一説によると、女が性的なオーガズムを迎えたときには、男が射精したときの、何千倍も気持ちいいという。

どんなデータを取って、どんな計算でその数字が出されたのか、僕は知らない。
でも、その両方を経験した僕は……男だったときと比べて、女のカラダがイった時の気持ちよさは、とにかく別次元のものだと断言できる。

といっても、僕がここまでに語ったことの中に「イった」経験はまだ含まれていない。
初めて女の子としてのエクスタシーを感じたそのときのこと──語るだけでも体がとろけそうなあの感覚を知るのは、まだあとのこと。

それでも初めてのセックスでも、二度目のときも、男だったときの何倍も気持ちよかった。

中野先輩によって、あゆことしての、女としての新しい生活を強制的に始めさせられた僕が、
たいした抵抗も出来ずに、淫乱女である自分を受け入れてしまったのは、その気持ちよさが、ほとんどすべてだ。

男としての自分の葬式の場で、自分との別れを済ませてしまった僕に、もう戻る道はなかった。

本当に?

そんなことはない。実は気づいている。気づき始めていた。
あゆことしての……淫乱女としての、AV女優としての人生を受け入れたのは、この体が僕に与えてくれる快楽がすべてだということを。

すべてをひっくり返して、男だったころの家族のもとに戻ることだって今からでも出来る。
それをしないのは、快楽におぼれる日々を取り上げられたくないからだと、今では知っている。

でも、女の子として生まれ変わって、先輩に処女を捧げて、自分にお別れを済ませた。
今は新しい一人の女の子として生きていたかった。

葬式から東京に帰ってくると、僕は先輩にマンションに連れ込まれた。
入り口を車がくぐる前に、こう言われた。
「一休みしたらたっぷりいろんなことを教えてやるからな」
その瞬間から心臓が高鳴った。

いやらしいことをされて、気持ちよくなることが楽しみで仕方がなかった。
自分の葬式が終わったばかりの僕は、まだ、淫乱女である自分に、浮かれていた。
今までの自分と、悲しいお別れをしたばかりのはずなのに、隣に先輩がいるだけで、その快楽が楽しみで仕方なかった。

恥ずかしくて、いやらしいことをされるのが楽しみで仕方がなかった。
ただ、それがどんな意味かもわからずに浮かれていた。

新しい自分が始まった事が、たのしかった。

東京に帰ってきた僕が連れてこられたこのマンションは、先輩が一人で住むにはかなり広めだ。
そして、生活感のあまりない場所だった。

広いリビングには大きなベッドのまわりにいくつかのソファが無造作においてあり、これまた大きなテレビがベッドの反対側においてある。
とはいっても、相当の距離があり、南向きの窓で日当たりのいい部分はがらんとしている。

現実感のない、高級な感じの漂うつくりのこの部屋のフローリングの上には、
つい昨日、人生ではじめてのセックスを体験した少女には刺激的過ぎる物体がいくつも転がっていた。

男であったとはいえ、僕は今や少女だった。
床に転がる何本もの、男性器を模った道具や、僕の股間にさっきまで埋め込まれたローターのようなものには目を背けるしかなかった。
心をどこかで高ぶらせて、ドキドキしながらも。

白いタンスが部屋の片隅にある。普通の服が入っているわけではないようだ。
二番目の棚が少し開いて、黒い皮の……ブラジャーのようなものが見えている。

その部屋に入った僕はほんの数秒だったが、かなり長い間、あっけにとられたような気がする。
このマンションに入って最初に入ったこの部屋。その他にも部屋がある。
あけていないドアがある。そこはいったいどうなっているのか……

自分の運命に思いが及ぶと、股間が熱くなってくる。膨らむはずの肉棒が今はない。
代わりに体全体に熱が広がって……じんわりとアソコが湿ってくることに気づいた。

「あゆこ、リラックスしろ。俺はシャワーを浴びてくるから、テレビでも見てろ」
この部屋は、先輩が「生活」している部屋ではないようだった。

つまり、そういうことのために用意された部屋なのだ。
ここにくる車の中で聞いた話を思い出しながら、不安と一緒に期待が高まる。
真優を含めた、たくさんの男女の乱交が繰り広げられる、そのための部屋なのだ。

その部屋で僕は、今日これから先輩の「教育」を受ける。

車の中でドキドキしながら先輩の話をただ聞いていた。
寝る暇もないほど「教育」を施されると、先輩は僕に告げた。
僕はそのことについて何の感想も口にしなかったが、カラダが正直に反応して、顔に「教育」への期待がにじみ出ているのが自分でもわかっていた。

口ではなにも言わなかったのは、「教育」への期待を口にするのが恥ずかしかったからだ。
恥じらい……生まれたばかりの少女にそんな気持ちがいつの間にか芽生えていることにどこかで気がついていただろうか。

いや、芽生えていたというよりも、はじめから持っていた。
AV女優になるべくプロデュースされた女として、僕が与えられたのはきっと、体だけではなかった。
恥ずかしさ、少女としての恥じらい。
育ち始めただけだ。恥じらいが、淫乱さと一緒に。

透き通るような肌。黒く澄んだ瞳。抱きしめれば折れそうな腰。
微かに……それでも細いウェストに比べればしっかりと、きれいに膨らんだ形のよい胸。
桃色の小さな乳首。その体を支える細くしなやかな脚。
数えあがればきりがない。僕が与えられた「美少女」の要素。

そのひとつに、「恥じらい」があっても、不思議ではない。
少女として生まれたその日にめちゃくちゃに壊されたとしても……
失くしたわけではない……そればかりか成長しだした恥じらいが。

車の中で、これから僕が受ける「教育」について聞かされても、顔を紅潮させて、笑いさえ押し殺そうとした、生まれたばかりの少女、それが僕だった。
処女を3Pで奪われ、その男の前で自らオナニーし、ローターをアソコに埋め込まれたまま人前に出ても、消えなかった恥じらいが、
僕をこれから押しつぶすことになるのに、気づいていなかった。

先輩がシャワーを浴びている間、僕はずっと、ただベッドの上に座ってドキドキしていた。
電源が入っていない大きなプラズマの画面には僕の姿が映る。
周りに何枚かの鏡もある。改めて、そこに座っている美少女が自分であることに不思議な感覚を覚える。

何個かのソファ、転がっている大人のおもちゃ、その中心にあるベッドの上、これから「教育」を待つ美少女。
それを受けるのが、鏡の中の他人でも、僕は興奮がとまらなかっただろう。

ところが、「教育」は僕自身に施される。
これからなにをされるのか……どんないやらしいことを……顔が赤くなってしまう。
股間に手を伸ばして、早く快楽をむさぼりたくなる。
でも、我慢をしていた。先輩にそういわれたから……

ベッドの上、喪服を花柄のワンピースに着替えた可憐な美少女が体育座りで、そのときを待っていた。

がたっ、とドアの開く音がした。
目が先輩の入ってくるほうに向く。男だった僕のはずなのに、バスタオルを腰に巻いただけの先輩の姿にときめきを覚えてしまう。
目が、潤いを持ってたに輝いてしまうのがわかる。

腰に巻かれたバスタオルの下は……ついこの前まで自分も同じ体を持っていたはずなのに、想像して顔を赤らめてしまう。
自分もシャワーを浴びにいかされるのかと思ったが、先輩は腰にタオルを巻きつけたまま僕のほうに歩いてきて、こう言った。

「さぁ、はじめるぞ」
やさしい、先輩の一言。包まれるような安心感。
僕は、体育すわりのままこくりとうなずくと足を崩して次の指示を待つ。

崩した脚の間からパンティが見えたかもしれない。それが気になった。
やわらかくあたたかいはずの僕の太ももの間から、白いパンティが見えたとしたら、先輩は、少しは興奮してくれるだろうか。
恥じらいと女としての計算の混ざり合った不思議な感情。
いつしか女としての僕、生まれたばかりの少女は成長し始めている。

先輩はベッドの前に仁王立ちで僕に命令した。
「こっちまで来い」
「は、い……」
ひざでベッドの上を端まであるく。

「教育」が始まっている。そうはっきりと感じた。
先輩の目の前にたどり着き、先輩の顔を見上げると、何もものを言わずに黙っている。
僕はその瞳に吸い込まれそうだったが、そのうち一言つぶやいた。
「わかるな」

「は、はい」
僕の前に立っている先輩。見上げた目線を顔の高さに戻すと、
目の前には腰に巻かれたバスタオルがあった。
その位置になにがあるか……深く考えなくてもなにを求められているのかわかる。

僕は先輩のタオルに手をかけてもう一度先輩を見上げる。
先輩は軽く微笑んだ。「そう、それでいいんだ」と言うように。
バスタオルをゆっくりと取る。先輩のペニスとの一日ぶりの対面だった。

この前は、処女をささげて、その興奮のまま、求められるままに口の中にそれを入れてなめただけだった。
今日は違う。心臓のドキドキはどんどん高まってはいるが、
先輩の、まだ大人しくしているペニスを大きくして、気持ちよくして……そういうことを求められている。

まだおとなしいおちんちんと先輩の顔を交互に見ながら、そこに手を伸ばす。
まずは、手でこすってみる。
不思議な感覚だった。他人のペニスを手でしごく日がやってくるとは思いもよらなかった。
それも、これほどドキドキしながら。

でも、自分が今使っている白く細くしなやかな指と先輩の黒いペニスのコントラストをこの目にすると、今自分がしているこの行為がとても自然なことに思えて くる。
少しずつ、先輩のペニスは硬く、大きくなってくる。
僕は、先輩がそういう気持ちになってきていることを感じて、うれしい。

完全にペニスが起き上がって、上を向くまでに達したとき、僕はもう一度先輩の顔を見上げた。
先輩は少し気持ちよさそうな顔をして、それでも声を出したりはしなかった。
僕と目をあわすと、軽くうなずいた。
次のステップに進め、という意味だと思った僕は大きくなったペニスを見つめた。

これから、口にこれを含んで、しゃぶるのだ。そう思った。
亀頭に置かれていた左手を少し下に移動して、右手は、肩まで伸びた髪を耳の後ろにかきあげた。
目を閉じて、心臓の鼓動をもう一度確かめる。
視覚を失った僕に処女をささげた後に口に含んだ先輩のペニスの、
苦くて、それでも甘酸っぱい、なんとも表現のしようのないあの味がよみがえった。

そのまま左手で握ったペニスに向かって顔を近づけ……そして口にふくんだ。

僕のおまんこから流れ出た汁と、先輩の精液が混じった昨日の味とは少し違う味がした。
でも、口に入ってきたときの感覚は一緒だった。

自分が、女なのだと深く感じた。
自ら、男としての自分との決別を果たしてきた僕はそのことがうれしかった。
そして、亀頭の裏側に舌を這わせた。
ペニスのどこが気持ちいいのかを知っている僕は、女であっても、先輩がどのように感じているのかを想像できる。
軽く口を前後に動かしてみる。

口の中で、ぴくぴくと先輩のペニスが動く。そのことに気をよくして目を閉じたまましゃぶっていると、先輩が僕の頭を両手で抱えた。
僕はフェラチオをしたまま、先輩を見上げた。

先輩は笑っている。でも、舌を亀頭の裏側に這わせたまま口を前後に動かすと、その笑顔が軽くゆがんだ。
「あっ……そうだ、きもちいい……」
上目遣いのまま先輩と目が合う。

そのまま、上目遣いで続けろ、と先輩の目が訴えている。
僕は求められるままに続ける。
歯を立てないように、精一杯丁寧に、時々目を閉じたりしながら、ゆっくりと先輩のペニスをしゃぶる。

先輩の顔がゆがんで、僕の気持ちもどんどん高ぶる。
「あん……ぁ……」
僕の口からも艶を帯びたあえぎ声が漏れ始める。

先輩が感じてくれていることが、うれしかった。僕が女であることを認めてくれるようで、うれしかった。
戸惑いを感じる暇もないまま、この「教育」を受けている僕は、きっと、まだ気持ちが男のまま──亮のままなのだ。
だからこそ、女として認められてうれしかった。

僕のフェラチオで、初めての、精一杯のフェラチオで、先輩が感じてくれることが。
体だけが女になった僕のフェラチオが、先輩を感じさせていることが。

「もういいぞ。あゆこ」
先輩が、その行為をやめろといきなり命ずる。

「どうし……て?」
その肉棒を僕の口から抜いて僕の目を見下ろす先輩に、僕は見上げたまま聞く。
「ふふ、今日はフェラチオだけで終わりじゃないんだ」

「えっ?」
「こっちにくるんだ」

僕は先輩に呼ばれるまま、ソファに向かい、先輩の隣に座った。
先輩は傍らにあったリモコンを正面にあるプラズマテレビに向けた。

ピッ、と音がして、一瞬の暗い画面のあと、大きな画面に映し出されたのは、
AV女優『安藤しずか』のデビュー作のオープニングだった。

「真優……」
真優のことなどどこかへ忘れていた。
「おまえ、結局真優のビデオでオナニーできなかったんだって?」
カーッ、と僕は顔を赤らめる。
「ふふ、恥ずかしがる姿もさすがにかわいいな」
先輩が僕を見てそういって笑う。目を合わせられないぼくは、うつむくことしか出来ない。

「今日はゆっくりこれを見ながら気持ちよくしてやるよ」
うつむいたままの僕の耳に「気持ちよくしてやるよ」という言葉が響く。すぐに胸がきゅん、となる。
きゅん、という感覚──女の子になって初めて感じた、不思議な感覚だ。
目を合わせることも出来ないほど硬く凍りついた女心は、その感覚とともに融けはじめる。

「せんぱい……」
先輩のほうを見てしまう。顔を赤らめたまま、目が少し潤んでいるのが自分でもわかる。
気持ちよく、してほしい……言葉にこそしなくても、その思いが伝わってしまう。
その恥ずかしさ。でも先輩の目に吸い込まれそうになる。

これが、女の子の気持ちなんだ……どこかで冷静に見つめている僕がいる。
「あゆこ、見るんだ。真優の、安藤しずかの姿を」

「……」
僕がまだ男だったとき。この目で見た真優の姿──白いソファに座って、清楚な白いワンピースで、画面の外からの質問に答える、
幼いころからずっと隣にいた美少女。

男だったころに、亮が見たのと同じ光景。
「よく眠れました」
「緊張してます」
そんな言葉も同じだ。

でも、違う。今は、わかった。
真優は、本当に死ぬほど緊張して、体をこわばらせて……そして、何かわからないけど大きな恐怖におびえている。

この後、真優がどうなるかは知っている。その緊張と恐怖を。
男優の手によって解きほぐされて、清楚な美少女から淫乱な女へと変わっていくのだ。
そのことを知っているからか……同じ女として、今は、安藤しずかの、いや、真優の感じている恐怖と緊張が手に取るようにわかった。

「真優……」
おねがい、真優を、汚さないで……
僕は、結末がわかりきっているのに、そう願わずにはいられなかった。
そして、先輩への嫌悪が突然沸いてきた。

僕のアイドルだった真優に、これほどの恐怖と緊張を与えて……そして、汚して、堕とした、先輩への嫌悪が。
歯を食いしばるようにして、僕は先輩を見た。
その目には悔しさと憎しみがこもっていたはずだ。
先輩はそんな僕に対して軽い微笑を浮かべて見つめているだけだった。

「どうした? 初めて見るわけじゃないんだろ?」
はっ、とした。
そうだ、僕は前にも見た。そのときは、真優の感じた恐怖や緊張に思いをはせることなど出来なかった。

確かに、あの時僕は……これから始まる真優の痴態にどこか胸を昂ぶらせていた。
真優の痴態を目の当たりにして、オナニーすら出来なかったのは、抜けなかったのではない。
ただ、真優に対する、自分のアイドルだった真優に対する操を勝手に立てていただけだ。

「真優……」
今は、画面の中の真優の気持ちが痛いほどにわかる。

「えっ、もうはじめるんですか……?」
画面の中の真優の隣にたくましいAV男優が座った。

同じだ。
そう、男だったときに見たのと完全に同じだ。でも、全然見え方が違う。
複雑な気分で見つめている僕……
男優の手が真優の髪をなでる。いよいよそのときが始まる。

その時だった。
「えっ?」
先輩が、真優がされているのと同じように、僕の髪に手を伸ばしてきた。

「せん、ぱい……」
しばらく髪をなでていた先輩が、
画面の中の男優が真優にするのと同じように僕の髪をなでてきた。

画面の中の真優は服を着ていて、僕は裸だが、同じことをしているのはすぐにわかった。
「そん……な……はぁん」
画面と同じタイミングで僕の唇を先輩の唇がふさいだ。
目を閉じてしまったし、それでなくても画面から目をそらす方向に顔が向いていたのだが、その後どのような展開が待っているのか。
僕はかなり正確に覚えていた。

「ふぅ……ん……」
先輩のキスにとろけそうになる僕。真優……真優もそうなのだろうか。
記憶の中の真優は、少しずつとろけだしているのがわかる。
聞こえてくる喘ぎ声からもわかる。

「あぁん」
胸に手が伸びてきた。
真優と同じタイミングで僕も声を上げた。
ビデオをなぞるように、先輩が僕を犯し始めたことに、気づいていた。

「あぁん、いや……」
ほとんど同じタイミングで、僕も真優も声をあげる。
画面の中のアイドルを、真優を自分が演じていることにも気づきだしていた。

緊張が解けて、恐怖が消えて、淫乱な自分を受け入れる……
その準備を真優が始めていることがはっきりとわかった。

そして、画面の中では真優のワンピースが剥がされるところだった。
「さすがにここは無理だな」

「せんぱ、い……」
僕は手を止めた先輩のほうをただ見つめた。

「お前もすぐにあの舞台に立つんだ」
「……」
ゆっくりと、脱がされる真優の姿を見る。少しずつ、覚悟が固まってきているのが分かる。
「同じように気持ちよくしてやるよ。もっとも、あっちの方が俺よりうまいだろうけどな」
僕は、その言葉に首を振った。

どんな意味かは、もう思い出せない。でも、たぶん、
先輩の謙遜した「あっちのほうが俺より……」という言葉に対してだったと思う。

そんなことを覚えていないほど、そこからの展開は、刺激的だった。
下着まで脱がされた真優が、ソファに押し倒される。
同じタイミングで、先輩が僕を押し倒してきた。

「あぁん」
胸をもまれながら、左手は背中を抱えている。
画面の真優は覚悟を決めたのだろう。唇をかみ締めている。
僕はその覚悟の重さを感じながら、正面から先輩の顔を見る。

この人にこれから……
真優の感じた複雑な気持ちが理解できるような気がする。

「ん……ぅん、あ……」
先輩の右手が僕の股間に伸びてきた。
同じように喘ぐ真優の声が聞こえる。

「いや……あぁん……だめぇ」
画面に目をやると、真優は少しずつ襲ってくる快感と理性の間で戦っている。
僕も、同じだった。
真優の、真優がAV女優として、女として重大な道を歩き始めたその瞬間をしっかり……見つめて、確かめたいのに。

「いや……あぁん、あぁん」
先輩の容赦ない愛撫が僕の理性を襲う。

そして、今度は先輩の舌が僕の股間を埋める。

「あぁん、ふぅん、あぁ、ぁっ……」
同じように……少しずつ、本当に少しずつ、真優も感じ始めている。
「安藤しずか」がカメラ目線になると、僕は真優と目があったような気がする。

恥ずかしがっているのが分かる。そして、それでも声が出てしまうのも分かる。
「いや、あぁん……あぁん」
長いことなめられていた後、真優のアソコには、男優の指が入ってくる。

「うわ……しずかちゃん、ここ、どうなってるの?」
「えっ?」
「言わないと、続きしてあげないよ」

画面の中の真優がはずかしい言葉を言わされそうになる。
「ほら、お前も言うんだ。ここはどうなってる?」
先輩も僕に聞いてくる。

「ア……アソコがぐしょぐしょなんです」
「きもちいい、もっとしてください……」

そんな言葉を真優と同じように言わされる。
先輩の指が、僕のアソコに出し入れされる。
ぷしゅ、ぬちょ……そんな音が響く。テレビから聞こえてくるのと同じように。

「何の音かな? しずかちゃん」
目を伏せる真優。僕も、さすがにこれには応えられない。

先輩の責めに耐えながら、たまに画面を見ると、なぜか真優もカメラ目線になる。
僕は、そのたびに本当に真優と目があっているように感じる。
「あぁん、いやぁ……も、もっと……いゃぁ」
僕のアソコも、真優のアソコも、びしょびしょにぬれていった。

「ふふ……あゆこ、面白いことを教えてやろうか」
「えっ?」

ちょうど、画面の中では真優に対する指責めが終わって、
「おちんちんをしゃぶらせてください」といわされているところだった。

「ほら、お前も言うんだ」
「おちんちん……せんぱいのおちんちん、しゃぶらせてください……」
ほとんど命令に従うだけになっていた僕。
その言葉自体はもう僕から何も奪わなかった。

しゃぶり始めた後、先輩が話したことのほうが、僕の心を刺激した。

さっきまでしゃぶっていた先輩の肉棒を、僕はゆっくりとほおばった。

「面白いことを教えてやるよ」
「あん……ふぅん……」
真優も、僕も、もう一匹のメスになっていた。何かを言われても、フェラチオをやめることはしない。
ただ、仁王立ちになった男の──僕は先輩の、真優は男優のほうを上目遣いに見上げ、従順にその言葉を聴いているだけだ。

「あいつがこのビデオの撮影から帰ってきたときに聞いたんだ。誰に一番見られたくないかって」
「ふぅ……あん」
たくましいチンポが口の中で暴れまわることの気持ちよさを、少しずつ感じてしまっている僕。きっと、真優もそうだ。
「そしたら、真っ先に梶原亮の名前を挙げたよ。お前にだけは、絶対に見られたくないって」
その言葉を聴いても、僕はかまわずフェラチオに集中している。

「このカラミで、自分が少しずつ感じていくのを、その醜態を小さいときからずっと一緒だったお前だけには、絶対見られたくないって、そう言ってたんだ」
「ふぅん、あぁん……」

「真優にとっても、お前は特別な男だったらしいな。でも、お前がビデオを見ても、ただオナニーすら出来なかった。情けない男だと思わないか?」
「いや……あぁん……」
ひときわ、口の中で暴れまわる肉棒が自分を蹂躙していることに、快感を覚えた。

「でも、今お前は女になったおかげで、あいつの気持ちがよく分かっただろう」
「あぁん、あぁん……」
フェラチオしているだけでもこれほどに感じてしまうのか。僕のアソコはとろけそうなほど汁をあふれさせていた。
真優も同じように、そのあふれ出る汁をカメラにとらえられている。

「お前に見られるかも知れない。そう思って感じてしまったんだとよ」
「あぁん……ふぅん……」
フェラチオを続けながら、少しずつ興奮で判断が鈍る。でも、その時はっきりと思った。
男の僕に自分の痴態を見られたくなかった真優の気持ちと、今、その痴態を見て、しっかりとその気持ちが分かってしまった女としての僕。

真優は、きっと、その気持ちを僕に分かってもらいたくて、僕を女の子にしようとしたのだ。
その気持ちと、先輩の思惑が一致して、そして、僕は今天国へと誘われようとしているのだ、と。

「いれてください……セックス、してください……」
恥ずかしさを、恥じらいを……欲望が完全に上回ったとき、真優がそう懇願する。
ベッドに移って、その瞬間を待ち焦がれている。

そして、カメラを見たときに見せる、それでも恥ずかしげな表情。
その視線の向こうには、僕がいる。
時間を越えて、僕に訴えている。

──お願い、見ないで──

僕に……僕に見られたくないから、そんな悲しそうな目をしているのだ。
そして、僕はその気持ちをしっかり受け止めて、同じように今、目の前の男の肉棒を受け入れようとしている。
「先輩……真優と同じように、入れて……セックスして……ください」

真優は受身で入れてもらえず、騎乗位を要求され、AVで最初のセックスで、自らそのオマンコに肉棒をぶち込むことを要求された。

僕も同じように、先輩にまたがって──画面の真優を見ながら、先輩へと腰を沈める。
そのときの真優の目が訴えかける切なさは、僕にはとても言葉では説明できない。
「あぁん、あぁん……あん……」

「ははは、これでお前も完全に真優と同じだな」
先輩が勝ち誇ったようにそうつぶやく。
真優と同じくらい、きっと切なそうな目をしている僕を、先輩は同情の目では見ない。
勝ち誇ったように笑うだけだ。

肉棒が入ってくるのが分かる。真優の、完全に後戻りできなくなった気持ちが僕の心に響く。

片隅──心の片隅に男として冷静な僕がひとつのことに気づく。
先輩は、真優が心の中で頼りにしていた一人の男、つまり僕をいま、葬り去ったと。
女として、真優と同じ淫乱女として作り変えることで、真優の心の片隅にいる男を消し去ったのだと。

「はぁ、ぁん……ぁん、いやぁ」
だが、温かい肉棒の感触が僕の股間から全身に伝わり、粘膜と粘膜がこすりあう感触が快感に変わるとき、
そんな冷静な僕はどこかへいってしまう。
こころの奥底に封印され、先輩の望んだとおりに葬りさられそうだった。

僕自身も、確実に女としての次の一歩を踏み出した。

「おまえも、もうすぐ、あの舞台に立つんだ」
先輩の言葉が、僕の快感を増幅する。
僕に見られたくなくて、恥ずかしい表情を作ったままの真優。

見られたくない人は、僕にもたくさんいる。
真優と目があったような気がずっとしている。

でも、肉棒が僕のアソコを埋めると、もう快感は止まらなかった。

「あぁん、いい……あぁん」
「どこが、気持ちいいんだ?」

「お……おまんこ……あゆこの、おまんこが気持ちいいんです……いやぁ」
顔を真っ赤にして、恥ずかしい言葉をそれでも、平気で言ってしまう僕。
真優と同じだった。

僕は、自分が真優に成れたような気がした。
幼いころからのアイドルに、ついに自分の手に入らなかったアイドルに。

「いやぁん……ぁん、あぁん」
そして、その真優を思いっきり汚しているような気がして……それがもっと興奮した。
僕が見ている──そのことが真優が一番嫌がったことだから……

「あぁん……あぁん……」
そして、もちろん、セックスそのものも気持ちよかった。最高に。

体位を変えて、キスされ、胸をもまれ、自分で腰を振るように要求され……体中から快感を絞り上げられる。

真優と同じように、官能の世界へと落ちていく。
この先輩にだまされたら……いくら真優でも、AV女優にまで落ちてしまう。

ぼくも、もう、どんどん落ちていく自分が気持ちよくてたまらない。
もっと気持ちよくなって、もっとHになって……
もっと、欲望におぼれる一匹のメスに……

きっと自分が望んでも望まなくても落ちていくその世界に。自ら望んで新しい世界に……
作られた淫乱な少女がかなうはずは無かった。

「あぁん……いや……あぁん」
正常位で絶頂を迎えそうな先輩に僕は懇願する。
真優と同じせりふで・・・

「おねがい、だして……私に……かけてぇ……あぁぁぁぁ」

次の瞬間、官能の宴は終わった。

先輩の白いものが僕の胸にかかって、そのにおいが僕の鼻にまでとどく。
自分を汚した──真優を汚したのと同じ──そのにおい。
またひとつ、すこし、真優と同じに、近い存在になった気がした。

とてもいいにおいのように思えた。不思議なことだった。

「まだまだこれからだぞ!もっと、深い、快楽の世界に落としてやる」
「はぁん……せんぱい……」

僕はうつろな意識の中で、先輩の言葉を信じていた。
もっと、気持ちよい世界にいけると、信じていた。

次に、どんな地獄が待っているのかも、知らずに。
セックスは気持ちいいだけじゃない。地獄の苦しみも経験しなければならない。
そのことは、生まれたばかりの淫乱女でしかない僕には、まだ理解できることではなかったのだ。

そして、先輩の「教育」が、まだ始まったばかりだということも。
考える余裕がないほどに、興奮と疲れが、裸で白い肌をピンク色に紅潮させたままの、僕を支配していた。
僕は、まだ浮かれていた。
新しい生活に、無限の快楽を生み出すこのカラダに……

抜け出せない、決して抜け出すことの出来ない地獄はもうすぐそこまで迫っていた。
浮かれている僕はまだその怖さを知らなかっただけだった。


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