印象でいえば、ただの気取り屋。
よく知ってみてもやっぱりただの気取り屋で傲慢人間で、やっぱり前社長と親子だった。
白いスーツはどこのヤクザな兄さんだよとツッコミを入れたかったが、程度が軽かろうが重かろうが批判しようとすれば、あの、男にしては線の細い綺麗な顔で素気無く睨まれるのは想像に難くない。
黙っていればいい男だ。本当に。
綺麗な金髪をしているし、切れ長の目もすらりとしていてしなやかな体躯もいい。頭もキレる。俺の思ういい男の範囲内に当てはまるのだが……如何せんちょっとやっぱり性格が。
意地っ張り、傲慢、ナルシスト。そんでもって超我儘。それでも俺が何故か憎めないのは、時折妙な無茶をしたりするあの人が、稀に、本当に極稀に愛しくさえ思えてしまうからなのだろう。
「レノ、るー君の今日のスケジュールは?」
シュン、と機械音をさせて開いたタークスの待機室に顔を突っ込ませて、俺は仕事中にも拘らず咥え煙草のままレノとその相棒のルードに尋ねた。イリーナとツォンはいない。
「……社長をそうやって呼ぶ豪傑はぐらいだぞ、と…」
やる気もなさそ気にレノは横になっていたソファーから身を起こして俺に視線を寄越した。相変わらず原形も留めていないほどに着崩したタークスの服は皺が出来てよれてしまっているがレノは気にした素振りは見せていない。
「そうか?」
「命知らずだぞ、と。あの傲慢王子様に親しく出来るのはツォンさんとだけだぞ、と」
「そんなことねーって。レノも呼べばいいじゃねえか」
「……」
指先で煙草を摘み紫煙を吐き出しニヤリと笑う。心底レノが嫌そうな顔をしたのを声を殺して笑い、レノ程ではないにせよ、もタークスの服を着崩してレノのすぐ隣にどっかと腰を下ろして足を組んだ。
「…俺は知らないぞ、と」
「そーか」
それは呼ぶことで起きるお咎めのことなのかスケジュールの話なのか……おそらく両方だろう、不愉快そうにレノは鼻の頭に皺を寄せて背凭れにぐったりと背中を預けて黙り込んだ。
レノが黙ってしまえばルードは元々喋る性質ではないから、自然と重く沈黙が落ちる。煙草の火をもみ消して、だらりとしているレノへと視線を向ける。
「どしたのレノ。二日酔い?」
「その通りだ」
「うるさいぞ、と」
ルードの正直な発言に苦々しいレノの声で返されて、やっぱり三人揃って黙り込むハメになる。
不意に扉が音を立てて開かれる。騒がしい足音と同時に甲高い声が室内に響き渡った。
「あ、先輩。こんにちわ、珍しいですね!」
「悪かったな珍しくて」
「が中々顔を出さないからだぞ、と」
「しょうがないだろう。るー君はまだ就任したばっかりで出かけてばかりだから、護衛があるんだ」
「………るー君?」
きょと、と愛らしく首を傾げるお騒がせ娘の姿にレノが呆れたように息を吐き、俺は話を反らせるように苦笑を漏らして腰を上げた。
「イリーナ、ツォンは?」
「もうすぐ来ますよ、先輩」
にっこりと笑顔を浮かべて尋ねれば、イリーナもにっこりと笑みを浮かべて答えてくれた。
「相変わらず忙しいのかツォンは」
「最近はクラウド達の一件もあるからだぞ、と。それにキャハハとガハハの二人もまた何かに手出してるらしいぞ、と」
「…それは大変だ」
「中間管理職も大変らしいぞ、と」
いつの間にか隣までやってきていたのか、レノが俺の肩に肘を置き顔を合わせて忍び笑う。
タークスも所詮神羅社員の一人で、デスクワークが無いわけではないが、基本的にタークスは裏任務が多い。
暗殺からソルジャー候補の拉致、破壊工作までやってのける俺らは、言わば体を張って神羅に貢献しているガテン系で、社長の護衛もすればなんだってする。
仕事内容が内容のせいかタークスの連中…特にレノとは異色的な存在で、ツォンはソレを一人でまとめていることになる。そういう苦労も耐えないが、他の部門の頭もかなり異色なせいか、ツォンはやっぱり苦労が耐えないみたいだ。
多分自身が知っている神羅範囲内のまともな人は、………リーブとツォンぐらいだった。
シュン、と音を立てて開いた扉に視線を向けて現れた黒い髪の男に、俺は笑みを浮かべて名前を呼んだ。が、それは急に驚いたように目を見開かれて固まった。
「やっぱり来ていたのか」
ツォンは苦労も見せない静かな表情でを見遣って薄く笑みを見せた。しゃんと伸びた背筋と、きっちりと後ろに撫で付けられた黒くて長い髪。
つられて笑みを浮かべたが、しかしそのすぐ隣で不愉快そうに顔を顰めている金髪碧眼の青年に睨まれた。
「」
「―――……るー君どうしたのこんな所で」
「ルーファウスもしくは社長と呼べと何度言ったら分かる」
顔を顰めてより頭半分ほど高いルーファウスに耳を容赦なく引っ張られての顔が痛みに歪む。
「ぁいだだだだ、るー君痛いよ、痛いって」
「まだ分からないか」
声を薄ら寒く感じるほどに潜めて、ルーファウスは射殺せるのではないかというほどの視線で氷のオーラを放ってくる。差し詰めそのオーラはブリザガ、否、召喚獣シヴァの放つダイヤモンドダスト以上だ。
「…すんませんルーファウス社長様…」
「わかればいい」
ふん、と鼻を鳴らしてようやくルーファウスは手を離した。ひりひりと痛む耳朶を指の腹で撫で摩る。
「、出掛けるぞ。仕事だ」
「はいはい、わかりました」
「返事は一回」
「…はーい…」
「ツォン、借りていくぞ」
「はい」
ツォンが頷くと分かっていて、さっと踵を返し足を進めていくルーファウスの後をは追った。
いつもの白いスーツに身を包み、ヘリコプターに乗り込むためにさっさとエレベータに乗り込んで階数を押す。中に身を滑り込ませ、ガラス張りのエレベータの中から外を見遣れば、スラム街の空を覆う円盤の向こうが見え隠れしていた。
視線を外から、増えていく階数の数字を睨んでいるルーファウスへと移動させる。
しゃんと伸びた背筋と、少しも乱れのない整えられた金の髪。
「っていうか……わざわざあそこまで迎えに来たのか、ルーファウス?」
不意に疑問を口にする。用事があればわざわざ足を向けなくとも呼びつければいいものを、待機室にまで顔を出すなんて本当に珍しいことだ。
ツォンは兎も角、イリーナもルードもレノでさえも、突然の社長の登場に固まっていたな、と今更ながらに思い出す。
「たまたまだ」
「たまたまねぇ」
「……何だその顔は」
「その顔ってどんな顔?」
「…。」
向き直ったルーファウスとばっちり顔をあわせて互いに口元を歪ませる。
「ふん…、私が迎えに来て嬉しいなら素直にそう言え」
「まさか。」
ルーファウスの不遜な言葉に、はあえて思い切り肩を竦めて呆れたように息を吐いてやった。
ぐんぐんと上昇するエレベータは、途中で止まることなく階数を重ねていく。
「な、ルーファウス。今夜暇か?」
「暇ではない。……生意気で愚鈍で不従順なペットを飼いならすので手一杯だ」
事も無げにそう言い、視線をゆっくりとへと向けてくる。
「……まさかそれ……」
「お前のことだ」
ズッパリと言いのけられて嫌そうな顔を思いっきりしたら、意地悪げに口元を歪めて笑われた。
顔を苦々しく歪めて、脳裏にルーファウスの可愛がっていたペット……黒豹みたいなあいつ(あれは多分魔物だ)が思い浮かんできた。
従順に喉を撫でられ気持ち良さそうに目を細める自分、ルーファウスの膝に侍っている自分……そんなものを想像して軽く眩暈がした。
暗にの誘いに乗ってくれることに間違いなかったが、嬉しい反面複雑だ。従順?飼い慣らす?…そんなのごめんだ。
ゴゥン、機械音をさせてエレベータは到着した。
ルーファウスが何事も無かったように足を進めていくのをは仕方なく追っていく。とりあえずは仕事だ、気を引き締めておかねばこの傲慢お坊ちゃまに何を言われるか分かったものではない。
外からはヘリの高速で回る耳を劈くような羽音が聞こえ、風圧でルーファウスのコートを翻らせた。
「さっさとしろ、」
「はいはい」
既にヘリに乗り込んでいるルーファスに俺は肩を竦めて足早に乗り込み、ヘリは間も空けずに目的地へ向けて浮かび上がっていった。
****言い訳
兎に角社長夢が書いてみたかった……んだが途中で力尽きたのがバレバレですねorz