呪縛 1
「・・・?・・・」
夜半過ぎ、何か理由もなく俊は目を覚ました。
アパートの部屋は殺風景でいつものごとくの風景。
その片隅に小さな箱。
薄ぼんやりと白いそれに視線が合わさる。
俊がそれから眼を離せずに居るとゆっくりと蓋が開いた。
「なっ!・・・」
ゆらゆらと何かが中から流れ出してくる。
それは煙のような、なにか。
見る間に何か形を作っていく。

ー人?

それも見覚えのある姿へと。

「・・・え・・・とう・・?」
ありえないと思いながらその姿は蘭世だった。
困ったような微笑も確かに彼女そのもの。

そうして完全にその姿が現れると俊の方へと歩いてくる。
薄衣を着けただけのその格好は見たことが無いものだった。
金縛りにあったように動けない俊の頬にその姿の手が触れる。

びくんと俊が反応すると戸惑ったように蘭世の手が離れた。
そしてやはり困ったような眼で俊の瞳を見つめた。

「・・江藤・・だよな?・・な・・?」
実体があるのかないのか?
こくんと頷いたその姿がもう一度俊に触れた。
ほのかに温もりを感じたように思った瞬間唇が重なる。

・・夢・・・?

俊は思わず脳裏に浮かんだ言葉を反芻する。
反論するように感じる感触に俊はそっと蘭世の背中に手を回すと抱きしめてみる。
同じように蘭世の手がおずおずと俊の背中へと伸ばされてくる。
俊はそのまま蘭世を布団へと横たえた。
肌そのもののような感触の布の隙間に手を差し込むとそこはしっとりと吸い付くよう。
さっと刷毛を塗った様に蘭世の頬が赤らむ。
手の平で俊がその感触を確かめるように徐々に動かすとそれに併せて布がはだけ素肌が露になっていく。

闇に浮かぶ白い肌。
俊は思わずその胸に見とれた。
羞恥に震えながら蘭世は俊の視線を受け止めていた。
触れた手のひらで小振りな膨らみをやさしく揉みあげると小さく口をあけて息をついた。

甘く、切ない吐息が俊の耳に届く。
その瞬間、俊は我を忘れた。

唇を重ねながら片手を乳房に、もう片方を下腹部へと伸ばす。
少しの抵抗の後俊の指先が布の切れ目を捉え、入り込む。
薄い繁りの奥を目指して。
唇の隙間から熱い舌を絡ませると戸惑い気味に絡めてくる。

びくんと蘭世の身体が跳ねた。
指先が奥の泉に到達した時だった。
強張った身体を押し開くように俊の膝が蘭世の腿を割る。
さっきより動かしやすくなった指先が蜜を強く感じる。
表面を覆うように手のひら全体で包み込む。
蘭世の緊張が解けていく・・・・・
奥から溢れるそれが俊の手のひらを濡らし、滑らかになった指先を少しずつ動かし始める。
「・・・・いいか・・?」
俊が小さく囁くとこくんと蘭世が頷いた。
ゆっくりと無理をしないように俊の指先が蘭世の胎内を探り始める。
最初は入り口を。
浅く出し入れする、その合間に時折少しずつ深くへ。
蜜に助けられてそれほどの苦痛を与えずに、むしろ快楽へと導かれていくかのようにあとからあとから溢れてくる。
それでも胎内はきつく指先を締め付けていく。

俊は蘭世にもう一度深く口付けるとそのまま身体をずらしこみ、蘭世の両足をさらに大きく広げる。
「!!!!」
声にならない声を蘭世があげる。
蜜壷にぬめった熱い何かが押し当てられる。
俊が蘭世のそこに口付けていた
引けそうになる腰を押さえ俊は舌先を先程まで指で触れていた場所に差し込んだ。
その蜜は甘く脳天をしびれさせていく。
下から上へと舐めあげたり、出し入れしたり。
先端に触れた瞬間蘭世の全身が震え、蜜がどっと溢れる。
俊はそれに気がつくと、緩急をつけながら蘭世のそこを愛撫していく。
幾度か繰り返すうちに蘭世の全身が急に強張ると一気に弛緩した・・・・

荒い息をつきながら呼吸を繰り返す。
俊はそんな蘭世の下腹部から身体を起こす。
まだ痙攣をしている蘭世の秘部に自身の高まりきったそれを押し当てる。
意識がそれが何かを認識する前にひくつくそこにタイミングを合わせるように胎内へと分け入った。

きゅっと眉根を寄せながら蘭世の手が俊を求め空中を彷徨う。
俊は蘭世のその手に自分の手を絡ませそしてさらに奥へと自身を突き進めた。
ゆっくりと、時間をかけて。

胎内は熱く、俊を捕らえて離さないかのように中へと誘い込むように蠢いていた。
それでいて拒絶するように押し出そうとする瞬間も。
その感覚が俊の背筋に快楽の電流を走らせ、一気に貫きたい衝動に駆られるのを必死で抑えていた。

ようやく根元まで納まると俊は蘭世をそのまま抱きしめた。
俊の背中に蘭世の腕が回る。
互いの熱を一つになった体勢で感じて身体を回した。

・・え?・・・

考える間もなく俊の視線が天井を向いていた。
入れ替わった状態で自身の身体の上に乗る蘭世の髪が俊の身体を撫でた。
と思うより先に蘭世が腰をくねらせる。
「・・う・・ぁ・・・」
捻れるようなその動きがダイレクトに自身に伝わり恐ろしいほどの快楽が脳天を貫く。
「・・・・え・・・とう・・?・・」
流れるように腰を上下にそして左右に降りその動きに従って長い黒髪が汗できらめく。
美しさに見とれ、快感に翻弄され俊はなすすべもなくそのまま達せさせられる。
「・・・く・・」
蘭世の胎内で自身が爆発しているのがわかる。
それでも蘭世の身体はさらにといわんばかりに覆いかぶさり俊の唇を奪う。
放出したはずのそれは蘭世の胎内でまだというように高ぶったままさらに快感を与えられていた。
うねる腰と別の生き物のように蠢くそこ。
上半身を時折撫でる髪の感触。
見せ付けられる嬌態。
終わる事の無い営み。
抵抗するすべもなく俊は何度目かの放出を伴いながら意識を遠のかせてしまった・・・・



差し込む太陽の強い光で俊は目を覚ました。
頭に鈍痛が走る。
「!」
俊は思わず自分自身を見た。
昨夜の痕跡は・・・何も無かった。
もちろん横に彼女の姿も。
「・・夢・・か?・・」
俊は思わずホッと胸を撫でおろした。
「・・だよな・・・・」
ふと俊は視線を部屋に回した。
白い箱が眼に入る。
起き上がるとその箱を手にとってみた。

ー蘭世へ
  ハッピーバースディ
          サリー

数日前預かっていたそれ。
当日は難しいからと強引においていかれた物であった。

「・・いったい・・・」
中身が何か気になるところだが人へのものなのであけるわけにもいかず俊は悶々としながらもそのメッセージを見て慌てて支度も始めた。
そう、今日は蘭世の家に誕生日ということで呼ばれているのだ。
秋には俊と暮らしはじめる予定にしている彼女の自宅での最後のバースディ。
忘れないようにと玄関にサリからの預かりものの置いて準備をし、時間に間に合うように出かけていったのだった・・・

つつがなくパーティも終わり俊は蘭世の部屋でこっそりと自身の準備してきたプレゼントを渡しながらさりげなく聞いてみた。
「なぁ?」
「何?」
「俺が預かっていたサリからのってなんなんだ?えらく軽かったけど。」
「あ〜えと・・かわいいターバンが入っていたよ。寝る時に使うんだよってメッセージついてた。」
「いや。プレゼントだろうなとは思うけど持ってくるとき軽かったからな。」
と理由にならない言い訳を言うと蘭世はさして気にすることなく
「そうなの?ほらかわいいでしょ?」
かわいらしいレースの薄いピンクのリボンで出来たターバン。
確かに蘭世に似合いそうなものではあった。
「ああ、似合いそうだな。そのデザインなら誰でも。」
「ひっど〜〜い。」
笑い声が響いた。
ふと見ると時計が夜10時を指していた。
「んじゃそろそろ俺も帰るな。明日も早いし。」
「うん、今日はありがとう。来てくれて嬉しかった。」
「ああ・・・・」
帰り際に俊は蘭世にこっそりとプレゼントを渡す。
小さな箱。
でもとても嬉しい、婚約指輪が入っていた・・・・

蘭世はその夜、ターバンと指輪を身に着けて眠りについた。



・・・夢・・・?

蘭世は白い空間に立っていた。
そこは何も無い。
でも、不安ではなかった。

ふと眼前が広がる。

・・ここ・・・は・・?・・

暗い、でも良く知った空間。
眠っている俊が見えた。
ゆっくりと起き上がる姿が見えた。

唇が蘭世を呼ぶのが判る。
わけが判らないままそちらへとゆっくり歩いていく。
固まりきった俊の頬に触れると温もりが感じられた。

・・・夢なのに、暖かいなぁ・・・

びくんと俊がこわばるとなんだか悪いことをしたように感じて手を離した。
見つめるとなんだか不思議な感じだった。
いつもの俊じゃないように。
わけが判らないようにしている、子供のようで。

・・夢、だし・・・

蘭世は俊の唇に自身の唇を重ねてみた。
刹那蘭世は逆に俊に抱きしめられる。
・・・真壁くん・・・・

まだ、怖くて一線を越えられていないけど、夢なら・・・・

蘭世は俊の背に手を廻した・・・・


ピピピピ・・・・
夏の暑い日差しすら気がつかないように蘭世は珍しく目覚ましに起こされた。

「・・夢・・・?・・」
そこは自分の部屋。
自分ひとりのベッド。

それでいて気だるく、甘く痺れるような身体の芯の熱さが残っていた。

「・・そんな・・・・」
蘭世は一人真っ赤になりながら夢を思い出してもう一度布団をかぶった。

・・なんで・・なんで?・・・
下から椎羅が蘭世を呼ぶ声にも返事を出来ない。


・・・も・・もう、次に真壁くんに逢った時どんな顔したらいいのぉ〜〜!!!!
思い出せば出すほど恥ずかしくて仕方がなくなる蘭世なのでありました。

窓から入る風が部屋の片隅に置かれた箱の底の小さな紙をさらに箱の隙間へ押し込んだ。

”蘭世へ                      
 誕生日おめでとう。
 俊くんの夢が少し見れるターバンです。
 ただし彼のところにあるうちに彼が夢を見ればだけど。
 いい夢だといいね。   サリー   ”

・・・これに気付くのはいつになることやら。
そして俊が気がつくのは?

それはいつかのお楽しみで。

おしまい、です。

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