PERMISSION


「小春日和ね〜!!」
そう言って蘭世は洗濯物をサンルームに干していく。
「お母さん!終わったよ〜。」
洗濯籠を抱えてリビングへ戻ると椎羅も掃除が丁度終わるところ。
「ありがとう、こっちも丁度よ。」
「ん、じゃ私そろそろ準備するね。」
「何時にいらっしゃるの?」
「え?あ〜えとね。11時って言ってた。」
「そう、じゃあと2時間くらいね。私たちも準備もしなきゃ・・」
「うん。」
軽い足取りで階段を上っていく蘭世を見送ると少しだけ憂鬱そうに椎羅は寝室へと向かう。
「あなた・・・」
暗い部屋の棺桶に声をかけてみる。
起きている気配はしている、が出てこようとしない。
「・・・準備しないと間に合いませんよ・・」
「・・・・・・・・」
無言の返答。

「あなた・・・・」
椎羅は棺桶の横に座るとそっと声をかけた。
「判りますけどね・・気持ちは・・・」
「・・・・・・」
ぎぃっと蓋が開いた。

「お母さん、これこのくらい?」
「そうねぇ・・・もうちょっとかしら。」
「うん。」
キッチンに並んであれこれ料理をする二人の姿。
その横で小間使いのように鈴世が動き回っていた。
「姉さん、これは?」
「う〜ん・・・・・うんそれにする。」
「判った、用意するね。」
「蘭世、お父さんを呼んできてくれる?そろそろよって。」
「は〜い。」
エプロンを外すと蘭世はパタパタと望里の書斎へと歩いていく。
その後姿を見送りながら鈴世に指示を出しその日の準備を整えていく。
着々と進められるそれはさながら様式美ー

トントンと小さくノックすると中から返事が返ってくる。
「お父さん、準備は出来た?」
「・・・ああ・・・」
望里は小さく頷いた。
一瞬の沈黙ー
「お父さん・・・・」
「なんだね?蘭世。」
「うん・・・・」
「今日・・・今から真壁くんが・・・来るでしょ?」
「ああ。」
「あの・・・あのね。お父さんとお母さんにちゃんと挨拶がしたいって前に話したよね?」
「そうだったな。」
「・・・・・その・・・・・・真壁くんが伝えたいことがあるんだって、お父さんとお母さんに。」
「・・・・・・そうか・・・」
言葉に詰まりながら蘭世は努めて明るく望里に向き直った。
「もうすぐ時間だからってお母さんが呼んできてって。リビングに行こう?」
「判った。すぐ行くから先に行ってなさい。」
「え〜、一緒に行こうよ。ほら。」
ハンガーにかかったジャケットを取ると望里を部屋の入り口へと引っ張る。
「おいおい。」
「ほら、早く。」
諦めたように望里は蘭世のなすがままになり書斎を後にした。

玄関のチャイムが鳴る。
「は〜い。」
蘭世が跳ねるように玄関へと急ぐ。
一瞬伏目がちになる望里に椎羅がキッとにらむと慌てたように顔をあげた。
一歩一歩歩いてくる音がする。
扉が開くー

「こんにちは。お邪魔します。」
「こんにちは、真壁くん。」
「今お茶持って来るわね。」
「あ、私も手伝う。」
「貴方は座ってなさい。鈴世、手伝って。」
「はい。」
リビングに望里と俊、蘭世が残される。
「今日はいい天気だね。外は。」
「あ、はい。ええ、そうですね。ここまで来る間も暖かくて歩きやすかったです。」
「そうだね・・・本当にいい天気だ・・・」
望里はかみ締めるようにそう言った。
「おじさん・・・・」
「ああ、そうだったね。話があると蘭世から聞いているよ。」
「はい・・・」
タイミングよく椎羅と鈴世がコーヒーを運んでくる。
「どうぞ。」
「頂きます。」
リビングに漂う香ばしい香り。
少しだけ張り詰めた空気。
俊は思い切ったようにカップをテーブルに置くと口を開いた。
「おじさん・・・・本当にありがとうございました。」
「え?」
拍子抜けしたように望里は眼を見開く。
「俺は・・・父親を知りません。・・そりゃ今は親父はあいつだって知ってますけどでも、そういう意味ではありません。」
「・・・・・真壁くん。」
蘭世が俊を見つめる。
それに目でうなづき返すとさらに続ける。
「神谷のおやじさんからもいろんなことを教わりました、それも俺にとっては大切なものです。」
「そしておじさん、貴方からもたくさんのことを教えてもらったと・・あの戦いの中で。」
「・・真壁くん・・・君は・・・」
「ちゃんと伝えたことが無かったと、あらためて思いました。ありがとうございます。」
「・・いや・・・・そんな・・・私は私が出来ることをしただけで・・・・」
「それでも俺にとっては大切なことでした。」
「・・・・そうか・・・そう言ってくれるのは、嬉しいものだ・・ね。」
望里の目が少し潤む。

「今も色々と助けてくれてます。そうして俺もようやくチャンピオンにもなれました。」
「ああ、聞いているよ。おめでとう。よく頑張ったね、念願が叶ったということはすばらしいことだよ。」
「はい・・・・そして・・・・」
一瞬照れたように、そして困ったようなそれでいて決めていたような顔で俊はあらためて望里に向き直る。


「お嬢さんと、蘭世さんとの結婚を許していただけませんか?」

しばし無言で望里と俊は視線を合わせた。
「・・・・・もし・・も・・・・ここで、私が反対したらどうするんだね?」
「お父さん!」
蘭世が気色ばんで声を荒げる。
「蘭世は黙っていなさい。私は俊くんに聞いているんだ。」
「・・・・・許していただけるまで何度でも伺います。」
「・・・そうか・・それでも反対し続けたらどうするかね?」
「それでも。許しが出ない限りは先へは進みません。」
視線を合わせたまま二人の会話は続けられる。
「では、反対をしよう。」
「お父さん!!!」
「まだ、ダメだ。結婚はまだだ。」
「どうして!」
「付き合いは反対しない、だが結婚はまだダメだ。」
俊は俯き、囁くように
「・・・・・判りました・・・」
とようやく言った。
「お父さん!!私は・・・私は・・・」
涙ぐみながら抗議しようとする蘭世を制しながら望里は俊に視線を投げる。
「俊くん、君は私にありがとうと言った。」
諭すように続ける。
「同じように神谷さんにも。」
「・・・・・・」
「だから、同じように大王様にもそういった気持ちがもてたなら。そのときにまたこの話をしよう。」
俊は顔をあげた。
「まだ、君は父親を父親とわかってはいてもなかなか認められていない部分も多いのだろう、だからどうだろうか?一度魔界へ行ってしっかり見てきては?」
そう言って優しく微笑むそれはまさに俊の思い描いていた父親像そのものであった・・・・・
「・・はい・・・」
暖かい日差しの中、俊はゆっくりと頷いた・・・・

数日後、俊は魔界の母の元に居た。
彼女の知っている父の話を聞く為に。
そうして弟であり、現在の王であるアロンのところにも。
偉大なる魔界の王としての彼、そして不器用なところのある親としての彼。
さらに一人の男としての彼を。
話を聞くことで理解していった。

「あの人は、ひたすらに魔界のことを思うあまりしきたりを重んじた、それでも自分の中の感情も捨て切れなかった。だから私たちを人間界に逃がす以外の方法を見つけられなかったのだと思うわ。」

「俊はいいよな、母上とずっと一緒だったんだからさ。でもまぁ僕も父上は居たからな。いつも一緒ってわけじゃなかったけど、それでも見ていてはくれていたんだろうなと今になれば分かるよ。ま、僕も親になった身だからね。立場上いつでも子供のこと考えてやれるわけじゃないんだよね。」

「実はそっと水鏡で見てたんじゃないかと思うんだよな、父上はさ。」

「誰かが見ていると感じた時は確かにあったのよ。記憶が無かったから誰とかまではわからなかったのだけれども、あの頃は。」

俊はそんな会話を一つ一つ聞くたび、何かが動いていくのを感じ取っていた。
足りなかった何か。
大切な何か。
必要な何か。

「おやじのやつ・・・・」
小さくため息一つ。
慣習を壊せなかったけれども愛する家族を守る為に出来うる何かを探して、それを何とかして行おうとした彼。
絶対じゃなかったがゆえに自身を責めつづけてしまったのだろうことが容易に想像できるのは自分が彼の息子だからだろう。
多分自分でもそうするかもしれないと思いが至る。

今なら。
いやー
今だから理解出来ているのかもしれない。
昔ならばきっと判らなかったー

「お袋。」
「何?俊。」
「今度来る時は江藤と一緒に来るよ。」
「楽しみにしているわ。」
「ああ。」
俊は魔界を後にした。

ーあの時から1ヶ月後の少し寒くなった日曜日の午後のことだった。
玄関のチャイムが鳴った。
「あら、真壁くん。今日は蘭世出かけているのよ?」
「ええ、おじさんに話があって・・」
「そうなの?どうぞ、あがって。」
「はい、失礼します。」
書斎で執筆中の望里に椎羅が来客を告げた。
「・・・・どうぞ。ちょっと散らかっているがね。」
「お邪魔します。」
望里はそこに立つ俊を見つめた。
「おじさん・・・」
「なんだね?」
「俺は親父の息子なんです。間違いなく。」
「・・・・・・」
「それは疑いようもない事実でそこから逃げ出したくても逃げ出せない。だから、俺はこうしてここに居るんです。」
「・・・・そうか・・・・」
「幸せにしたいと、思います。」
「・・・判ったよ、俊くん。」
望里はそっと視線を伏せた。


「真壁くん!!」
夕方帰ってきた蘭世はリビングで鈴世とゲームに興じている俊を見て驚きの声を上げた。
「よぉ。」
「来るなら来るって言ってよぉ・・・」
「今日は神谷と出かけるって聞いてたからな。邪魔すると神谷の機嫌が悪くなる。」
「ええ〜〜!!」
そっけなく言い放つと鈴世に向かって
「しかし今のゲームって難しいな。」
「だいぶうまくなったよ、最初に比べたら。」
「そうか?」
まんざらでもなさそうに笑う俊。
「もうすぐ夕食よ。手伝って。」
「片付けてくるからちょっと待ってて。」
「その大荷物をか?手伝ってやるよ。」
「あ〜もう!!もう!!見ないでったら!!」
笑いながら俊が蘭世の荷物を持ち上げる。
「部屋か?」
「いい!いいってば!!自分で持つ!!!」
「ほら行くぞ。」
「もう〜〜!!」
騒々しく二人で蘭世の部屋へと向かう。
部屋に入ると俊は荷物を降ろして蘭世に向き合った。
「おやじさん、許してくれたよ。」
「・・え?・・」
蘭世は面食らったように俊を見つめ返す。
「ちょっと時間かかったけどな。」
「真壁・・くん・・ホント?・・・本当に?」
「・・・ああ・・・」
きゅっと蘭世が俊に抱きついた。
「嬉しい・・・嬉しい・・・・」
「ほら、あんまり遅くなると下が困るぞ。」
「もう!真壁くん女心をわかってない!!」
「はいはい、おっしゃるとおりで。」
おどけたように答えると悔しそうに蘭世が俊を見上げた
俊はその視線を受け止めると、そっと唇を重ね恋人のキスをしたー

END

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