ピピピピッ! ピピピピッ! ピピピピッ! ピピピピッ!

 酷く耳障りな電子音で彼女は目を覚ました。まだ何となく眠っているような気がする。
 ボーっとしていて頭が上手く廻らない。状況も良く分からない。何でここに居るのかすら理解できない。

 そもそも──

 私は──

 だれ?


 段々と意識がはっきりしてくる。視界の中には見覚えのない世界があった。沢山のライトがこっちを照らしてユラユラとしている。
 仰向けのまま体を投げ出した姿勢で水中を漂っているのが分かった時、ゴポッっと音がして水位が下がり始めた。背中が固い物に触れている。
 やがてユラユラしていた物が目の前に迫ってきてそれが水面だと気が付いた。顔が水面から外の世界に出る。
空気を吸い込もうとしたとき、口の中にも鼻の中にも、そして体内にも水が入っているのに気がついた。
 肺の中が濡れている感覚は酷く気持ち悪いものだ。まるで息を吐き出すかのように液体を吐き出した私は、ゲホゲホと噎せながら繰り返し水を吐き出す。
 ヒューヒューとのどを鳴らしながら肩で息をしてるが一向に楽にならない。
 少しでも楽な体性になりたいとゆっくり体を起こした時、両胸にあり得ない重力を感じて視界を下に向けた。
 形のいい膨らみが2つ、両胸にぶら下がっている。そしてその下、今まで男性器──ペニスの有った場所が妙にスッキリしていて、まるで鈴の割れ目のような 線があった。

 なかば呆然とした状態で今は自分の一部となっている乳房を眺める。不思議と疑問や疑念が沸く事はなく、むしろその形の良さに自分で惚れ惚れしてしまいそ うだった。
 へその辺りには20桁位の数字が2段に書かれていて、2次元バーコードが3つ書き添えられていた。

 あぁ、そうだ……
 『私』はTS法の対象に選ばれて女の子になったんだっけ……

 不思議な感情が心を埋めていった。
 両手、両腕の順に視界を動かしていって、次は両足の太股からすね、足の甲へ、そして足の指先へ。
 男だった頃の、見慣れていた筈の体を思い出そうとして思い出せなかった。
 今見ている新しいからだが、さもそれが当然の事のように見つめたあと、棺桶状になっているカプセルから出ようとして頭の周囲や首筋、そして両足の間の、
女の子にしかない穴の中からもケーブルが繋がっているのに気が付いた。

 なんだろう? これは何? え? なんなのよ!

 そう心の中で叫んで気が付いた。声が出ない。
 半ばパニックになりかけた所で、このカプセルのある部屋に唯一有るドアがスッと開いた。
入ってきたのは背の高い白衣を着た女性2人だった。右手で待て待てのジェスチャーをしながら近づいてくる。

「おはよう香織さん。気分はどう? まだちょっと動かないでね、これからモニターケーブルを外すから」

 そう言って私は再び仰向けに寝かされた。白衣を着た女性が2人で頭や首に付けられているケーブルを外していく。
 何か専門的な会話をしながら二人は手早く処理をして、そして下半身側へ廻り無造作に股間のケーブルをまさぐった。

 あぁ!

 ゾクッとする感触が背骨を駆け抜けて頭を貫いた。一瞬視界が白くなって、体が弓なりにしなった。

「あ、ゴメンナサイね。まだひどく敏感なんだっけ……」

 そう言ってはいるものの、片方の女性は容赦なく指を敏感な部分へと滑り込ませて、優しく微笑んだ。
ゆっくりと体から引き抜かれていくケーブル。視界がチカチカとするような衝撃に包まれながら眺めざるを得なかった。
 私の胎内から引き抜かれたケーブルがかなり長い事に気がついたけど、それ以上に驚いたのは、
巻き取られていくケーブルからヌラヌラとした糸を引く液体が垂れていることだった。

 これは何だろう?? 私の体はどこかおかしいのかな?

 色々な考えが頭の中をグルグルと回った。それだけでまたパニック状態だった。

「お待ちどうさま! 香織さん、立てる? ゆっくり体を起こしてね」

 そう言ってもう一人の女性が背中を抱きかかえて体を起こしにかかる。白衣で擦れる背中の皮膚がゾクゾクという感触を伝える。

「さぁ、新しい自分に出会いましょうね。まだゆっくりよ、焦らないで」

 そういってその女性は私を抱き抱えるようにカプセルから持ち上げた後で、そっと地面に下ろしてくれた。
目の前の壁は全部が鏡になっていて、そこに映る自分の背景がこの部屋を妙に広く感じさせてくれる。
 ゆっくりと視線を動かして、私は正面の鏡に映っている自分の姿を初めて見た。
 身長は170cmちょっとだろうか。ウェストのくびれが見事な……そう、グラビアアイドルみたいなスレンダーな体。
しかも、重そうにぶら下がった丸い桃のような乳房。股間にぶら下がっていた筈のペニスが、姿を消して妙にスッキリとしていた。

「さぁ、新しい人生ね。隣の部屋にシャワー室があるから、体に入っているマーキングを消してくるとよいですよ。着る物もそこに置いておくからゆっくりして きてね」
 そう言って微笑んだ女性に促されて、となりの部屋へとドアを開けて移動した。

 さっきここからあの女の人は出てきたけど……
 まだ何となくポワーンとしながらも、段々と頭が冴えてくるのが自分で分かり始めた。
乳白色のビニールカーテンを開くと、そこにはプールサイドのシャワー室のような蛇口が上の方にあった。
 壁に埋め込まれたダイヤルを回してお湯が勢いよく噴き出した時、初めて体に浴びた瞬間に全身をゾクゾクするほどの快感が駆け抜けた。
全身の感覚が鋭くなっていて、僅かな水圧でも鳥肌が立つほどだった。

 これが女の子の感覚なのかな?
 そんな事を漠然と考えながらボディーシャンプーを手にとって体を洗い始めた。
 どこにも体を擦るタオルの類が無いのは自殺防止かな?
 ふとそんな事を思いつつも、自分の手で自分の体を触ることが最初の快感になった。
 両腕からお腹へ、そして両胸へ。乳首がピンと立ち上がっているのは感覚が鋭くなっている証拠なのだが、そんな事を考える余裕はなかった。
 良く判らない花の香りに包まれて私は自分の乳房を揉みしだいていた。

 ああ…あぁぁぁ……

体中に快感の波が流れていく。シャワーのお湯が当たるだけで意識が遠くなったような気がした。
 そして、両の手が乳房を弄ぶのに疲れた頃、左の手が意識せずに下腹部を伝って股間へと移動していった。
無意識に快感を求める衝動が精神を埋めていき、後は無意識に自分の体をまさぐり続けた。
 初めての感触で全身がとろける程の快感……全ては計算し尽くされた、目覚めて最初の30分。
 これから性の奴隷となって子供を産ませる為の第一歩。
 シャワールームのマジックミラー越しに設置された監視カメラは一部始終を見続ける。モニター室の中の女性二人が底意地の悪そうな笑みを浮かべて呟く。

「第一段階完了ですね香織さん。丈夫な子供を産んで下さいね、フフフ……」

 彼女はシャワー室の中で女の子になって初めてのオナニーを楽しみ続けていた。


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