都内某小学校。 
その六年三組では、女子の間にとある遊びが流行っていた。 
それは、いわゆる「プロレスごっこ」。 
きっかけは最近の格闘技ブームに影響を受けたクラスの男子達。 
教室で見様見真似の技を披露する彼らを見て、女子もちょっとした興味をもったのだ。 
せいぜい昼休みとクラブ活動ぐらいしか楽しみのない小学校。 
そんな中で、プロレスごっこがブームになるのにたいした時間はかからなかった。 
ちなみに運動の苦手な子にも、ギャラリーともう一つの楽しみ方がある。 
戦っている二人の勝ち負けを予想し、どちらかに賭けるのだ。 
お金を扱う訳にはいかないので、賭けるのは給食のデザート。 
そんな辺りが、いかにも小学生らしくもある。 
――――― 
「さーなえちゃん。放課後、あいてる?」 
廊下で名前を呼ばれ、支倉早苗はくるりと振り返った。 
「あ、加奈ちゃん。今日は暇だけど?」 
それを聞いて、声をかけた少女―和泉加奈は嬉しそうにガッツポーズをとった。 
「じゃ、付き合ってくれる?この前のリベンジしたいんだけど」 
「いいよー。まぁ、結果は同じだろうけどね」 
早苗は不敵に笑うと、加奈のおでこをぺちっと叩いて逃げ出す。 
「あたっ!こら、早苗ちゃんってば…」 
加奈が追い掛けようとしたときには、加奈は既に曲がり角を曲がっていた。 
「もー…逃げ足早いなぁ」 
三組のプロレスごっこで一番勝率の高いのが早苗、二番目が加奈である。 
身長が高くて運動神経も良い加奈が強いのは当然なのだが、早苗は小柄で見るからに華奢だ。 
しかし彼女は小さい頃から柔道を習っているので、さすがの加奈もあっさりと負けてしまった。 
それでも、加奈がこうしてリベンジを申し込んだのには理由があった。 
「早苗ちゃん、今日は勝たせてもらうからね…」 


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