ドガッ!
ドガッ!
バグッッ!
数人の男たちから殴られ、蹴られ、気の弱そうな小太りの眼鏡の男子高校生が、転がるようにして地面に倒れ伏した。
「ぐぅっ…げほっ、げほっ」
「アツシ、もうそのくらいでやめとけって、こいつマジで死んじゃうって」
「それもそうだなあ。おい! キモデブ! 今度先公にチクったりしたらマジで殺すからな!」
「うわ、こいつションベン漏らしてやがる! きったねぇー!」
縁日で売られているヒヨコのような色の頭の3人の男子高校生は、倒れている男子高校生を嘲笑すると、
今度は無理矢理、その男子高校生のズボンを脱がしにかかった。
「やめてよっ! 何するんだよ! やめてくれよっっ!」
「るせぇブタ! 暴れんじゃねぇ! おいシゲ! ヤス! こいつの足押さえろ!」
あっという間に、小太りの男子高校生のズボンは剥ぎ取られてしまった。
「これは俺達が没収だ。代わりにこれでも履いてろよブタ!」
3人組のリーダー格のアツシは、小太りの男子高校生…サトルに、その「代わりのもの」を投げ付けた。
それは…スカートだった。
「C組のカオルのやつパクってきたんだよ。あ、ちゃんとお前の名前で書き置きしてきたからな」
「ちゃんとそれ履いて帰るんだぞ、サト子ちゃ〜ん。ひゃっはっはっはっはっはっ!」
御子柴サトルは、3人の不良たちに無理矢理スカートに着替えさせられ、ようやく解放された。
(もう嫌だ…いっそ死んでしまいたい…)
サトルは人目を気にしながら、なるべく人通りの少ない裏道を選ぶようにして家路を急いだ。
(とは言うものの、どうやって家に帰ろう…こんな格好親に見られたらどうしよう…)
しかし、そうは言ったものの行く宛もない。サトルは諦めたように家へ向かって歩いた。
家の側の小道を通りかかった時、ふと人の気配を感じてサトルはハッとなった。
(やばい…こんな格好人に見られたりしたら自殺もんだよ…もう)
サトルは引き返そうとすると、ふいに後ろの方から声を掛けられた。
「何か悩みごとでもあるのかい? ひっひっひっ…」
「うわああっっっ!」
びっくりしてサトルが振り返ると、そこには70才くらいの老婆が立っていた。
何だか口元に無気味な笑みを浮かべた、ちょっと気味の悪い老婆だった。
サトルは慌てて逃げ出そうとしたが、ふいに老婆に手を掴まれると、何故だか一歩も動けなくなってしまった。
老婆が凄い力を出している、というわけでもない。何かしらの不思議な力が作用しているようだった。
「まぁ待て、若いの。儂がおまえの悩みを聞いてあげるから。どれ、そこにお座り」
サトルは自分の意志とは裏腹に、急に力が抜けたようにその場に座り込んだ。
老婆はサトルの額にしわしわの左手をかざした。すると、老婆の左手とサトルの額の間にほのかに光が現れた。
「ふむふむ…そう言うことか…お前さんはその3人を懲らしめてやりたい、そうなんじゃな?」
サトルが呆気に取られたような顔で老婆を見つめると、老婆は、
「ひっひっひっ…儂はお前さんの考えが読めるんじゃ。お前さんが信じる、信じないは別にして、
他にも色々と出来るぞ。それにお前さんに力を貸してやってもいい」
「ぼ…ぼくは…」
「みなまで言うな。なあに、礼などいらん。これは儂の趣味みたいなもんじゃ」
老婆は無気味な笑みを浮かべ、言葉を続けた。
「お前さん、あの3人が憎くないのかい? 懲らしめてやりたいと思わないのかい?」
「憎いです! 懲らしめてやりたいです! …でも、その前におばあさん、ぼくはこんな格好じゃ家に帰れません…」
「儂に任せておけ。身体を楽にして、目を閉じるのじゃ」
サトルは老婆の不思議な力に吸い込まれるように身体の力を抜き、いつの間にか目を閉じていた。
次の瞬間、老婆の左手から強烈な閃光が放たれ、サトルを包み込んだ。
サトルが気がつくと、あたりはすっかり薄暗くなっていた。
(あれ…? こんなところで寝ちゃってたのか…! いけね、いま何時だ?)
サトルは、腕時計をみようと左手を目の前に持ってきた。
すると、いつものぷよぷよしてちょっと脂ぎったサトルの手ではない、白くて細くて綺麗な手が目の前に現れた。
腕時計の文字盤もいつもとは逆に、手の甲の方を向いていた。
「へっ? 何だこりゃ!」
サトルが思わず口に出すと、その声もいつもの変声期を過ぎた男子高校生独特の濁った声ではなく、高く美しく澄んだ声がほとばしった。
慌てて自分の身体の方に目をやる。
すると、いつもの小太りのぶよぶよした身体ではなく、ほっそりと折れそうな白い身体がそこにはあり、
それを包んでいたのはサトルの通う高校の女子の制服、ブレザーであった。
「ど、ど、ど、ど、どうなってるんだ?」
サトルは思わず膨らんだ自らの胸元を鷲掴みにする。指にはやわらかなマシュマロのような感触。
そして触られた胸からは痛みと甘い疼きが伝わってきた。
「いたっっ!」
サトルはまだじんじんと痺れる胸をさするようにゆっくりとなぜた。痛みがだんだんと甘い感覚に変わっていく。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ…」
左手は胸をまさぐりながら、今度は右手をスカートの中に突っ込む。
胸の周りにも着慣れない衣類が取り巻いている感覚があって、それがブラジャーであることは推測できたが、
パンツもいつものトランクスとは違うぴったりとした感覚の衣類に変わっていることが既にサトルには分かっていた。
しかも、ぴったりとしたパンツに、そこにあるべきものが締め付けられているような感覚もまるでない。
サトルの右手は滑らかな布地の上から股間をまさぐり続けた。
あるべき物がそこにない代わりに、縦に溝のようなものが走っていることが分かる。
「はぁっ、はぁっ、な…ない…ぼくのアレが…」
サトルは左手で胸を、右手で股間をまさぐりながら、ふらふらと立ち上がり、近くにあるバックミラーのところまで歩み寄って行った。
そこに映っていたのは…元のサトルの姿とは似ても似つかない、モデルとしてもやっていけそうなくらいの、
透き通るような肌に栗色のショートヘアーの女子高校生の姿だった。
「これが…ぼく?」
サトルは思わず我にかえり、スカートから右手を出し、胸をまさぐっていた左手も離し、
呆然とミラーに映る今の自分の姿を見つめ立ち尽くした。
すると、向こうからサトルの母親がこっちに向かってやってきた。
(どうしよう! こんな姿じゃぼくだと気付いてもらえない! 兎に角あのおばあさんをもう一度探さないと!)
しかし、サトルの母親は、女子高校生へと変身してしまったサトルの元へやってくると、
「何やってんの、サトミ! 女の子がこんなに遅くまで! あんまり心配させるんじゃありませんよ!」
そう言いながら、サトルの手を引き、家へ向かって歩き出した。
(どうなってるんだ…? 母さんは女の子のぼくを「サトミ」と呼んだ。
これって…ぼくが女の子である世界に紛れ込んでしまったってことか?)
その時、ふとサトルの脳裏にあの老婆の声が響いた。
『お前さんに力を授けておいたぞ。「力」を使うためには、男ではだめなのじゃ。女でなければ力は使えん。
だからお前さんの性を反転させ、姿を変えてやった。美しくしたのはサービスじゃ。
それと、お前さんが力を使うのに必要なものも授けてある。
これで、あの3人を懲らしめてやることが出来るぞ…ひっひっひっひっ』
サトルは、スカートの内ポケットの中に何か入っているのに気付いた。
取り出すと、小さな古ぼけた本のようなものだった。
『それは、魔術の本じゃ。必要な呪文が記してある。お前さんの力になってくれるじゃろう…』
(あのおばあさんの言ってたことは本当だったんだ…よし、どうせ死ぬつもりだったんだ。
こうなったからには、あいつらを徹底的に懲らしめてやる…見てろよ…)

妖しい老婆の魔力によって「サトミ」へと変身してしまったサトルは、自宅の自室でアツシ達3人への復讐の計画を練っていた。
老婆から授かった小さな古ぼけた本がサトルの元にある。それは老婆曰く『魔術の本』だった。
不思議な文字で記された本だったが、何故かサトルにはその意味がすらすらと読めた。
美しい少女になったことによって得た力の為せるものであろうか。
そこに記されている『魔術』は、何故か全て「性の変換」に関するものばかりであった。
「精神の入れ替え」、「特定の相手の肉体への憑依」、「特定の相手の性別を逆転させる」・・・など。
ただ、そのどれもが、魔術を使用した人物への虜に相手をさせてしまうというもので、
今までアツシ達3人にいいように虐げられてきたサトルにとっては願ったり適ったりのものばかりであった。

サトルの脳裏には、今までアツシ達に受けてきたイジメの数々が走馬灯のように浮かんでいた。
上納金と称し、なけなしの小遣いを奪われたこと、サンドバッグ呼ばわりされ、笑いながら殴られ、蹴り続けられたこともあった。
それも、顔などの露出して目立つところではなく、脇腹など服の上からでは分からないところばかりを、何度も、何度も。
給食の上に牛乳をぶちまけられ、手でぐちゃぐちゃにかきまわされたものを食べさせられたことも頻繁にあった。

「ブタは人間様と同じものは食わねぇよなあ。さあ食えよ。ちゃんと四つん這いになって、顔を突っ込んで食えよ」

担任の若い女性教師は、アツシ達に怯えて注意も出来ず、目を背けて震えていた。
他のクラスメートも、見て見ぬ振りといった風で、遠巻きにサトルの哀れな姿を見つめていた。
サトルが四つん這いにされ、牛乳まみれの給食に顔を突っ込んで食事を始めると、アツシ達は狂ったように笑い出した。
屈辱の中で過ごしていくうちに、いつしかサトルの心は冷えきっていった。
そして、心の中にやがてどす黒い感情が渦巻くようになっていった。

アイツラヲコロシテヤル コロシテヤル コロス コロス ブッコロス・・・

口に出すことは出来ないが、心の中で何度もその呪詛を繰り返した。
老婆の魔力で美しい少女に生まれ変わったサトルは、その美しい顔に冷たい微笑を浮かべ、やがてアツシ達に下す天誅を思い、喜びに打ち震えた。

「あいつら、どんな目に合わせてやろうか・・・そうだ、アツシは、あいつの嫌いな美少女アニメ風のロリロリな女に変えてやろう・・・
勉強も運動も苦手なトロくさい女に変えてやる・・・体力が自慢のアイツが、体力を奪われ、非力でドン臭い女に変わることを思うと・・・
うふっ、うふっふっふっふふふふっ・・・はぁ、はあ・・・あああっっ!」

いつしかサトルの右手はスカートの中へと伸び、左手はブラウスの中へと差し込まれていた。
とてもこんな綺麗な少女がしないような姿で、スカートを乱し、太腿は惜し気もなく開かれ、
細く白い手は乱暴にブラウスを掻き分け、その下のブラジャーをたくし上げ、こぼれ落ちた乳房を乱暴に揉みしだく。
その身体は童貞のサトルの身体が変化しただけあって処女であったが、
何度も秘所を愛撫されるうちに男を受け入れる準備を始め、内部からやがて愛液が滲み出てくる。
男の時の自慰とは違い、体の奥から熱くなり、体全体が性器と化したかのような錯角に陥る程のめくるめく快感がサトルを包み込む。
しかし、身体が女性になったとはいえ、サトルの精神は男である。
まだ女性との経験もないとはいえ、十代の「やりたい盛り」の男のものだ。
部屋の姿見に映る、美しい少女になった自分自身の痴態を目にすると、サトルは一層興奮の度合いを増していった。
おおよそこのようなことをするとは思えないような美しい少女の姿が、サトル自身の手によって汚されていく。
サトルは夢の中にいるかのようであった。

「サトミー! お風呂沸いてるわよー! 早く入りなさーい!」

母親の声でようやく我に返る。
今の自分のいやらしい喘ぎ声を聞かれなかっただろうか・・・急に恥ずかしさが込み上げてくる。
鏡の中のサトル=サトミは、ブラウスを乱し、スカートを乱しながら、うっすらと上気したほんのりと紅い顔でこちらを見返していた。

「続きは、風呂に入ってからだな・・・」

鈴のような澄んだ声で、わざとそう口に出していってみる。生まれ変わったサトルの一日は、まだ始まったばかりだ・・・。


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