「ほ、本当に入れ替わった……」
「何を今更。では、早速調査を始めよう」
 薄暗い物置のような部室で、俺は感嘆の声を漏らした。そりゃあ先輩の知識や技術は認めているが、
よもやこんなことが本当にできるとはさすがに思っていなかったからだ。

 俺は鏑木瑞貴(かぶらぎ・みずたか)。この高校の2年生で、総合科学技術研究開発部の部員だ。
とはいえこの部は部長である宮小路美穂(みやのこうじ・みほ)先輩の他は俺しかいない。
だから規模からすると同好会なのだろうが、どういう経緯か生徒会からも部として認められてて、わずかばかりではあるが年間予算だってきちんともらってる。
とはいえ学内ではかなりの異端児的扱いだ。いや、それは成り立ちのせいじゃない。この部を異端児と言わしめてるのは、なにより部長である宮小路先輩の存在 のせいだった。
 頭は超が蝶になって蝶サイコーと言わしめるぐらいの天才。背も高く、運動だってそつなくこなす。スタイルも良くて顔だって相当レベルは高い。
基本仕様だけ見たなら、誰しもが間違いなくBTOによる追加オプションの必要がない、ハイエンドモデルだと評価するだろう。
 しかしこの人、そんなバリバリの高スペックを持ちながらも浮いた話をまったく聞かない。
少なくともこの高校においては俺の知る限り皆無だ。理由は単純、悲しいかな一般的な学生としてとか、なにより女としてとかいう部分で脅威的なほど世間と隔 たりがある人なのだ。
はっきり言ってしまえば変人。それも超とか蝶のレベルで。
 せっかくの美人も分厚い眼鏡とボサボサに伸び切った髪に隠れ、ナイスなスタイルも普段から制服の上に何故か白衣を羽織っているため、その奇妙なスタイル の方が印象に残る有様。
 言動も少々……いや、少しレベルじゃないかもしれないが、色々問題ありすぎ。
 ともあれそんな人なんで、必要が無い限り彼女と積極的に接触しようなんて人間はこの学校にはいない。教師すら避けてるというか逃げてるぐらいだ。
 そんなこんなで、この学校においておそらく先輩と言葉を交わす回数ダントツNo1は、まず間違いなく俺だろう。とはいえそれ、全然誇れることじゃないの だが。
 ちなみに俺はなんでそんな立場にいるのかというと、入学直後の新学期、
うかつにも好奇心だけで他の先輩達にも「絶対に近寄るな」と釘を刺されていた総合科学技術研究開発部の部室に、サークル見学だという建前で覗きに行ってし まったのだ。
今思えばこれが運命の分かれ道で、「助手が一人欲しかった」という先輩の一言とともに拉致られ、そのまま強制入部させられた。
かくしてその日から俺は「変人の助手」として学内でも村八分状態。実質本当にその立場を受け入れる以外に道が無くなって今日にいたっている。
 そんな先輩が今日部室に持ってきたのが、電球がついた二つのヘッドギア。なんかどっかのカルト宗教の信者でもかぶっていそうなチープな作りって感じのや つ。
それが何かと聞くと、なんと驚くなかれ、人間の意識を入れ換える機械だという。
「男と女では感覚に差があるのだというが、それを実証した者はいない。なにしろ男は女の、女は男を比較するための基準を、想像以外に持ち得ないのだから な」
とは、先輩の弁。だから入れ換えて色々調査するのだと言うんだが…………。

 正直に言おう、眉唾だと思った。そりゃ先輩は稀に今の科学技術を超越してません? ってな発明するような人ではある。
先日も経費30円で数キロのカリホルニウムを作れる生成装置とかなんとかっての作ってたしな。けど、いくらなんでもこりゃムリだろって誰もが思うはず。
とはいえ万が一の事も考えられる。だから俺は当然ながら拒否したのだが、次の瞬間先輩は俺にスプレーを浴びせてきた。
それは先輩の十八番「睡眠くん3号」。かくして俺の視界は一気に暗闇へ。そして先ほど目を覚ましたのだが…………

「ふぅむ、これが男の感覚か。とり立てて運動性能が上がっているようにも思えんが……」
 目の前で俺が……いや、俺の身体に入った先輩が腕をぶんぶんと降り回している。奇妙と言えばあまりに奇妙な光景だ。
ドッペルゲンガーに会うっていうのは、こういう感じなのだろうか。
「なるほど、物を持ち上げると良くわかるな。私の体ではこの顕微鏡、ここまで軽くは感じないからな。なるほどなるほど……」
 先輩は身体を動かしながらも、逐一それを愛用の手帳にメモを取っていく。
そんな「動く自分」をしばし見ていたのだが、堅い学習イスの背もたれに寄りかかっているのが痛くなってきた。
 自然と身体をずらす。その時、俺は初めて自分の状況を意識した。

―――あっ……!

 胸が揺れた。途端に気が付く、男ではありえない胸の感覚。そうだった、先輩が俺に入ってるんだから、俺は先輩…………つまり俺は今、女の体に入ってるん だ。
 ゆっくりと視線を下に向ける。そこには見慣れない景色があった。鎖骨のあたりから制服を前に突き出すふくらみ。
その切れ間から覗く胸の谷間。その下には、スカートからすらりと伸びた足が見える。男ものとは明らかに異なる体のラインだ。
 その事を意識した途端、今度は全身を包むモノの違和感が身体を駆け抜ける。

―――む、胸から背中のこれって……ぶ、ブラジャーだよな? 股が変に寒いのは、スカートだから仕方がないのか。あれっ? 足のこれってストッキングじゃ なくてオーバーニーソックス?

 意識する気がなくても、自然にそんなことを認識させられてしまう。
 普通は自分が着ている服なんてのは意図的に意識しようとしない限りは気にならないものだが、
今自分の身体を包んでいるこの感覚は、自分の知っているものとあまりに差がありすぎた。
 無意識にごくりと唾を飲み込む。そして震える指を制服胸元の切れ込みに挿し入れる。おそるおそるそれを少しだけ引くと、その薄暗い隙間から予想通りのモ ノが見えた。

―――先輩の、女の人の胸……。

「なるほど、やはりそういうところに興味がいくか」
「おわあああああぁぁっ!!」
 突然目の前から声をかけられ、俺は驚きのあまり絶叫してしまった。いつのまにか先輩は俺の目の前に立ち、こちらを興味深そうに見下ろしていたのだ。
「せ、先輩! 驚かさないで下さいよ!」
「何を言う。声をかけても返事をしないのはそっちじゃないか。で、どうなんだ?」
「どうって……何かですか?」
「女の体に入っても、やはり女の身体に興奮するものなのか? 客観的に述べてみろ」
「そ、そんな事言われましても……どうでしょう?」
 あまりにストレートな物言いに、少々困ってしまう。そりゃあ、いくら今は自分が女だと言っても意識はあくまで男なわけで、興奮すると言われればそうなの だが。
 とはいえさすがにそんなことをべらべらと説明するのは恥かしい。そう思って言い澱んでいると、先輩がじれったそうに頭をかいた。
「現状ではいささか判断がつかんという事か?」
「ま、まぁ、そうとでも言いますか」
 思わず曖昧にそう答える。すると先輩は仕方がないという感じで溜息をついた。
顎に指を当てて考え事を始めた先輩を見て、とりあえず恥かしい問い詰めから解放されたと思った俺は、安堵で脱力する。どうもヘタに行動しない方が良いよう だ。
 と、思ったら、目の前にぱさりと何かが落ちた。白い二組の……と思っているところに、今度はどさりと上に何かが乗っかった。
黒いモノだが、見慣れた感じのモノ。もう一度良くみてみるとすぐにわかった。それは俺の学生服、そして最初のは靴下だ。

―――あ、あれ? なんで?

 続いて次に学生ズボン、そしてYシャツ。というところで、俺はようやく何が起っているのかを理解した。
「せ、先輩! なにやってるんですか!!」
 俺は絶叫した。俺の目の前で俺が……いや、俺の身体に入った先輩がストリップショーをやっていたからだ。しかもすでに上半身は裸、下はトランクスのみと いう状態である。
「何もかにも、君が判断つかんというから私が自ら確かめようとしているだけだが?」
「や、やめて下さい! というか裸になって何しようってんですか!!」
「とりあえず見て興奮するかどうかを確かめるためだ。最も私は皆に羞恥心的な感覚が世間とズレてるなどと言われるから、本当は君の意見を参考にしたかった のだが」
「ちょちょ、ちょっと待って下さいよ! そりゃいくらなんでも……」
 いきなり裸を見るとか言われて俺は狼狽する。そりゃそうだ。いくら先輩が変人であっても、女の人に俺の裸を見られるってのには変わり無いのだから。

「駄目なのか? その後には自慰行為における男女の快楽差も調査したいと思っているのだが」
 と、思えばこの人、さらになんて事を言いやがるんでありましょうか。
「だああぁっ! とにかく止めて下さい! 恥かしいでしょう!!」
 俺の説得に、先輩は何故だか心底不思議そうに首をひねる。
「恥かしいなどと……これは君の身体だろう? 自分で見慣れてるのではないか?」
「そうですが、このままじゃあ先輩が見ることになるじゃないですか!」
「私は別にかまわないのだが」
「俺がかまうんです!!!」
 こちらのあまりの剣幕に、さすがに先輩も手を止めた。ギリギリセーフだ。なにしろ先輩の手は、いままさにトランクスを下ろそうという状態だったのだか ら。
 しかしこの先輩、何をやりだすか本当にわからない人だから、まだ油断できない。そういうわけでダメ押しの意味で睨んでいると、腕を組んで考えごとを始め てしまった。
「……つまりだ。いくら視点が変わっても、本来の自分の身体を見られるのは嫌ということか?」
「そりゃそうですよ、俺の身体なんですから。状況はこうですが、その身体の権利は俺のものですからね。勝手なことをされちゃあ困ります。」
「君の権利か……」
 俺の言葉にまた唸るように考え事を再開した先輩。さすがにここまで言えば諦めたか。
そう思ったの束の間、先輩は唐突に頷くと俺の手を取り引っ張る。
「ちょ、ちょっと先輩! なんなんですか突然!!」
「ならば変更だ」
先輩は俺を引きずり、そのまま部室の脇にある仮眠用ベットに俺を押し倒した。
「へ、変更って?」
「うむ、君の身体に関して君が権利を主張する以上、この調査実験を行うには自分の身体を調べるしかないということだ。それならば良いのだろう?」
 俺はベットに仰向けに寝かされた。見上げれば“俺”が馬乗りで俺の身体を押さえつけている。
「せ、先輩! それもダメです、止めて下さい!」
「何を言う。君はさっき身体を好きにする権利がどうと言っただろう? そっちの身体の権利は君の理論だと私にある。拒絶されるいわれは無いと思うのだが」
「いや、そりゃ……ちょ、ちょっと、確かにそうは言いましたが……や、先輩! ちょっと!」
「おとなしくしたまえ。あ、現在の身体感覚も後でレポートが取れるように記憶しとくのも忘れずにな」

 言うが早いか、先輩に勝手知ったる自分の服とばかりに、スカートを引きずり下ろされ、上着を投げ捨てられた。
逆にこっちは構造をよく理解してない服であったため、まともな抵抗ができない。
脱がされないように服を引っ張っても、反対側からひょいっとかっさらわれるように剥ぎ取られる。そのまま俺はあっというまに下着だけの状態にされてしまっ た。
「むぅ、一見レイプ現場のようにも見えるが、実は自分の服を脱がせているだけなのだから、これは単なる着替ということになるのだな」
「変なこと言ってないで、やめて下さい!」
 相変わらず状況に合わぬことを言ってる先輩を何とか止めようとするのだが、先輩はまったく聞く耳を持たない。
ついにはブラとショーツを取り払おうとする先輩に対し、俺はなんとか両手でそれを押えて抵抗する。
「こら瑞貴、邪魔するんじゃない」
「嫌です! というか恥かしいんですから、本当にやめて下さいよ! ちょ、引っ張らないで!」
 力か任せに引き剥がそうとする先輩に対し、俺は死ぬ気で抵抗をする。何故だかわからないが、これを取られてしまうと本当に「終わってしまう」ような気が したからだ。
しばし引かれて抗ってのやり取りが続いたものの、どうしても俺が手を放さないので先輩はついに諦めたのか、ようやく手を放した。
 先輩は俺に馬乗りのまま、ふうっと呆れたように溜息をつく。
「瑞貴、わがままが過ぎないか? 君がこっちの自分の身体を調べられるのが嫌だからと言うから私の方で妥協しようとしてるのに、それすら邪魔するのはどう かと思うぞ?」
「そ、そんなこと言ったって……」

 困った。先輩の言う事はわからないでもないが、それでもその理屈は何か違うだろと思う。
というかこの場合、どっちに転んでも絶対になんらかの形で自分が関わるわけで、どういう選択だろうと逃げ道はないのだ。
つまりこの場は全拒否が正解……と思うのだが、先輩相手にそれがムリなのは学校中の誰よりも俺が一番理解している。
 そうこう悩んでいると、突然ぞわっとする感覚が全身を襲う。見ればなんと、先輩の手が俺のブラジャーとショーツの下に入り込んでいた。
「仕方がない。下着が汚れるかもしれんが、脱がさずに調査してやる。それならば良いんだろう?」
「そ、そうじゃなく待って下さっ……んっ!! あっ!!」
 有無を言わさず下着の下に差し込んだ指を動かし始める先輩。制止の言葉を発しようとしたのだが、最後まで言い切ることができなかった。
突然走った電気のような感覚が、俺の言葉を無理矢理別な声に変換したからだ。なによりも自分が発した艶声に俺自身が驚く。

―――な、なんだよこれ! から……体が熱く……!

 ブラジャーの下で、先輩の指が胸全体を撫でるように揉み、その上で人差し指の親指が頂を転がすようにつまみ、刺激する。
それと連動するようなリズムでショーツの中の指が擦るような動きで敏感な場所をなぞる。それは明らかに身体の「感じる場所」を知っている動きだった。
「くっ……うっ……!」
 逆に俺は、予備知識のまったくない身体からの予測さえつかないタイミングでの愛撫を受けるはめになっている。
その身体の中を駆け抜ける電気のような衝撃を、毎回不意打ちを受けるような気持ちで耐えなければならなかった。
「…………んっ! ……っつ、…………!!」
「なんだ、もしかして声を出すのを我慢していないか?」
 当然だ。男のくせに喘いで声を上げるなんて屈辱以外の何物でもない。
「無理に我慢する必要はないぞ。それに声を上げてくれた方が、こちらも君の状態がわかりやすくて調査しやすいのだがな」
 いつもとまったく変わらぬ口調で先輩は言うが、こっちはそれどころじゃない。
 当初はまだ我慢できたこの感覚も、耐えれば耐えるほど蓄積されてるんじゃないかというぐらい大きくなってきており、ちょっとした油断で決壊しかねないの だ。
 最初は下着に差し込まれた先輩の手を引き剥がそうとしていた両手も、今は口をおさえてなんとか喘ぎ声を出さないようにするための最終防衛線となってい た。
「っ…………んっ!! ――――っ!!」
「ひょっとして、まだ全然刺激が足りんということなのか? ならばもう少し激しく……」

―――そ、そうじゃないっっ!!

 先輩の言葉に驚き、思わず反論の言葉を言おうとした。が、それが失敗だった。言葉を発することを許されたこの身体は、なによりも悦びを表に出すことを優 先したのだ。
「ああぁっ!! や、だぁ…………あ、あ、あ、ああぁっ!!」
 声が出た。いや、声を出させられた。我慢につぐ我慢で快楽を蓄積してしまったこの身体は、もう俺の意思に耳を貸そうとはしなかったのである。
「む、やはりそうか。いくら自分の身体とはいえ、外からだと加減がわからんものだな」
「ちがっ……っつ……ああああぁ―――っ! ダメっ、おねがっああっ!! あぁ!」
 一度決壊した堤防はもう戻らない。ついに発してしまった雌の嬌声は、もはや止めることができなくなっていた。
 くちゅっ、くちゅっっという股間を刺激する音が鳴るたびに、俺は顎を仰け反らせてベットのシーツをぎゅっと握りながら大声で喘ぐ。
「ああっ!ああっ!ああっ!」
 刻むリズム合わせた嬌声が口から漏れる。
 俺は狂ったように首を左右に振りまわし、汗ばんだ体がベットの上を跳ねまわる。それはまるで雌の悦びを全身で表すダンスのようだった。

―――ダメだっ! もう……ダメだ!! イくっ! イくっ……

「……イくっ、イくうっ!! ああっ! ああぁ――っ!!」
 最後には心を偽ることすらできなくなった。快楽をそのまま言葉に直結させられ、男としての羞恥を無視した言葉を口から無理矢理吐かされる。
自分の身体であり女の身体を知り尽くしている責め手の先輩に対し、女の身体や快楽というものをまったく知らない俺。これでは始めから勝負は決まっているよ うなもの。
まったく無駄のない手つきで次々と快楽を引き出して行く先輩の行為に逆らうことは、もはや不可能だった。
 そして、この行為の果てが目前に来ているのを予感した俺を、未知の感覚が襲った。身体の中で不意にきゅうっ!と、俺の知らない器官が収縮するのを感じた のである。
 俺はびくんっ!! と大きく身体を跳ねさせる。刹那、頭の中で真っ白な光が爆発した。
「やだっ! やっああっ……ああああああああぁぁ――――っ!!!」
 体を仰け反らせて俺は絶叫する。俺の上げた声は、紛れもなく雌としての悦びの声だった。
男としてのプライドもなにもない。そのあまりに激しく、あまりに甘美な女としての絶頂は、そんな防波堤など微塵の役にも立ちはしないほど強烈なものだった のである。
 快楽の波が静かに引いていき、身体の主権が自分の意思に戻ってくる。ようやく雌であることから解放された俺は、息を切らせながらベットに脱力した。


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