Cherry Blossoms

ひらりひらり

春風に乗って部屋の窓に薄桃の花びら。

・・・・・・・桜・・か・・・・

俊はぼんやりとその花びらを手の平に乗せた。

もう夜も遅い。
先ほど帰ってきていつものように玄関にかけてあった弁当を食べたところ。
ありがたいと思いながら毎日食べているもののなかなかそれを伝えるすべを知らない。

「・・・ふぅ・・・」
ごろりと畳の上に寝転がる。
春にしては温かいその日は窓を開けたままだった。

・・・・・・思い出したのはいつかの花。

異国の地で。
自分ではない自分で。
一瞬、思い出したあの時もー

・・・もうちょっと白かったな、あれは・・・

「桜ももう終わりなんだな・・・」
そう思いながら俊は起き上がり窓を閉めた。


もう一度ごろりと、今度は枕を持ってきて寝転がる。
目を閉じるといろいろなことが思い出される。
そのどこにも彼女がいた。

泣き、
笑い、
拗ね、
怒る、

どの表情も、余すことなく思い出せる。
そしてどの表情も自分にだけ向けられるものがあるとも知っている。

・・・・俺は何をしてやれているんだろう・・・・?・・・

思い返せば、何もしていない気がする。
そう考えながらいつしか眠りに吸い込まれていく・・・・・

「・・真壁くん・・・?」
「なんだ?江藤。」
「いつもお弁当おいしい?」
「・・ああ・・・」
「そう。よかった。」

そういった蘭世の笑顔が今までに見たことの無いほど輝く。
「じゃ、今度大好きな人に作ってあげても大丈夫だね。」
「・・・!!・・・」
「練習台にしてごめんね。真壁くん。ほら・・・・」
蘭世の指差す先に長身の男の影。
「・・彼なの。じゃ、待っているからまた。あ、今までありがと。」
「え・・・江藤?」
「だって、真壁くん。私のこと好きじゃないみたいだもん。彼は私が大事って。」
長い黒髪を翻し、小走りにその男のそばへと駆けていく。
「江藤・・待ってくれ・・・江藤!!!!」
遠くなり、消えていく彼女の影。

がばっと目を覚ます。

「・・・夢か・・・・」

いやな汗が全身を流れる。

そんなことはありえない。
・・・・否。
そう言いきれるのか?

本当に?

俊は我知らずブルッと身震いをする。


当たり前だと思っていた。
彼女が横に居て、そして横に居るのが自分で。
その笑顔が自分だけに向けられるもので。


「・・・ふぅ・・・」
そうじゃないことだってありえるのだと思い、恐怖を覚えた。


そんなことはだめだ、ゆるさねぇ。

自分のそばから彼女が離れるなんて。
俊は時計を見て、傍らの財布を持って外へ出る。
アパートのそばにある公衆電話。
財布からいくらかの小銭を取り出した。
一瞬のためらい、そしてほとんどかけたことが無い電話番号をプッシュした。




(はい。江藤です。)
「・・こんばんは、真壁です。江藤、居ますか?」
(あらぁ、真壁君。蘭世は今お風呂なの。)
「あ・・あ。そうですか・・・じゃ・・いいです。」
(あ、ちょっと真壁君・・・)
「また、かけます。それじゃ。」
かちゃんと受話器を置くとつめていた息をふぅっと落とす。


・・何を言うつもりだったんだ、俺・・・


部屋に戻るとべったり張り付いたTシャツを剥ぎ取りシャワーを浴びる。
少し温めのそれで上がった熱を冷ますように。
汗が流れていくように俊の気持ちを少し落ち着いていく。

「・・・ざまぁねぇな。俺も。」

夢だとわかっている。
彼女はそんな風に俺に対して思っていないことも知っている。

知っていても、不安になる。

俊は蘭世が影でとても人気があることを知っていた。
幾人もの男が彼女に懸想していることも。
それでもそこはかとない噂で蘭世には彼氏が居るらしいことになっているとも知っていた。
その相手はいろいろと取りざたされていた。

「・・・寝るか、もう。」
これ以上起きていたらまた堂々巡りになる思考にうんざりして俊は布団

を頭からかぶった。


トントン・・・・・・
小さくノックする音で目を覚ます。
外からは明るい光。
枕もとの時計は8時を指している。

トントン・・・・・
もう一度控えめにノックの音。

「はい。」
不機嫌そうにドアを開けるとそこに彼女の姿。
「真壁くん?」
「・・・・・江藤・・・?」
「・・・・あの・・・昨日電話くれたでしょ?それで・・その・・」
「・・ああ・・・」
「今日、日曜日だけど。早いうちなら家にいるかなって・・・練習行く前になんだったんだろうって思って・・・それと・・・」
「?」
「これ・・・・」
小さな包みを差し出す。
「・・・あの・・・今日真壁くん、誕生日だから・・・・」
「あ・・・」

そうか・・・すっかり忘れてた・・・

そんな俊の表情を見て蘭世は別の意味に取り、慌てたように
「あの・・いらなかったら・・その・・」
「いや・・・すっかり忘れてた・・・」
「え?」
「そうか、今日俺の誕生日かよ・・・」
「ええ〜〜〜〜!!!」
蘭世は驚いたように俊を見つめた。
「・・あ〜・・そうか・・・誕生日か・・・・」
「もう、真壁くん・・・・」
「・・・江藤。さんきゅーな。」
「・・・・うん・・・」

沈黙が二人をよぎる。

「江藤。」
「何?」
「プレゼントもありがてぇけど・・・」
「?」
蘭世は不思議そうに俊を見る。
「どっかいかねぇか、今日。誕生日ってすっかり忘れてたけど練習は休みなんだよ。」
「え?」
「用事あるか?」
ぶんぶんと音がするように頭を左右に振る。
「行く!!!」
蘭世は嬉しそうにそう返事をすると
「じゃ、ちょっと待ってろ、すぐ準備すっから。」

・・・・・・あんまりのんびりしてると、なんか邪魔が入りそうな感じするんだよなぁ・・・

と思ったりしたからなのでした。
5分もしないうちに身支度を整える。
「じゃ、出かけるか。まぁとりあえずは・・・おまえんちが先みたいだな。」
蘭世が持った空のお弁当箱の包み。
「うまかったよ。」
「うん!・・・・って今日の真壁くんなんだか変。」
「変?」
「うん・・・」
・・いつもの真壁くんじゃないみたい・・お礼とか、お出かけとか・・
「たまにはいいだろ?」
「あ〜読んだ〜〜だめ〜〜〜!!」
「読んでねぇよ。」
「嘘!!」
・・・・・・たまにはな・・・・
言葉にはなかなか出来ない俊なりの愛情表現だったりするのでありました。
じゃれあいながら道を歩くその姿はどこをどう見ても仲良いカップル。
そんな二人の姿はどこと無く目立つもので実際その事実をも噂として流れていることを二人だけが知らなかったりするのでありました。

蘭世の家に荷物を置いてひとしきり挨拶を済ませると二人で仲良く出かけていく。
「行って来ます、お母さんお父さん、鈴世。」
「夕方までには帰ります。」
俊の誕生日にデートが出来るとあって蘭世の頬は緩みっぱなし。
俊もまたそんな彼女に内心は喜びしきりだったことは俊だけの秘密なのです。



さて・・・その二人の姿が角を曲がり消えうせた頃・・・・・

俊のアパートの前に黒塗りのベンツが横付けされる。
「しゅ〜〜ん〜〜」
とノックするも返事はなし。
「俊?」
再度。
「ええ!!何で居ないの!!!!さては蘭世のところね!!!」
と怒りまくっている曜子の姿。
俊の第六感はいい読みをしていたのでありました・・・・・

End

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