とけない呪文―雨の日はそばにいて

外は雨、彼はきっとジムでトレーニング中。
ランニングに出かけたりはしないだろう。
でも、行ったりしない。邪魔になるから。

外は雨、あいつはきっと家でくつろいでいる。
俺が普通の男ならばこんな日はどこかへ連れ出すのだろう、
でも、行かない。俺には出来ない。

窓の向こうはしとしと降り止まない雨。
指先でかちゃんと音を立てる鍵。
彼女の視線がそこに落ちる。
・・・行ってみようか・・・・

帰宅途中、いつものように簡単に食料を買って帰る。
視線の先には一人帰るアパート。
電気もついていない、寂しい部屋。

鍵を開け、いつものように無口に靴を脱ぎ捨てる。
濡れた傘が目に入る。

部屋の真中に置かれた小さなテーブルに
うたた寝する彼女。
その前に置かれた夕食。

彼はそっとその彼女の黒髪に手を触れる。
しっとりと湿り気を帯びているところを見るとまだ着いて間がない。
作ってきた夕食を並べて、待っているうちにというところだろう。

やさしい瞳で彼は彼女を見つめた。
ただ、見つめた。
いつもは見せないやわらかい光を帯びた視線で。

ふと気配を感じて目を覚ます彼女。
これ以上無いほど極上の笑顔を彼に向ける。
少しだけ寝ぼけまなこだけど。

「おかえり、真壁くん。」

そんな日常の一言。
そんな普通の会話。

照れくさそうに頭を掻きながら、
「ただいま、江藤。」
そういった瞳はありがとうを告げている。

そんなあたりまえの日々がいとおしい二人。

せわしげに立ち上がって食事の支度をしようとする蘭世を俊は抱きとめる。

「食事より・・・・・」

耳元で呟く。

「お前の身体の方が冷えてる。」

抱きしめた手に力を込める。抗い、そしてその腕の中に身を委ねる。
「真壁くん、髪の毛、濡れてるよ。」
蘭世の手が俊の髪の毛に触れる。そのまま唇が降りてくる。
熱く、甘い口付けが二人の間に見えない呪文を投げかける。

・・・愛しています・・・

どちらの言葉だったかなどは知らないけれど。

解けない呪文、やさしい鎖。二人を包む空気が祝福をくれる。

少しだけ湿った布越しに互いのぬくもりが強く伝わってくる。俊の指先が蘭世の服のボタンにかかる。
一瞬の躊躇い。

「いやか?」

愛する男の懇願に蘭世は心を決める。震えながら小さく首を横に振る。いつかは来る二人だけの時間。
それが少しだけ早くなっただけ。
ぎこちない手つきで俊は蘭世の服を脱がせていく。

真白き素肌が、狭い部屋のなかで明るく瞬く。目を閉じたままの蘭世を抱きしめる。
その腕の強さが蘭世に安心をくれる。

「寒く、ないか?」

俊のその言葉に彼の緊張を知る。そっと目を開け俊を見つめる。
愛する彼の目に映る自分は、どうだろうかと・・・探るように。
彼女の不安に気がついたように俊は再度緩やかなキスを深く与える。

「俺もだぜ。」

自分だけではない、不安。
同じ想い、同じ・・・・。

ぎゅっと握った互いの手のぬくもりを忘れないように。
触れ合った肌の熱さを覚えていくように。

時間をかけて開かれていく彼女の身体、負担をかけないように、想いをこめて彼女を愛していく。

素肌に感じられる彼のぬくもり、想い。
自分を受け入れようとする彼女の心。

その瞬間はまるで宝石のように二人の心に焼きついた。

二人確かめ合うように、抱き合い、眠る。


外は雨。
土砂降りの雨が二人だけの世界を作る。

また、雨の日がきたら今日のことを思い出す。

だから、いつも心はそばにいて・・・・・。

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