『ひとりぼっちになっちまったな、堀田?』
顔にシニカルな笑みを貼り付けたまま、バーの奥のカウンターに座り込んでいる堀田を見据える健さん。
顔は笑っているものの目は怒りの炎に満ちている。
ちなみにカウンターにはさっき健さんがブッ飛ばした男が2人ほど尻を高くあげた間抜けな格好で倒れ込んでいる。
『なにもんだてめえ…?』
堀田は凶悪極まりない、まるで狂犬病にかかった犬のような表情で健さんに吼える。
こちらもどうやらかなりご立腹のようだ。違うところは顔がまるで笑っていないところだろう。
『人間にお前は人間か?って問いかける馬鹿はいねえだろ? 犬にお前は犬か?って問いかける馬鹿もいねえだろう? 犬は喋らねえしな。
強いてお前の問いに答えてやるとすれば、俺は俺、須々木健だ。文句あるか?』
『そんなこと訊いてんじゃねえ!』
サングラスを捨て怒鳴る堀田。目が怒りに血走っている。
『俺はお前みたいな悪党を倒すために異次元世界からはるばるやって来た光の戦士ってとこだ。
宇宙刑事ウルトラミラーヤッターセーラー勇者王仮面V3とでも呼んでくれ』
ちょ、健さん…それいろいろ混じってる。セーラーは駄目でしょうセーラーは…
『てめえ…人のこと舐めるのもいいかげんにしやがれ…っ!』
『舐める? 舐めたら汚いだろ。お前みたいなのは舐めたくないね、食中毒になりそうだ』
小学生かよ。こんな男を目の前にしてここまでボケるとは流石健さんだな。
つうか健さんやけに性格変わってないか…もっと物静かというか寡黙な人だったのに…母さんの影響かな…?
『…ま、つまりはお前んとこの組長から依頼受けたんだよ。
「うちの組の下っ端に女クスリ漬けにして体売らして小遣い稼ぎしているクズがいるらしい。
すまないがワシのところに連れてきてもらってはくれないだろうか」ってな。
向こうさん今いろいろと忙しいらしくて、お前にかまっている暇はないが、かと言って放って置くわけにもいかないってので俺に依頼がきたわけだ。
最初はもう少し穏便に、出来るだけ荒立てずに事を済ますつもりだったが、俺の友達に手を出したとなると話は別だ。
腕の1本や2本で済ますつもりはさらさらねえ』
穏便に事を荒立てずに、ってのは嘘だろう。健さんがそんな悪人を無傷で捕まえたりするわけがない。
『…と、言っても別に殺しはしないから安心しな。
悪党ってのは生かしておいて、傷が治ったらもう1度ブチのめす。そしたら1人で最高3回は楽しめるからな。
学習能力のない野郎は4回目になっても更正する気がねえから、その時は正当防衛に見せかけて速やかにブチ殺してやるのが基本だ』
心底嬉しそうな口調で語る健さん。健さん…恐い人ッ!
すごい理論だ。世界の平和と自分の趣味をミックスした理論だな。
仏の顔も三度までってこと…いや、すでに一度目から仏じゃないけど。
『あのクソオヤジが…ッ! くだらないことしやがってぇ…!
今時ヤクザがカタギの仕事だけでやっていくなんざ、馬鹿馬鹿しいにも程があんだよ!
何のためにヤクザになったのか分かんねえだろうが! 小遣い稼ぎして何が悪い!』
『悪いね。とことん悪い。あそこのオヤジさんはカタギの仕事だけでちゃんと暮らしていってるじゃねえか?
ま、だからこそ俺の依頼を受けたんだが。
だいたい自分の楽しみの為だけに罪のない女の子を無理矢理犯すゲス野郎が言ってもまったく全然一片も説得力がない。
てめえみたいなのがいるから昔気質のヤクザまで暴力団呼ばわりされるんだよ』
まったく同意です。翔をこんな恐い目にあわせたゲス野郎が悪くないはずがない。
『黙りやがれクソ女がぁ!! てめえはこれで腹ん中抉りまわした後、死体をバラバラにきざんでやらぁ!!』
完全にプッツンしたのか堀田は上着のホルスターからナイフを引き抜いた。
さっきのチンピラが持っていたチャチなバタフライナイフとは違いかなり立派な代物だ。
アーミーナイフ…いや、コンバットナイフってやつだろう。
なんの飾りもない無骨なハンドルから刃渡り9pはあろうかという長い刃が突き出ている。
まったく褒める気にはならないが、さすがヤクザというところか素人目に見てもチンピラとは明らかに構えからして違う。
『…ったく最近の若いもんはどいつもこいつもすぐに光り物を持ち出すよな。
そんなもんに頼る前にまずは自分の体を少しは信じてやったらどうだ。
人間の体ってのはな、鍛えたら武器に頼らなくても充分強くなるんだよ。武器使った方が弱くなるくらいにな』
確かにそうかもしれないが、それは人間の限界を明らかに超えた健さんのような超人だからこそ初めて言えるセリフだろう。
そもそもこいつらには(俺もだが)自分の体をそこまで強くしようて気もないし、忍耐力もないし、度胸もない。
『くたばれぇぇぇ!!』
そんな言葉をまるで無視して健さんに刃を突き立てようとする堀田。かなりすばやいし正確に胸を狙っている。
ただ今までの経緯からいっても…
『人の話はよく聞いておくもんだぜ』
…そんな程度で健さんをどうにかできるはずもなく…
“ボキボキィ!!”
『ぎゃひぃあああああああああっ!!!』
獣の咆吼の様な悲鳴をあげる堀田。
健さんは流れるように堀田の突きを避け、そのナイフを持った右腕を捻った。
まるでドアノブを回すような気軽さでただ単純に、なんの技巧もなく、なんの工夫もなくただ捻っただけだ。
それだけで堀田の腕の骨は音を立てて折れた。ものの見事に堀田の右腕は軽く360度以上は回転し、それと同時に小気味いい音が響いた。
まるでボロ雑巾のようになった堀田の右腕。それでもナイフを離さないところだけは尊敬に値するかもしれない。
いや、もしかしたら離さないのではなくて離せないのか。
『ひぎぃぃ!てめへぇええ!』
痛みのせいか呂律がうまく回ってない。口からは舌をだらしなく出し、その表情はとても人間のものとは思えない。
それに対して健さんは涼しげな笑みを浮かべている。
『喋らねえ方がいいぞ。舌噛むからな』
今度は堀田の左手を握る健さん。
『きゃ、男の子と手をつないじゃった♪』
“ベキィ!”
手を握ったまま左足を蹴る。これまた小気味いい音を立てて骨が折れる。
『ぎひぃぃぃッ!!』
体を支える足が折られたんだから普通ならここで倒れるのだが、健さんが左手を強く握ったままなので倒れるに倒れられない状態だ。
これは逆に辛い。
『おいおい、せっかく手をつないでやったんだからもう少し嬉しそうにしろよ。
まあ、俺がお前の好みじゃねえんだったらしかたねえが、それでも少しは気を利かせるべきだろ』
パッっと握った左手を離す健さん。堀田は床に崩れ去る。

『もうこれで勘弁してやるから大人しく俺についてこい。片足でも何とか歩けるだろ』
そう言って背中を向ける健さん。ちょっと…それは無防備なんじゃ…?
『ひ…ひひ、油断してんじゃねーぞクソアマァ!』
案の定、堀田はナイフを左手に持ち替えて健さんの背中に襲いかか…
“ベキ”
『ああ??』
…ろうとしたが何故かナイフを持った瞬間、ナイフの刃がボロボロと崩れさった。
まあ、何故かって言っても理由は1つしかないが。
『ああ、言い忘れてたけど、そのナイフ使えないようにしておいたから…』
いつの間にか健さんは振り返って、呆然としている堀田の前に仁王立ちしていた。
拳をポキポキとならしている。
『ひッ!!』
健さんは右腕をゆっくりゆっくり振り上げる。ギロチンの刃がゆっくりゆっくりと上がっていく。
そのギロチンの柱の間に寝かされた堀田にとっては悪夢の様な光景だ。
『…ま、ま、待て! もう勘弁するってさっき…』
『自分を知れ。そんなオイシイ話が……あると思うのか? お前のような人間に…』
堀田の弁解とは関係なしにギロチンは最上段までつり上がった。あとは落ちるだけだ。
健さんは堀田に向かって極上の笑みを浮かべて…
“グシャアァァ!!”
…ギロチンを振り落とした。


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