物思いにふけっていた。

――仮面か……。
  結構、俺様なのは知っているさ。けどよ、それをレディ相手に発揮するのは、ちょっと違うだろう。
  スイッチの切りかえはクセになっちまってるから。どうしようもねェじゃね?

  普通に接しろって、なんだよ。
  野郎どもにやるように、気にいらなきゃ蹴れってか?
  ムリ!絶対にできるわけがねえ。

  ”さん””ナミさん””ロビンちゃん”
  さん付けがイヤとか……んな単純なことじゃねえ。

  嫌われちまったんだよな。俺っていうヤツを真っ向から拒絶。

  女ってもんはさ、優しくされるの好きじゃねえ?
  大切にされるのも好きじゃねえ?
  甘やかされるのも好きじゃねえ?
  ちやほやされるの好きじゃねえ?

  ……そういうのが全部嫌いってタイプもいるわな。
  俺は、そういうタイプには、顔でにっこり笑って心は無関心だからよ。
  そういっても、体が自然に動いちまうから、どんな女にだって優しいサンジくんvって、思うよな。

  俺は俺で変えられねえ。変わりたくもねえ。
  くっそっ。俺が仮面かぶってるっつ〜なら、そのとおりなんだよな。おもしろくねえけど。
  だって、仕方ねェ〜だろ。もう骨の髄まで染み込んじまった習性だ。

  ただよ……俺の頭に浮かんで消えやしねえのな。
  さんの戸惑った瞳。震えた指先が、……気になってしかたねえ。

  いつも微笑んでいるさんの色んな顔がみてみてえわけで、
  クールつったら、そりゃロビンちゃんだってクールだが、あれはあれで何も考えてねえんだろうなって思えるし
  いや、深いところでは色々あるんだろうが、とりあえず、最近のロビンちゃんは仲間意識はちゃんと持ってる気がするな。

  さんは、クルーの中でお客さん扱いなのも仕方ねえが、いや実際お客さんだし……。
  俺はもう一歩踏み込んでみてえな〜なんて思っていたりもする。
  できればこのままメリー号の仲間になってもらいたいもんだと。


「っち!いってェ〜。ちょびっと切っちまった」
はぁ〜と深いため息がこぼれる。
サンジの左の薬指の先っぽに赤いものがにじみ、鉄臭さが口にひろがる。
あ〜俺も人間だよな。なんて思いながら傷口を見る。
「あんま、たいしたことねえな。皮がいっただけかよ。舐めときゃ治るさ。さて……寝るとすっか」
てきぱきと包丁を片付け、さっとシンクを洗いあげ、サンジは就眠前のタバコに火をつけた。

ゆらゆらと紫煙がラウンジを漂っていく。ぼけェ〜と煙の行方を眼で追うが、心にたまった塊りは煙のように消えもせず
ぐるぐるぐると同じところばかりを回り始める。

「顔でにっこり心は無関心か。っはん!さんにできりゃ苦労しねェつ〜の」
ギュッとタバコを揉み消し、サンジはぶつぶつつぶやきながらラウンジの灯りを消し、甲板に下りていく。

寒々とした大気が大海原をかけ、GM号の帆をなびかせている。
ひゅ〜と唸る風はサンジの髪を乱し、不寝番をするの背を駆け抜けた。

「くしゅん!」
「うぉっ!寒ぃ〜って、ちぇっ……仕方ねえな」
サンジはラウンジに取って返し、ホットコーヒーにウイスキーを注ぎ生クリームのせたアイリッシュコーヒーを手早く作った。
さて、作ったはいいが、届けたら、また文句のひとつふふたつでるかもしれねえ、とちょっとだけ考えた。

こんなサービスは野郎どもにだってやってるじゃねえか?と思いつき、運んでいくことにした。

お盆片手にひょいひょいマストを登る。たどり着いた先のはといえば、寒さに鼻の頭を赤くさせ、ガタガタ震えていた。

「ほらっよ。深夜サービスです……ってか、これは誰にだってやってますよ?」
冷ややかな笑みを浮かべるに怯みながらサンジは、ぽいっと小脇に抱えた毛布をの背中にかけてやり、
お盆をさしだした。の寒さにひきつる顔がひくひくと動き、アイリッシュコーヒーをかき混ぜコクンと飲んだ途端に、
ぱっと和らぐ。

「……ありがとう」
「どういたしまして」

二人の間に気まずい空気が流れていく。
それが自分のせいだと思いあたるは、うつむき加減でコクコクとカップをかたむけ、
その暖かさにすがりつきおもむろに話し出した。

「美味しい。これ、昔よく飲んだのよ。海に飛び出して拾ってもらった船のコックさんが得意だったの。懐かしいわ」
懐かしさの裏腹に、ちょっとだけ古傷が痛んだ。それを意識の下に封じ込め、にっこりとさも懐かしくてたまりません、
といった微笑みを浮かべ、サンジをちらりと見た。

「へェ〜」
とりあえず文句がでねえのはセーフだ、と思いながら、タバコに火をともし、の話を聞く体勢に入る。
ちらりとこちらを見るの微笑みは、懐かしくてたまりません、と伝えてはいるが、ぎゅっとカップを握る指先が
サンジに警告を与える。サンジは、の微笑みをまっすぐに見つめた。

「ええ、もうずいぶん昔のこと。その船でね、戦い方を教わったわ」
さらりとサンジの眼をかわしながら、は海原を照らす月に視線をはわせた。

「いい仲間だったんでしょうね。貴女が懐かしがるくれェだから」
「ええ、いい仲間だったわ。とても大好きだった」

――どんな顔して懐かしがってんだ。俺にみせたくねえって顔だろうよ。
  月を眺めるふりして、泣きたくなってるんじゃねえのかよ。
  肩がこわばってるじゃねェかよ。

「さて、サンジくん、これありがとう。私に付き合ってるとあなたまで不寝番する羽目になるわよ。さっさと寝なさいな」
くるりと向き直ったの顔は、穏やかな微笑みを浮かべていた。微笑んだまま、カップをサンジの手に押し付ける。

「っつ!」
「何、どうしたの?」
「いや、なんでも……」
「あっ!血が……」
「なっ!」
押し付けられた箇所は、間の悪いことに先程包丁で傷つけた場所だった。
サンジは軽いと思っていた傷口だが、思いのほか切れていたらしくじわじわと血がにじんでくる。
自然に、サンジの指先をは口に含んだ。そう、自分の指先をくわえるかのように。
サンジはたまらなかった。いつものサンジならば、即効でラブコック変態になるのに、なれないもどかしさ。
こんなことをされ、ラブコックに変身できないなんて拷問じゃねえか、と罵りたくなるが、
これ以上嫌われたくねえ、と必死で我慢する。

「あっ……ごめん。つい、くわえちゃった。条件反射……かな」
「……いいえ。ありがとうって俺ァ〜あァ……おやすみなさい」
「うん。おやすみ」

――たまらん。っんがー!どうしろっていうんだよ。
  くっそっ!普通くわえるかァ〜好きでもねえ男の指を。
  俺のこと、嫌いってたぶんそうって、言ったじゃねえか。

思いもよらなかったの行動に、サンジは戸惑うばかりで、寝付くことができずにいた。
次の日の朝、サンジはものの見事に寝坊をした。
サンジの体にダイビングしてきて、メシをねだるルフィーを蹴り飛ばすサンジの顔が、
いつもよりぐるぐると眉毛が渦巻いていたのは、ウソップの見間違いかもしれないが、チョッパーの眼にもそう見えたとか。




2009/8/31

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