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・・・雪・・・?こんなところに・・?いや・・違うな・・・
はらりはらりと舞い散る白いかけらが彼の眼に映る。
・・・あれは・・・あれはいつのことだっただろう・・・
こんな風に白い風景の中、あいつといたのは。
言った言葉、すべて覚えているよ・・・・
「・・・いつか必ず、おまえを迎えに行く」
その言葉に偽りは無いのに・・・・。
今そばにおまえはいない。
どうしてだろう、どうしてだろう。
泣かせてばかりだ、俺は。最後まであいつの泣き顔だけがまぶたに浮かぶ。
白く舞い散るそれはチェリーブロッサム。
去りゆく春を惜しんで散り行く花。
あいつのように小さく可憐な実をいつかつけるだろう。
「ダーク・・・何を思っているの?」
「・・・・・・・」
「知っているわ、私。黒髪の少女のことでしょう・・・」
「・・・!・・・」
「あの人もそうだったわ・・・・外を眺めては思いを遠くに向けていた。」
彼は答えない。
「そろそろ時間よ。ダーク。」
「ああ・・今行く。」
開け放たれた窓から一枚の花びらが、デスクにたどり着く。
忘れないで、というように。
「・・・・忘れやしないさ・・・・・」
あのときの誓いを。
最後に触れた唇を。
涙に濡れたほおを。
いつまでも離したくないとそう思った。
その資格など何も無いのに。
いつもいつでも俺の心の奥底にあいつがいる。
どんなに距離が離れても。
夢の中ならいつでもおまえに会えるだろう。
夢の中で触れ合うことが出来るだろう。
「・・・あ・・・・・」
彼女の心に何か温かいものが宿る。
じんわりと緩やかに体中に広がっていく。
彼が自分の事を思っているのではと考えては・・・ため息をつく。
(僕見たもん、お姉ちゃんにキスしてるとこ!!)
その言葉だけが彼女を支える柱になっている。
どうしてなにも言ってくれなかったの?
そんなに私は頼りにならないの?
どこへ行ってしまったの?
帰らない答えを何度も問い掛ける。
空に向かって。
お互いが思うほど、いくつもの運命の輪が回り始める。
その結末はまだ、誰も知ることが出来ない。
早く、早く会いたいの・・・。
彼女は思いを胸に地下の扉へと向かう。
そうして扉の前で立ち止まる。
毎日そうしている。
時がくればまた、会える。
戻ってきてくれる。
そう信じて、ベッドへ戻る。
夢の中ではいつも会えるから。たとえ泣きながら目覚めることになっても。
夢の中で二人は笑い、はしゃぎ、そうして抱き合い、愛を交わす。
現実には出来ないことでも。
手をつなぎ、体をつなぎ、心をつなぐ。
キスの隙間の吐息も。
貫かれる甘美な痛みと快感も。
すべてがリアルなのに・・・。
そうして夢の中で眼を閉じると現実の朝がやってくる。
いつか本当に抱き合える日がくる、そう信じて。
―明けない夜は無い、必ず太陽は昇る― |
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